炊き出しはスパイシーに

 ヴァラキア領の食糧難の原因が魔物による獣害であることは先日確認された。冒険者や領軍が出向いて魔物を倒すが、結局のところ次から次と湧き出すように現れる魔物によって被害は収まらない。


 巡察に訪れたとある村では被害状況はかなり深刻であった。それこそ種に須恵器備蓄まで食べつくそうとしていたのだから。




「ふむ、農地の立て直しもせねばならんが、当面は食料の支給が先じゃな」


「そうだね。あとはどうにかして魔物を大規模におびき寄せて一網打尽にするか」


「そうじゃのう。しかしおびき寄せる手がないのじゃ」


「クッコロセは?」


「あれはなぜかオークだけに聞く呪文でのう」


 なかなかうまくいかないようだ。




 とりあえず、バルドさんに例の呪文を唱えてもらうと村近くの森からオークが押し寄せてきた。そこで俺の力を開放すると……オークの群れが固まる。そして同時に味方の兵も硬直していた。


「ええい情けない!」


「え!? 何が起きたの!?」


「いきなり高密度な魔力を浴びて立ちすくんでおるのじゃろう」


 バルドさんはリッチと直接対峙したから免疫ができているのか? そういえば、あの時参戦していた騎士たちは立ちすくむオークをどんどん倒している。


 その姿に固まっていた兵たちも元気づけられ、一気にオークを全滅させることができた。




「オーク肉が大量に確保できたのう」


 バルドさんはご満悦だ。


「うん、いい感じだね。炊き出しに使おうか」


「それがよい!」




 炊き出し部隊にラグランからついてきた料理人がいた。名前を「カムイ」という。


「カムイさん、なんかいい料理ないですかね?」


「スープカレーにしましょう!」


 彼はメガネをくっと押し上げ、サムズアップをして提案してきた。




 大なべに水を入れ、沸騰させる。同時にかまどに鉄板を置いて加熱し、オーク肉の表面に焼き目を付けた。出てきた脂を使ってカットした野菜を炒めてゆく。さらに個別で用意した鍋でまずバターを溶かす。そしてみじん切りにしたタマネギを炒めてゆく。


 野菜は焼き色がつくまでしっかりと焼き、お湯が沸いた鍋に投入してスープを取る。再びタマネギの鍋に戻り、香味野菜やスパイスを加えてさらに炒めて水分を飛ばし旨味を凝縮させる。カレーペーストの完成だ。




 出汁が十分にとれた大なべから野菜を取り出す。ここで軽く味見をして塩分を調整する。


 先に焼いておいた肉とニンジン、ジャガイモを火にかけ、先ほど作ったペーストとスープを入れ煮込む。ガッツリと煮込む。


 この辺でスパイシーな香りが漂い出し、周囲にいた人間の食欲中枢をこれでもかと暴力的に刺激する。


 別の大鍋で炊いていたライスも蒸らし段階だ。こちらも日本人にはたまらない香りだ。周囲で「ゴクリ」と生唾を飲み下す音が聞こえてくる。




「ごはん、炊けたよー!」


 カムイさんの助手の女性が朗らかな声で宣言すると、給仕係が釜に群がり、素晴らしい手際でさらにライスを盛り付けて行った。うん、気持ちはわかる。ここで時間をかけてスープカレーが冷めてしまっては申し訳が立たない。




 ほぼ並行してボウルにスープカレーが盛り付けられて配布され出した。カムイさんは汗だくになりながら鍋をかき混ぜ、今も笑顔でカレーを盛り付けている。いい人を見つけたものだ。


 さて、自分でも食べてみる。スープは野菜のうまみがギュッと、これでもかと凝縮していて、サラッとしているのに複雑な旨味が舌の上で踊る。


 さらに、先にソテーしてあったオーク肉がボリュームを付け足し、溶け出した脂がさらに旨味を上乗せする。


 スプーンですくったご飯をスープに浸す。単独だと若干味が濃い目に感じられたが、ご飯とともに口に入れることでちょうどいい味に調整された。同時に米の持つボリューム感も加わり最強である。


「うーーーーまーーーーーいーーーーーぞーーーーーーー!!!」


 一気に食べてしまった。横でバルドさんが空になったスープボウルを恨めしげに見つめている。うん、気持ちはわかる。けど、一人分だし、俺たちだけがお替りをもらうわけには行かない。だから、午後からのオーク狩りはもっと気合を入れようと決心するのだった。




 食欲は果てしない。午前中は俺が魔力を開放すると立ちすくんでいた兵たちも目の色を変えてオークを打ち倒してゆく。


「俺、たくさんオークを倒して、腹いっぱいスープカレー食べるんだ!」


 変な旗立てるんじゃないと思うが、気持ちはよくわかった。俺たちはスープカレーの前に心を一つにしていたのだから。


 というか、オーク以外の魔物も出てきている。なんでだ?




「ケイタ殿、どうやらスープカレーのうまそうな香りが原因のようじゃぞ?」


「へ?」


 思わず間抜けな声を上げてしまうが、確かに魔物たちはかまどの方に向かっているように見える。というか、それしか見ていなくて横とか背後から攻撃されて次々と打倒されてゆく。




「スープカレーは世界を救う」


 思わず口を突いて出てきた言葉だったが、横でバルドさんが重々しくうなずいていた。


「少なくともヴァラキア領は救われそうじゃ。カムイ殿が言うておったが、上質なスパイスがこの辺で収穫できるそうじゃ」


「ふぁっ!?」


 思わぬ特産品に、このあたりがカレーの聖地として有名になるのは、またあとのお話であった。


スープカレーカムイ様には許可をいただいております(/・ω・)/

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