対決、闇の勇者

「旦那様!」

 バルドの悲鳴が響き渡る。そして俺の姿は多分、多は目に見ればそのまま揺らいで消えたように見えたのだろうか? 俺の姿は一度消えて矢が当たらない程度の場所に再び現れた。

 後にはひらりと人型の紙が中央に穴が開いた状態で落ちている。

「ふう、空蝉の術、ならっといて正解だった」

「あなた、お見事です」

 さらっと流したつもりだったが、バルドが涙目でしがみついてきた。

「うーー!!」

「すまん、驚いたか?」

「当り前じゃ!」

「あらゆる魔法効果を無効にする武器とかありそうじゃん。だから保険をかけといたんだよ」

「むう、あらかじめ教えておいてくれ。心臓に悪い」

「あー、ごめんな」


 うん、周囲の目線が生暖かい。やめろこっち見るな。


「さすが魔王、一筋縄ではいかぬか」

「誰が魔王じゃ!?」

「あれ? 闇の聖霊を脅かし、世界を支配しようとしている魔王ってあんただろ?」

「ざっけんなボケェ! そんな肩書要らんわ!」

「って、あれ? なんか会話が成立すると思ったら、あんたも転移者か?」

「お前が四人目か。引っ張るだけ引っ張ってようやくと言うかなんというか」

「ふん、なんとでも言え、俺の名は黒虎大河くろこたいが漆黒の闇の王子にして夢魔の貴族ブラックタイガーの異名を持つ!」

「旦那さま、ブラックタイガーって?」

「うん、エビフライの中身だ」

「おお、どこかで聞いたと思ったのじゃ!」

「誰がエビじゃあああああああああああああああ!!!」

 なんだこの中二病患者。痛々しすぎる。

「はいはい、わかったぞ海老男君」

「どっかの歌舞伎役者みたいに呼ぶんじゃねえ!」

「それえびぞー」

「どやかましいわ!」

「はいはい、んじゃエビフライ食うか?」

「俺が甲殻類アレルギーだと知っての所業か!」

「知らねえよ……っていうかすまん」

「ああ、いえいえ。気にしないでください」

「うん、わかった。じゃあ、唐揚げとかどうかね?」

「マジっすか! こっち来てまともな飯を食ってないんで助かります!!」

「んじゃこれな。100ゴールドね」

「はい? ごーるど?」

「って金持ってねえのかよ!?」

「ねえよ!?」

 うん、なんかこいつ面白い。からかい甲斐がある。

「っておい、時間稼ぎされちまったぜ。と言うか、ここは通さねえ。あと3日、ここで足止めされてるがいい」

「なに!?」

「あ、間違えた、5日ね」

「お前実は頭弱いだろ?」

「んなわけあるか!」

「じゃあ、芸人はなわの出身県は?」

「ふ、簡単だ。佐川県!」

「混じってんぞ? 佐賀県じゃねーか」

「あ……」

 うん、すごい勢いで耳まで真っ赤になってゆく。おちょくりすぎたか。

「もういい、いっぺん……死んでみやがれ!」

 海老男君はタブレットに指を滑らせる。

「くらえ、無尽なる宝物庫より来たれ伝説の武具よ!」

 慌てて結界を張る。物理、魔法の両方で最大出力にした。

 一本の槍が飛んできて弾かれる。解析するとグングニルと出た。おいおい。

 雷を纏った剣が飛来する。カラドボルクらしい。動きを止めるまで何度も飛んできた剣があった。フルンティングらしい。魔法結界を切り裂いた剣は、バルドによって防がれた。グラムだった。伝説の名剣とか魔剣がどんどん飛んでくる。どこの英雄王だ?

 こちらの神器持ちが飛んでくる武器を弾き続ける。一般兵は後方に下げた。ちょっといい武器防具くらいではあれは防げない。受け止めた武器ごと両断され、防ごうとした盾ごと貫かれる。そういうものだ。

 さて、とりあえず状況を打開するために手を打つことにした。

「ドーガ、あれは飛び道具だ。アイアスを使え!」

「承知! 飛来せしもの、全て我が盾の前に防ぎ切る。我がドーガの名において命じる! 神器開放、アイアスよ、その力を我が前に示せ!!」

 最前列に躍り出たドーガが盾をかざして盾に魔力を注ぎ込む。飛んでくる武器はアイアスの盾に防がれ次々と地面に落ちる。落ちた武器を回収してやろうかと思ったが、次々と消滅してゆく。そういうことか!?

「あれは偽物だ。魔力で形だけを作って、一時的に神器と同じ力を持たせる。使用制限が1回の使い捨てってことか」

「ふむ、良く気付いたな。だがここには闇の聖霊王より無尽の魔力をくみ上げられる。要するに俺の残弾は無限と言うことだな。どうする?」

「こうする!」

 俺は杖を地面に突き立て、魔力の流れを探る。地底深くより湧き上がる魔力の流れを感じ取り、海老男君に流れる魔力をカットした。

 あのタブレット自体にも魔力を蓄えられるようだ。だが今のようなペースで攻撃をしていればそう長くは持つまい。

「むう、大元を断ち切ったか、だがな……モバイルバッテリー!」

 お前はドラ〇もんか!?

 バッテリーを接続するとタブレットの魔力が膨れ上がる。

「これがあれば72時間は持つ。そっちの盾はそれだけ持つかね?」

「ふん、見くびるな。軍曹殿のしごきに比べれば大したことはない!」

「うっわ、魔王ひどいな。どんだけブラックなんだ。部下をどんだけこき使ってるんだよ……」

「やかましいニートが!」

 こうして不毛な言い合いと共に時間が過ぎ去ってゆく。大魔王復活まであと4日と14時間となっていた。

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