大魔王との邂逅

「もう……疲れたよパト〇ッシュ」

「寝ろ」

 とりあえず海老男君を張り倒す。彼は吹っ飛ばされながら幸せな笑顔を浮かべていた。おそらくマッチの火の中にケーキやカップ麺や空揚げを幻視していたのだろう。

 あまりの決着に周囲はポカーンとしていた。そうだよな。まさかあんな成り行きで自我が崩壊するとは思わなかった。食い物の恨みは恐ろしい。

 とりあえずタブレットを奪い取る。言語認識阻害状態だったが、解呪できた。海老男君と会話できたのは、おおもとの言語が日本語だったからだろう。一応彼にも解呪を施す。

 目を覚ましたら通常の捕虜と同じ扱いをするように命じて連行した。


「進もう」

 皆に一声かけて神殿の奥に進む。何か魔力が脈動している。大魔王の脈動のように感じられた。そしてそれは周りの者も感じているようだ。そりゃまあ、こんだけあからさまに出てればね。


「なんて強大な魔力なんだ……」

「そうだねー、けどさ」

「なんだいナギ?」

「てんちょの方がやばくね?」

「……たしかに」

「だよねー。てんちょの強さってもはや神殺しレベル?」

「だとしたら、まさしく人外だな」

「だよねー」


 人の事を好き放題言ってやがる。けど、確かにこの強さであれば勝てそうだとも感じていた。

 それは今まで3か所の拠点を落としたことと無関係ではないのだろう。光の聖霊が高じた大魔王弱体化の手は功を奏していることになる。ただ、それがどのような結果を招くのかはまだわからない。

 なんというか、あの光の聖霊とやらがまるっきり信用できないのが原因ではある。一応自分の眷属を守ろうとしているし、世界の維持を目的にしているのはわかる。

 光と闇の大聖霊たる彼らはどちらが欠けても世界を維持できない。そしてそのバランスが極端に崩れてもいけない。

 闇の大聖霊はそのバランスを崩すことで世界を滅ぼそうとしている。それは自らの消滅とイコールであるとしてもだ。そうなるに至った理由はなにも聞かされていない。

 そう、彼らの真意がわからないのだ。それこそどちらも世界の消滅を願っているのかもしれない。だが、こっちはそうされても困るのだ。世界が滅んで、俺たちは元の世界に戻れるかもしれない。だが、嫁と子供たちはこの世界の住人だ。一緒に戻れる保証がない。だからなんとしてでもこの世界を守らないといけないのだ。

 そのためには手段を選ぶつもりはない……。

「旦那様がすごく黒い笑顔を浮かべてるのじゃ……素敵」

「あなた。素敵です……」

 嫁たちのコメントに周囲の部下はドン引きである。と言うか、俺そんな悪い顔してたの?

「てんちょ。魔王って言葉がぴったりだよ。すごーい!」

「えっと、なんか黒いオーラ纏ってましたよ?」

「ええい、どやかましいわ!」

 そうして漫才をしながら先へ進む。悲壮感と言う言葉はこいつらにはないらしい。

 自分が戦いの中で死ぬかもしれない、そういった発想もないらしい。ある意味幸せなことだ。

 と言うかふと疑問に思って聞いてみた。

「なあ、お前らは戦死するとか考えてないの?」

「「「へ?」」」

 キョトンとされた。

「だって旦那様がおるしの」

「あなたがいれば無敵です」

「てんちょ、正気?」

 全幅の信頼を込めた眼差しに、うん、こいつら死なせるとかあり得んな。とひとり納得する。

 まーなんとかなるか。


「ここっぽいな」

「そうですね。なんか扉の真ん中に鍵穴っぽいものがありますが」

「ノブカズ君。勇者の剣(笑)があるだろ。あれ差し込んで見れ」

「カッコ笑はいるんですかねえ?」

「そんなナマクラそれで十分だ」

「ナマクラって言うな!!」

 そういえばこれしゃべる剣だったな。忘れてたわ。

 ノブカズ君が扉中央の穴に剣を差し込む。するとぴかっと光ってゴゴゴゴゴゴゴゴと音を立てて扉が開いた。

 大広間のような場所に出る。と言うかそれまで真っ暗だったのが壁際の燭台に自動的に火が灯る。中々凝った演出じゃないか。

 その先、目測で20メートルほど先に玉座に座った壮年の男がいる。あれが大魔王なのか?

 近寄るとそれまで閉じていた目が開かれた。そのまなざしは深い絶望に捕らわれており、うつろで焦点が合っていない。だがその口から出てきた言葉は威厳にあふれ、まさに王者と言う感じだった。

「ふむ、ルフの手先か」

「ルフって誰?」

 おれの一言に大魔王はずりっと椅子から滑った。ノリのいい大魔王だ。

「お前らが言う光の聖霊とやらだ」

「へえ? んで貴方はなんと呼べばいい?」

「シェイドというが、真名は別にある。ルフも同じだな」

「と言うか、なんで目覚めているので?」

「時の回廊の効果だな」

「時空が歪んでいる場所があったがそういうことですか」

「ルフに聞いておらぬか。一応破り方は奴も知っているはずなのだがな?」

「と言うことは、本気で復活を阻止するつもりはないということか」

「の、ようだな。まあ、奴との付き合いも長い、何がしたいかも何となくではわかってるがな」

「なるほど、それは互いにその真名を交換しているがゆえに?」

「ふむ、奴に踊らされているだけではないようだ。そもそも、今までの勇者どもは儂を見るなり襲い掛かってきたしな」

「真意がわからない相手を無条件に信じるほどおめでたくはないです。それに、俺はこの世界が消えたら困るんですよ。まだ死ぬわけにはいかない」

「新たな世界を作る創造者になれるかもしれんぞ?」

「まっぴらごめんです。面倒くさい」

「ふはははははははは! 面白いな」

「で、どうしたらこの世界を維持できる?」

「そうだな、いい方法があるぞ?」

「どのような?」

「儂と手を組め、そうすればこの世界の半分をくれてやる」

「ほう……?」

「返事はいかに?」

「ふふ、非常に魅力的です……とでも言うと思ったか? だが断る!」

「なんだと?」

 大魔王の雰囲気が変わる。今までは鷹揚に受け答えをしていたのが、怒気をはらんだ雰囲気になる。

 一触即発、そう思われた雰囲気は一気にぶち壊された。ぴかっと光ると目の前に彼の光の聖霊が現れたのであった。

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