進撃のコンビニ(決戦前
テハスの神殿。封じられた地に眠るとされる、光の聖霊曰く大魔王が封じられた場所。
大魔王の眷属は闇の大聖霊が眠る地として、光の魔女から守り抜くことを命じられたという。
そして、今ついにその神殿を包囲するところまで来ていた。といっても崖に入り口がくっついているような構造なので、入り口に向けて簡単なバリケードを作り、弓兵の射線を入り口に集中できるようにしている。敵兵が打って出たら即座にハリネズミだ。
と言うような準備を整えている最中だった。そして、光の聖霊に言われたリミットはあと5日。遅くても明日には突入しないといけない。
「まあ、よくあると言えばよくあるよね」
「そうなのか?」
バルドがちょいときょとんとしている。
「正義をかざして相手を攻めると、同じくらい説得力がある正義を向こうが持ってるってことさ。二つの村がある。人口も同じくらい。片方の村が飢饉になった。けど収穫は一つの村を養う分しかない。どうする?」
「なるほど、理解した。戦が起こる最も単純なケースだな」
「そういうこと。実際、争いを減らしたという自覚はある。けど人が増えれば食わせていくのはどんどん難しくなる。そこの矛盾をどうするかだね」
「発注すれば食料が出てくるこのコンビニと言うやつは恐ろしいな。考えようによっては無限に人を養うことができる」
「実はそうでもないんだ。発注できる上限はあるし、資金が不足すれば発注できない。普通の商売みたいに借金してっていうこともだめ」
「それは……考えようによっては恐ろしいな」
「そう、今の人口ならいいけども、コンビニの供給できる上限を超える日がいつか来る。だから産業を育てている。コンビニはあくまで補助にしかならない。だから、各自で食っていける環境を整えてるのさ」
「それでも、今のコンビニをうまく利用すれば、世界を支配できるぞ?」
「正直、面倒だ」
「面倒とな?!」
「俺の望みはね、家族が幸せに過ごせることだ。前にも言ったけどね。だから、正直今の地位はどうでもいい。この騒ぎが終わったらただのコンビニ店主に戻りたいもんだね」
「そのコンビニ店主が世界を動かす原動力なのじゃがなあ」
「ま、俺の頭の中はいつでもどうしてこうなった? ってぐるぐるしてたんだけどね」
「ふむ、旦那様らしいのう」
そうこうしている間に突入の準備が整ったようだ。とりあえず全軍の指揮を盛り上げるための演説をしろとバルドにせかされた。
「よくぞたどり着いた我が精鋭たちよ!」
どこの風雲何とか城かと突っ込みたくなるがスルー。
「私の望みは、家族と幸せに暮らすことだ。それ以上でも以下でもない。そして、大魔王の復活はそれを脅かす可能性がある。故に排除することにした。はっきり言ってしまえば、私の動機は私情だ。だが、自分の胸に手を当てて考えてほしい。主君や国家への忠誠の根底にあるものを。それは仲間であったり家族であったりしていないだろうか?
私はそのすべてを肯定する。世界のために戦うやつ何ぞ、うさん臭くて仕方ない。嫁さんや子供を守るため、その手段が今この遠征に参加であると、それくらいでいい。世界の命運なんざどうでもいい。ただ、世界が壊れたら嫁に会えなくなる。子供の笑顔が見れない。それってさ、どうよ?」
「「「のおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
すっごい悲哀に満ちた喚声が上がる。
「あ、すまん、独り身は友を守るとかでもいいぞ。もしくは気になってるあの子にいいところを見せたいとかでもいい。けどな、それをしたいならまず必ず生き残れ。死んで花実は咲かない。お前が口説こうとしてるあの子は、お前が死んだら誰かのものだ。お前のものにならない。だから何が何でも生き残れ!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
「戦う理由も生きる理由もそれぞれでいい。けどそれを心のど真ん中において誰にも譲るな。誰かのために生きるんだ。それを忘れないでもらいたい」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
「うん、わかってくれたみたいだな。じゃあ、行こうか。最後だ、出し惜しみはしない。皆全力を尽くしてくれ! 以上だ!」
兵たちは各自の指揮官のもとに編成されてゆく。人も亜人も魔族もなく、あらゆる種族がここに集う。あ、一部リザードマンとか寒さに弱い連中はここにはいないか。
さて、俺もバルドやノブカズ君を引き連れ先陣に立った。
「あ、来る!」
ナギが唐突に叫ぶ。そして俺は魔法防御結界を最大出力で張り巡らせた。その結界を薄いガラス細工のように貫いて飛び込んできた矢が俺の胸を貫いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます