王女お披露目と王国の動向

 新たに生まれた王女はソフィアと名付けられた。王城のバルコニーで魔王夫妻とともにお披露目される。それはいい。おめでたいしな。だが……なんで俺とバルドまで?


「「「魔王陛下万歳! ソフィア王女万歳!」」」

 うん、この子も並みじゃないと思った。浮遊魔法を生まれつき取得していて、ふわふわ浮いている。あぶーとかだあーとか言いながら天使のような微笑みを浮かべてちっさい手を振っているように見える。

 国民の熱狂はとどまるところを知らない。笑ってるところと哺乳瓶をパクってやってるところと、すやすや寝てるところを何種類か写真にして、ブロマイドキャンペーンやっといた。

 バルドが妹を抱き上げてあやしているところにうちの子たちが笑顔でまとわりついてるところとか、永久保存版である。魔王夫妻には特大パネルをプレゼントしたらとても喜んでいただいた。

 そうそう、黒騎士バルドの出生の秘密、ある意味公然の秘密であったこと。現魔王夫妻の子であることも正式に発表された。王都防衛戦で先陣に立って戦った姿は王都市民の目に焼き付いた。そして普段無表情キャラなのに俺のそばにいるときや子供たちと一緒にいるときには優しい微笑みを浮かべるところもだ。

 平たく言うと、ギャップ萌え? まあ、あれだ。ブロマイドは高値で取引されているらしい。


【おにーさま?】

「うえ?!」

 いきなり脳裏に鈴を転がすような声が響いた。

「あ、父上、ソフィアちゃんだよ」

「どういうこと?」

「ばーばのお腹にいるときからお話してたの」

「念話ができるのかよ。末恐ろしいってレベルじゃないな」

 ひとまず返してみた。ソフィアちゃんの顔を見ながら念じる。

【ソフィアちゃんでいいのかな?】

【あい! パパとママを助けてくれてありがとなのです】

【君のお姉さん、バルドのパパとママだからね。当たり前だよ】

【あい、それでもありがとなのです。それで…‥おねーさんはきれいですねえ】

【そうか、わかるか! そうなんだ……(以下ノロケが延々と続く】

 ズビシッと後頭部にチョップが炸裂する。

「お、おう?!」

「旦那様、念話は魔力を使う。ソフィアが目を回してるのに気づきなさい」

「え? あ!?」

「後、旦那様、嬉しいけど、妹にそんなことをばらさないで。ぽっ」

 うん、うちの嫁可愛い。かわいいからこんやはねかさないぞー(棒

「もう、……莫迦」


 さて、ノースウッドは何度か襲撃があったが撃退に成功したようだ。素材の蓄積も順調で、そろそろ新商品が出せるらしい。いっぺん顔出さないとな。

 そして王国方面だが、レイル王子が正式に王位を継ぐことになったらしい。戴冠式への出席の打診が来ていた。モモチ郵便網すげえな。魔国からはヴァラキア伯カイン卿が出席することになった。

 よく考えたらほんの2年ほど前まで戦争してたんだよなあ。それがこうやって交流することになったことはすごいと思う。(小並感

 というか、添え状に書かれていた内容が気になる。戴冠式は囮で、四天王とやらを呼び寄せるために行うとか、しかもそれは当事者には知らせてないとか、あの王子は猪武者なのでそれやったらまずいとかさんざんだなおい。

 まあ、実力もわきまえずに魔王陛下に挑んだのは……うん、やっぱあほですわ。


「こちらを発つか」

「ええ、王国の戴冠式に出ますので」

「カインを同行させよう。つってもお主の方が強いわけだがの」

「いえいえ、カイン殿も剣士として名を上げたとか」

「ヴァラキアに向かった別動隊を撃破したとの話は聞いた。何人かあの辺の領主が討ち死にしておってな。いっそ統轄させて辺境伯にするかと話しておる」

「ならば、王国に出向いて外交の実績とかあったら箔が付きますね」

「そういうことじゃ。向こうではきな臭いうわさも聞くでな」

「ぶっちゃけると、カイン殿を無事帰れるようにしてほしいってことで?」

「義理とはいえ息子故な。ジェイドが悲しむ顔を見たくないのもある」

「のろけましたな」

「わるいか?」

「結構なことです。バルドを生んでくれたこと。その一点だけで私は陛下に多大な恩がありますので」

「うむ、婿殿。バルドを幸せにしてくれてありがとう。あの子があんなに柔らかく笑う顔を見てあの子を産んでよかったと今更だが思うておるよ」

「バルドは任されました。ソフィア王女をしっかりと守ってあげてください」

「ふふ、承知したぞ」


 こうして俺は魔国を発った。カイン卿率いる兵100名が護衛と言う名目でくっついている。10日ほどでラグランに着き、そこからさらに10日の旅程だ。本店で2日の休息をとる予定である。

 そういえばカイン卿は未だ独り身らしい。うちの女性店員に言い寄って肘鉄を食らったとかいろいろとうわさはある。哀れな義兄に幸せがやってきますように。

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