王国の騒動
「どういうことですか!?」
ここは王都、大会議室である。私ことジョゼフはレイル王子と共にダンジョン探索から帰還した。モモチ衆の諜報によって、レイル王子を陥れようとした一派と、リッチ襲来の際に逃亡を図ろうとした不届き者どもをまとめて追放処分と告げたのである。
冒頭の悲鳴はその声だ。声を荒げたのは商人ギルドのマスターであった。不届きな貴族と組んで新興商人を陥れているとの黒い評判が絶えない男である。
他にも迎撃のため出兵を命じた際に逃亡を図った貴族や、物資の販売を拒んだ商人たちをまとめて追放した。有事の際に協力を拒む者は我が国にはいらん!
実際のところ、ラグランが亡びたら逃げる先などないのだがな。近視眼的に過ぎる。災害級モンスターの発生地点に王子がいるなど確かに亡国の危機ではあるか。
だが、普段特権をむさぼっておいていざというときに自分だけ逃げるということは許されざることだった。
連中はいまだに大声で自分の無実をわめきたてている、実に見苦しい。そしてそんなさなか、レイル王子が口を開いた。
「諸君らに問おう。我が遭難したと知ったとき、諸君らはどこにいた? 何をしていた?」
彼らは黙りこくった。少なくとも王都かその周辺にはいたはずだ。
レイル王子が言葉を重ねる。この一件で王子も成長されたようだ。以前ならば剣を抜いて言葉を荒げていたことだろう。そこが王にふさわしくない粗暴な人物という評価にもなっていたのだから。
「我が友人たるケイタ殿は、レベル1にもかかわらず、自ら手勢を率いて駆けつけてくれた。諸君らの中でレベル一桁の者はまずおるまい。レベル1など赤子のごとき存在だからな。諸君らはケイタ殿よりもレベルが高く、財を持ち、力があった」
あったと過去形でいうあたり王子も人が悪い。だが連中はその言葉尻すら理解しておらぬ。
「して改めて問おう。諸君らは亡国の危機に何をしていた? 国民を守るべき特権階級である諸君らは、何をしていたか聞いている! 答えぬか!」
ダンジョンの最深部で視線をくぐった。無数のアンデッドを相手に絶望的な戦いに臨んだ。終わりなき戦いに身を投じた。友を信じて。仲間を信じて。
そのことがレイル王子を一回りも二回りも大きく成長させたのだろう。もともと武断的なところがあったが、今はそれだけに非ず。他者を信じ、用いる王者の器を感じさせる。
「そのケイタとは何者ですか?」
「貴様、我が友を何者と言うか。まあ良い。先だっての魔国との講和をまとめ、あの魔王相手に一歩も引かず向き合った男だ。レベル1であの魔王と向き合うことは素っ裸で吹雪の中に立つことに等しい。その命は風前の灯ということだ。諸君らの中でそれをなし得るものはいるか?」
沈黙が場を覆う。かのケイタ殿は見た感じは普通の青年だ。だがいざというときにはすさまじく腹が据わる。私との商談に一歩も引かない人物など王国にどれほどいるか。それも後ろ盾のない一介の商店主である。
「我も絶望を感じたのは事実。人は弱い。いくらレベルが上がろうと、良き武具に身を包もうとな。故に機会を与える。まず、自分の行いを恥じることがないと言えるもの、名乗り出よ!」
さすがに誰もがうつむいたまま名乗りではしなかった。そりゃそうだ。モモチ衆の諜報脳力には定評があるからな。
「なれば、諸君らに一つ試練を与えよう。ラグランの地にて1年を過ごすのだ。ただし、身一つでだ。かの地はいろいろと厳しい。そのことを身に刻むがよい。そして自らの行いを振り返るがよい」
こうして、リッチ騒動というか、魔国との敗戦に端を発した騒動は終結を迎えた。いろいろと失ったものは多い。多くの兵が倒れたし、物資も失った。敗北によりレイル王子の基盤も揺るがされた。
しかし、その敗北に負けず、再び立ち上がろうとしたことで、ある意味魔国との敗戦以上に危険な試練を乗り切ることができたことは不幸中の幸いというべきだろう。
王子も人間的に大きく成長した。これならば王国の未来も明るいだろう。
「ジョゼフよ。ケイタ殿に何か礼がしたいな。良き知恵はないか?」
「そうですな。彼の人物、地位や名誉にこだわりませぬ。なれば、王都にて商売の権利を与えるというのはどうでしょうか?」
「いいな! なれば使者を出してすぐに伝えようではないか!」
そしてすぐにラグランに向け使者が出発した。復命した使者がもたらしたのは、魔国で支店を開くために不在との情報だった。
「こうしてはおれぬ! 魔国に取り込まれる前に我らも動くのだ!」
行き先はヴァラキア領とのことで、王子はすぐに自らのグリフォンに跨って飛び立ったのだった。
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