オープンセールは盛大に
ブートキャンプの甲斐はあって街道の安全は劇的に向上した。とりあえず臨時で雇った人たちとか、キャラバンの皆さんにチラシを配布してもらうことにした。
ラグラン帰りの冒険者の皆さんも、こっちにコンビニができると言うことは非常に良いことだと言ってくださっており、彼らからの口コミの広がりも上々だ。
「ケイタ殿、建物はこれでいいとのことじゃが、後はどうするのじゃ?」
「そうだね、アベル店長! まずあなたの意見を聞かせてください」
図面を睨んでいろいろメモしているアベルさんに声をかけた。いろいろと腹案はあるのだろう。嬉々とした表情を浮かべてこちらに来る。
「そうですな。最初は食料を中心に展開をしたいと思います。あと、タブレットに出ておりましたが、オープニングセール特価とやらもできるとかで?」
「そうですね。まずはうちの商品を知ってもらわないといけませんからね」
「ならば、いまやっているチラシと合わせて、小分けにできるお菓子類などを配布するのはどうか?」
「ふむ、いいですね。まず食べるものが最優先ですし」
「あとはイベントで粗品進呈とか、ひと月ほどの期限で値引き券の配布を。再来店を促し定着してもらうのです」
おどろいた。確かにタブレットで読めるマニュアルはあったが、ここまでしっかりと考えていたとは。
「うん、そこまで考えていてくれるなら、私からは特にありません。思う存分やってください」
「ええ、それでですな。この商品なんですが……」
商品リストには普通コンビニじゃ置かないだろうって言うものが並んでいた。といっても田舎とかならあるかもしれないなーっていうもの。家庭菜園用の種とか、培養土、いわゆる肥料を混ぜた土だ。
「これは?」
「畑は魔物に荒らされているし、辺境では住んでいた村を捨てて避難している領民もいる。彼らは領都周辺にキャンプを作って暮らしているのだ」
「その避難民の皆さんの救済ということで?」
「彼らには給料を払ってビラ配布をしてもらっている。店のオープンまでは炊き出しもしているしな。で、その金の使い道と言うことでもある」
「もらった給料を食料に使えば消えて行くお金ですが、明日につながるものを用意するってことですか」
「ああ、その日暮らしだと何も生み出さない。であれば、こうやって食料生産をしてもらう。野菜などが余ったら買い付けてサラダなどに加工すればいい」
バルドさんが目を丸くしている。後で聞いたらアベル兄さんは双子であるがカイン兄さんのスペアとして自ら身を処し、領主の一族として武芸を身に付けてはいたが、こういった政治などには全く無関心であったという。
「アベル兄上、なぜにその力を隠すのをやめたのじゃ?」
「そりゃあなあ。自分の城を手に入れたんだぜ? でさ、俺が頑張ったら頑張っただけヴァラキアに恩返しができるんだろ?」
「コンビニ経由で領内を豊かにしようってことですね?」
「ああ、この前バルドに言ってただろ? コンビニの商売が大きくなれば、関わる人が増えるってさ」
「……兄上、どこまで聞いておった?」
「まあ、あれだ。可愛い妹が幸せになって兄さんは嬉しいよ」
バルドさんは無言でアロンダイトを抜き放ちフルスイングした。間に割って入ってとりあえずアベル兄さんの首が物理的に飛ぶのは何とか防ぐ。
「妹よ、照れ隠しにしては物騒に過ぎると思うのだが」
アベル兄さんも平静を保っているが冷や汗は隠しきれていない。
「う、うるさいのじゃ!」
などと平和なやり取りをしつつ、開店準備は着々と進む。テンプレートの商品配置にしなかったので、手で商品を並べる必要があった。キースやビビアンさんも黙々と作業を進める。また、避難民の皆さんにも日雇いで参加してもらった。報酬として食料を支給する。ご家族分ということで、菓子パンやカップ麺なども渡した。
非常に好評で、オープン後はコンビニに行けば購入できることを伝えてもらった。帰り際にはチラシを渡し、オープン後にチラシを持ってきたら粗品と交換できることも伝える。
「というかですな。店を開くにあたってここまで大規模に先行投資をするのは初めてですよ」
トルネさんが若干呆れたように言ってきた。チラシもタダでは無いし、粗品にもコストはかかっている。
「ただ、コンビニの商品はどれも高品質ですからなあ。元は十分に取れますかねえ」
そしてオープン3日前からは、申し訳ないがラグランの店舗は臨時休業して、ルークたちを呼び寄せた。みんなで店の前を通る人たちにチラシを配布してゆく。
コンビニオーナーの俺の名前も多少は知れ渡っているらしく、「オーナーさんですか?」と聞かれてハイと答えると、若い女性に囲まれてしまった。バルドさんがすんごい目つきこっちを見ていたので、いろいろとフォローしておいた。
ルークは女性にチラシを渡す際に、何を血迷ったかウィンクしていたところ、リンさんのドロップキックを受けて沈んだ。
そしてカエデちゃん。チラシを折って作った手裏剣を投げるのはやめよう。チラシだと認識されてない。ツッコミを入れると若干しょんぼりしていたので、頭を撫でてあげたらいつぞやのように花が咲いたような笑顔で見上げてきた。バルドさんの視線が痛かった。
あと、コンビニの建物の陰にどっかで見たような女性がいたのだが、いろいろと問題が出そうなので見なかったことにした。
などなどいろいろとあったがオープンの日を迎えたコンビニは、王都からも人が押し寄せるほどの大盛況で、閉店後には全員が疲れすぎて動けなくなったほどだった。
行商人なども大挙して入ってきており、彼らからの税で伯爵家の財政も少しは上向いた、らしい。何はともあれ急場をしのぐことはできたようだ。
さて、コンビニの商品はチート品質であり、これまでにいろいろと騒動を巻き起こしてきた。
今回の騒動は……種と肥料が高性能すぎて、野菜とかがいきなり大豊作になったことだ。収穫には普通数か月、早いものでもひと月はかかるはずが、葉野菜などは数日で収穫できている。どんだけ!?
「っく、誤算だ。サラダの売れ行きが……」
もはやアベル兄さんのボヤキがボケにしか聞こえない。
「とりあえず、バカ売れしてますし、培養土を限界まで発注で」
土袋に入っているのでオリコンではなくカゴ車でドドーンと届いた。相変わらず謎の配送だが気にしても始まらない。
食料の供給が安定したことで魔物たちを押し返すことができてきているので、孤立していた村や集落に物資を届けるキャラバンが出発していった。馬車には食料とほぼ半々で肥料を積み込んでいる。
これで食料生産が上向けばヴァラキア領の財政も上向くだろう。肥料と食料はとりあえず領主からの支援物資として配布している。実情はツケだけど。
積みあがる伝票にジェイド卿とカイン兄さんが頭を抱えているが、こっちも貸付金が膨らみすぎるのはキャッシュフローの面で困る。というか経理担当の役人さん、逃げたまま行方が分かっていないので、トルネさんあたりに人を紹介してもらわないとだなあ。
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