【閑話】異世界コンビニあるある……ねーよ その3

クレーム対応

その1

 普通の対応

「すいません、お弁当に箸がついてなかったんですけどー?」

「まことに申し訳ありません。こちらご利用ください。大変失礼いたしました」

「いえいえー、ありがとー」


 アレな対応

「おう、パスタに何でフォークやねん。箸よこせやゴラ」

「まことに申し訳ありません。こちらご利用ください。大変失礼いたしました」

「お前のところは客に迷惑かけてそれだけなんかい?」

「はい、それ以上どうしろと?」

「誠意を見せんかいオルァ!」

「わかりました。では表に出ていただけますか?」

 周囲の客が肩をすくめる。無言で十字を切ったり、天を仰ぐ。

「では、私の熱い思いをこのファイアボールに込めて……」

「うぎゃあああああああああああああああ!!」

 クレーマーは消毒だ。

「あいつ、最近きたのかな?」

「だろ。コンビニの店長がここら一帯で最強って知らないあたりな」

「再起不能か、自業自得だな」

「そうだな。阿呆が」

 クレーマーが叩き潰される光景はラグランの日常と化していた。

 後日ギルドで、ラグランに始めてきた冒険者への研修が行われることになった。コンビニで狼藉を働いたら命の保証がないと。だがマナーよく使えば、どっから持ってきたのかわからんほどのレアものを調達してくれる。

 冒険者として大成したいなら、コンビニと友好関係を築くようにとの教えである。まあ、これで変なクレームは減ったから良しとしようか。


 よくわからない対応

 ノースウッド店で、身形の良いおっさんが話しかけてきた。注文をしたいそうだ。

「明日までにこのじゃがチップスを20ケースほしいんだが」

「ちょ、そんな無茶ですよ。ただでさえ原材料不足のあおりを受けているんです」

「なんだ、コンビニと言うのは便利さを提供するって聞いていたんだが。期待外れだな」

「ほう、そこまでおっしゃいますか?」

「私は客だ。客の要望を満たすのがそちらの義務ではないのか?」

「では、明日までに商品をご用意しましょう」

「ふむ、今の時点で商品を用意できない時点でそちらの負けだろう。もう一つ、ここまで配送を頼みたい。無論送料は別途支払おう」

「ふむ、承知しました。ほかに御入用はありましたか?」

「いや、それでいい。代金はこれで」

「たしかに。承りました」

 さて、場所は……と、なんだと? これはやってくれたな。

 まずタブレットを取り出す。臨時便でコストはかかるがやむなし、数は多いのでコストは吸収できる。そして問題はだ、配送先がいま現在進行形で戦場だということか。

 配送先はノースウッド北西のキャンプで、現在包囲を受けている。うちからも冒険者の部隊を派遣しているが、包囲網が分厚くまだ小競り合いを繰り返している。キャンプ自体もまだ持ちこたえているが、奇襲を受けたこともあって備蓄がない。

「カエデちゃん、これってまずくね?」

「まずいですね。というか落とされたらうちの威信が揺らぎます」

「一応俺大公だしな。領土を奪われるのはまずいってことか」

「そうです。下手を打つと、せっかく開拓しているキャンプの士気が落ちるとか、場合によっては寝返ったりとかありえます」

「むう、明日の朝一で荷物届いたら突破だなあ」

 そう結論付けてとりあえず休むことにした。モモチ衆には情報収集を命じてある。場合によってはすぐに出撃できるようにだ。

 幸いにして状況は動かず、俺は翌朝をそのまま迎えることができた。だがいろいろと問屋が卸さなかったらしい。

「荷物の検品オッケーなのじゃ」

「ありがとう、バルド」

「行くかの?」

「ああ、行こうか。ドーガ、部隊はどうなっている?」

「はっ! 全員点呼を完了しております」

「ならば行くぞ!」

 そうして、俺とドーガ率いる部隊は北西のキャンプに向け出撃した。

 結果からすると、こちらのワンサイドゲームだった。兵の練度が違う。先発していた冒険者部隊を正面に配置して、そちらに意識をひきつけたうえでこっちの部隊が敵の側面を突いた。これで陣列が乱れた包囲部隊を冒険者部隊が急襲し、一気に包囲網を突き破る。

 こうして北西のキャンプの救援に成功する。

「大公様、救援ありがとうございます!」

 キャンプの部隊を率いていた冒険者アーネストがこちらを迎える。

「いや、注文の商品を届けに来たのだ」

「はい?」

「ご注文のじゃがチップスとミネラル水、こちらは大量注文のおまけのポーションです。納品書はこちらです。ご確認を」

「は、はい。って……」

 注文者の名前を見てアーネストが震えだした。

「えっと、事情をお聞きしても?」

「はい、この注文を出してくれたのは義父です」

「ああ、奥様のお父上?」

「ええ、王国の貴族なのですが、妻は家出同然に冒険者となっておりまして」

「まあ、よく聞く話ですな」

「勘当されたと聞いておりましたが、救援の手を差し伸べてくれたのです」

「うちに注文を出せば結果として救援になると考えられて、その通りになったと」

「そうです。とりあえず一通り後片付けが終わったら、王都にあいさつに向かいます」

「では、こういうのはいかがでしょう? コンビニサービス、モモチ急便があります。お手紙なども送れますよ?」

「それはいい、妻と手紙を書いてきますので、少しお待ちいただけますか?」

「いいでしょう、物資の配布を先に進めますよ」

「ありがとうございます」

 こうして騒動はひと段落突いた。王都では、件のコンビニオーナーを相手に啖呵を切って要求をのませたと武勇伝になっていたそうだ。娘婿が有名な鉄壁アーネストであるということも含め、いい具合に名を上げたようである。

 ここで一つ意趣返しを仕込んだ。モモチ急便の配送料は、距離と危険度に比例する。発送した場所は戦場であり、当然アーネストに持ち合わせがあるわけもなく、着払いとなった。

 そうそう、ついでにライル王子と打ち合わせがあったので王都に向かいついでに手紙を届けることにした。

 送料を見て顔色を真っ白にする例のお客様を見て、俺は留飲を下げるのだった。そして、持ち合わせがないとも言えず固まる姿にこう伝えた。

「お嬢様の結婚祝いと言うことで、お安く致しましょう」

「くっ……仕方ない」

 要するに結婚を認めるなら今の危機は乗り越えられますよというアピールである。意趣返しと、キャンプを守り抜いたアーネストへのお礼を兼ねたこのたくらみはうまくいったようである。

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