進撃のコンビニ(準備編

 ファンタジー世界ではよくある話で、竜殺し属性と言うのがある。普通に使うとなまくらだが、ドラゴンの鱗だけを切り裂くとか。

 竜形態のナギの身体には複数の矢が突き立ち、翼の根元が切り裂かれていた。もふもふの毛並みも血まみれだ。とりあえずポーションをぶっかける。EXポーションというもので、高位の錬金術師しか作れない。うちには普通に注文ボタン一つで入荷するが。

「いたーーーい!」

「すまん、ちょいと我慢してくれ」

「うう、ひどい目に遭ったよお……」

「ふむー、これはアレだな、バルドルの矢か。竜を一矢で射落としたとか言うやつ」

 鑑定スキルで刺さっていた矢を引き抜いて確認した。引き抜くときピイイイイイイイって悲鳴を上げたが、すまんとしか言いようがない。ってそうだ。

「ねーんねーんころーりーよーおこーろーりーよおおおおおおおおお!」

「ふにゃ……??」

 魔法で眠らせる。ダメージを受けて弱っているので寝てくれた。弱っていれば睡眠弾で捕獲できるのと同じである。

 刺さっていた矢は全部で9本、普通の竜種なら1本ですさまじいダメージを受けるだろう。大本のスペックの高さと、神龍であることがナギを生還させたと思われる。というか、軽率に偵察に出したことが悔やまれてならない。

 XOポーションを俺のポケットマネーで購入して飲ませる。矢の一部は内臓に達していて、魔力回路がダメージを受けていた。それを回復させるためだ。

 しばらくしてナギは目を覚ます。そして、状況を説明してくれた。

「なんかね、手にタブレットみたいなのをもった人がいて、スワイプしたと思ったら、矢が飛んできて」

「周囲に弓兵がいた?」

「かもしれない。吹雪いてたからちょっとわかりにくかったけど」

「ふむ、それから?」

「普通の矢なら跳ね返すし、そのまま飛んでたらザクザク刺さって、ひとまずブレスで反撃したら剣が飛んできて左の翼に突き刺さったの。翼で飛べなくなったから飛行魔法で、後は夢中だったねえ」

「むしろ良く生きて帰って来たな。神龍パネェ」

「うふふー、ほめてほめてー」

「よーしよしよし」

 子犬サイズのナギをモフりつつ考える。要するに俺と同じことができるやつがいるってことだ。注文なのか、召喚なのかは知らないが。

 ほかの情報を聞き出すと、ここから徒歩で北に3日ほど歩いたあたりで襲撃を受けたらしい。神器レベルのものを使えるのはあちらも同じということで、今までは武器とか兵の強さで圧倒してきたけど、今後はそうもいかないらしい。

 死人とか出たら耐えられるかな? 特に俺がこっちに来てからずっと付き合いのある人が死ぬかもしれない。場合によってはバルドとかカエデちゃんがとか考えると、俺の胃にすごく重いものがずっしりとのしかかってきた気がした。

「だいじょーぶだよ。いざってなったら神の雫があるじゃない」

「そう、だな。ただあれは注文してから7日しか使えないんだ」

「逆に1週間使えるんでしょ? なんとかなるよ」

「そうだな、ありがとうな、ナギ」

「うふふー、てんちょーにモフモフされると気分がはにゃーんってなるの」

 おま、それどこの魔法少女?

 とりあえず先頭にはジェイド卿率いる親衛隊を当てることにした。神盾アイギスがあれば奇襲でも対処できるだろうと考えての事だ。

 ほか、もろもろのことを決めて行く。というか気候などの環境が厳しすぎるのでさらに少数精鋭に絞ることにした。とりあえずここにキャンプを構築し後方支援の人数を残す。防衛戦力も併せてなので、そこそこ大規模になる。補給線の要になるので手は抜けない。

 それにしても、ここに来てこの有様である。実に困った。だがあと少しではある。だからいろいろと振り絞っているのだ。

 ここ数日、こっちの世界でコンビニを経営し始めたころの夢を見ていた。いろいろなことがあった。喜怒哀楽、全てがそこにある。

 常連の冒険者が結婚したこと、お祝いの品をもっていったら涙を流された。

 冒険者同士のやり取りはすべて自己責任とはいえ、だまし討ちや罠にはめるようなことをした奴がいた。それ相応の報いを受けてもらった。

 俺、帰ってきたら酒場のあの子に声をかけるんだ。と言い残して帰ってこなかった常連客。旗を立てるとはなにごとだ! その晩の酒はちょっと苦かった。ビールだしな。

 そして、クレーム対応とかあったけど、日々の営業は楽しかった。なんだかんだで最後には笑顔があった。特に、さっきのフラグ立てるだけ立てて未帰還だった奴も、後日、獣人集落で見つかった。猫獣人になつかれてデレデレになっている姿を見た瞬間シバキ倒した。そのあと、捜索隊全員で大笑いした。

 なんだ、楽しい事ばかりじゃないか。じゃあ、もっと楽しくなれるようにしないとな。

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