自壊する勇者
「お前みたいなブラック経営者がいるから俺が働けないんだよ!」
「は? 引きこもりが何をぬかす? そういうことはしっかり仕事をしてから言え。まず自分の食い扶持も稼げないようなへっぽこがえらそうに権利を言うな!」
「ンだとコラ?! 無能な経営者の下で使いつぶされる労働者の立場わかってんのか?」
「無能なバイトを使う方の立場もわからんくせに口先だけは達者だな?」
先ほどからこんな感じで、攻撃は飛び交っていないが口撃は激しくなる一方である。
その間に空気を読める部下たちが周囲の探索や休息などを行い、体制を整えていた。結界アイテムなどを使用することも忘れない。ただ、神器レベルの攻撃を防げるものではないので、気休めに過ぎないが。
「地獄へ落ちろブラック経営者!」
「はっ! 妄想を抱いて溺れ死ね! NHK名誉会員が!」
「ちなみにNHKって何の略だ?」
「N 日本 Hヒキコモリ K協会 に決まってんだろ?」
「うん、わかったぞ、死ね!」
「返り討ちにしてくれるわ!」
ついにタブレットからの攻撃が再開された。そしてそれを魔弾で撃ち落とす。
「うっわ、マジか。模造品とはいえ神器の攻撃を魔弾で撃ち落とすとかどんだけ?」
「さすが旦那様じゃ」
「なんかどっちが魔王かわかりませんね?」
「てんちょ、すごーい!」
「とりあえずノブカズ殿」
「バルドさん、あの間に入れっていうのは無しね。無理」
「むう、旦那様の一番弟子じゃと言うに」
「俺人間なんで」
「そうか、うむう」
一発撃つたびに大きく魔力が削り取られる。魔弾に込められる全力じゃないと力負けするのだ。同時に飛んでくるのは多くて5本。これが増えると均衡が崩されるなと若干冷や汗をかきつつ魔力のためを作る。
ある程度の先読みで必要数のためを作っておく。避けられるものは避けるが、よくある、相手に当たるまで飛ぶとか、必ず相手を貫くとか、心臓に刺さるまで云々とか……そういえばゲイボルクは飛んできてないな。あれが来てたらやばかった。
宙に弓が現れ、勝手に引き絞られ上空に矢の雨を降らせる。雨の範囲から逃れるため後ろに飛ぶ。その隙を縫ってポーションを流し込む。
「てめえ、戦闘中にドリンク飲むとか余裕だな!?」
「ああ、ちとのどが渇いてな」
「くっそ、俺はここに呼び出されて3年、かろうじて濁ってない水とか薄いかすかに塩味のするスープとか、もちろん具なんぞない、石みたいに硬いパンとかしか食べてないのに。ずるいぞ!」
「と言うかだな、そのタブレット、武器しか出せんのか?」
「え? そういうもんじゃないの?」
「同じようなのもってるんだけどな。コンビニの発注用端末で」
「コンビニだとう!?」
「お、おう」
「唐揚げ弁当が食いたい……カップ麺が食べたい……炭酸が飲みたい……うがああああああああああああ!!!!!」
うん、壊れた。まあ、現代日本の食生活に慣れたやつが中世ヨーロッパレベルの食生活にはまず耐えられんわな。
ふと気づくと攻撃は止まっている。その合間を縫ってマジックポーションを服用しておく。同時に周囲に散った魔力を吸収し少しでも余力を蓄える。
「相変わらず旦那様の魔力操作は人間離れしておるの。あれだけの魔力弾のためを作りつつ同時に魔力を循環させて回復させる。ついでと言わんばかりに周囲に散った魔力を吸収するとか。と言うか、あの規模の魔法戦を長時間維持できるだけでも出鱈目じゃ」
「ほえー、店長ってすごいんですね」
「あれを基準にしたらいかんぞ。人間離れしているという言葉がかわいく見えるのじゃ」
「どんだけですか……」
「まあ、もともとのスペックと言うか、それも高い。リッチと戦うと言い出した時、我らは死を覚悟した。生きて帰るなんて思えなんだ。じゃがただひとり生きることを諦めなんだのが旦那様じゃ」
「ああ、聞きました。ウォーターガンで聖水ばらまいてアンデッドを駆逐するとか、あの発想は意味不明です」
「じゃろ? だから今度の戦いも何とかするんじゃないかと思うておる」
「そうですねえ、なんかやらかしてくれそうな気がしてきました」
そして唐突に海老男君の声が響き渡った。
「あったあああああああああああああああああああああああ!!」
タブレット画面を必死に凝視している。
「これだ! いでよ〇王!」
空間からカップラーメンが出てくる。生めんタイプ初の奴だ。そしてそれはこちらに飛来し、結界に弾かれて搔き消えた。
「んだとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
海老男君の絶叫が再び響く。その声は哀愁と怨嗟に満ちていた。
「そうだ、こうすれば。いけ!」
再びカップ麺が召喚される。1.5倍を売りにしている奴だ。たっぷりのお湯で戻すからめんのコシが違うと評判のやつ、が上空に向けて射出され、そのまま落ちてきて海老男君の手の中に納まり、そのままさらさらと崩れ落ちた。
使用回数1で飛び道具扱いだからなあ。撃ちだされて何かに当たった時点で使用回数の判定が入るんだろうなあ。と言うか見てて気の毒になってきた。
海老男君は見つけた光明を自らの手で打ち砕き、その場に崩れ落ちていった。
うん、俺何もしてないんだけど。
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