閑話 コピーサービス始めました

 コピー機を設置してみた。どの程度需要があるかはわからないが、実際に使った時だけコストが発生するみたいなので、とりあえずである。

「なんかコピー機動かないんだけど?」

「あ、すいません。スクロールは上から通してください」

「ん? ああ、ここね」

「はい、文字が書かれてる方を下にしてください」

「こうか、なるほど」

 うぃーんと機械が動きスクロールを飲み込んでゆく。すると下の方からにょろにょろっと紙が吐き出される。普通のコピー機みたいにA4とかの紙が出てくるのではなく、そのままの長さの紙が出てくる。そういえば、紙を補充したことないな、この機械。

「ってなんじゃこりゃ!?」

 お客様がコピーされたスクロールを確認しながら料金を見ると……1000ゴールドと表示されていた。内訳はああ、紙代と、魔力を含んだインクだからインク代が高いのかっておい!?

「文字だけ写し取ればよかったんだけど、なんかこれスクロールが丸ごと複写されてるぞ?」

 スクロールは魔力がこもっており、魔法が使えないものでも詠唱さえ正確に行えばその魔法が発動する。今回はお客様のお弟子さん用に、詠唱の練習をさせるためにコピーをしたようだ。

「そのようですね」

「というか、写本屋に頼んだら桁一つ上がるじゃないか。なんという便利な!」

 要するに、スクロールを新しく発注するのと同じ状態である。1万ゴールドは安い部類と言えた。まるっきり同じものがコピーできるとなればなおさらである。

 スクロールや魔導書のコピーで大盛況になった。すっごい売り上げである。というか長蛇の列ができるので2台増設したほどである。

 写本師は王都しかもギルドや王宮などで囲い込まれている職業である。こんな辺境にいるはずもなく、魔力解析を正確に行う才能がいる。まあ、もともと人がいない業種で、仕事は常にオーバーフローしているので、コピー機について特に横槍などは入らなかったのは幸いである。


 さて、これはそんなコピー機にまつわるトラブルである。


「だましたな!?」

「さて、何のことかね? お前さんの契約書らしきものは魔力印がない。無効だな」

「ふざけるな、貴様、偽物とすり替えたな?」

「どこにそんな証拠がある? 今確実なのはお前の持っている書類は無効と言うことだけだ」

「くそ! どうなっているんだ!?」

「ということで、ここに書かれている違約金50万ゴールドの支払いをしてもらおうか。できないのであれば前線のキャンプで働いてもらう」

 何やらもめている。と言うか、コピー機を悪用された可能性が高いな。少し様子を見るか。

 モモチ衆に依頼して、彼らの動向を探ってもらうことにした。


 3日後、情報が上がってきた。騙されたと声を荒げていたのはトルネさんが援助している冒険者ライアン。剣と盾を駆使して戦う、最近名を上げている冒険者だ。相棒の治癒魔術師ホーミーが負傷したため、そのポーション代を稼ぐために依頼を受けた。

 その際に奇妙な条件を付けたされた。契約書の原本を保管し、報告の際にそれを持ってきてもらう。写しは依頼主のゲロルトが持つとの内容だ。

 条件を確認し、インクに魔力を込め、指を浸し書面に押印する。こうすると最初の魔力に反応するようになる。

 今回のトラブルは、ライアンの魔力に反応しなかったことで契約書の偽物を持ってきたと言われたことである。ゲロルトの主張は、報酬額を吊り上げた偽物を持ち込んだとのことだ。

 だがライアンを知る冒険者たちは彼はそんなことをするはずがない。愚直という言葉を人の形にしたらああなるとすら言われていたほどである。

 となればゲロルトの目的はライアンを陥れることで、さらには彼のスポンサーであるトルネさんに何らかの傷を負わせることだろう。

 というか、トルネさんの性格上、違約金とやらを肩代わりするのではないかと思われる。肩入れすると決めた相手を見捨てることはしない。だがいくら商売が順調になりつつあるトルネさんでも50万ゴールドは致命傷になりかねない。


「タンバさん。ゲロルトの評判は?」

「真っ黒、じゃな」

「なるほど。じゃあ、潰しても?」

「婿殿の名声が上がるんじゃないか?」

「それほどですか?」

「うむ、なかなか証拠を掴ませないのでな。厄介な奴ではある」

「ふむ、どうしたものかね……ライアンに接触できたらいいんだけどな」

「できるぞい?」

 そのあっさりとした一言に椅子からずり落ちかける。

 タンバさんの先導に従って、ラグラン北部の小さな集落に赴く。周囲を見張られつつ、木を切り倒すために斧を振るう偉丈夫がいた。

 モモチ衆が周囲の見張りを速やかに無力化する。

「ライアンさん?」

「そうだがあなたは?」

「コンビニ店長のハヤシと言います」

「不死殺しの?」

「店長です」

「う、ああ、いつも世話になっている」

「ええ、いつもご利用ありがとうございます。ところで、例の契約書ってお手元に?」

「どこまで知っている?」

「大体の事情は」

「これだ」

「ふむ、なるほど」

 解析するとこの書類自体はコピーだ。最初のスクロールのコピーの時に、魔力なしのインクを選択できるようにした。だから本人の魔力に反応しないのだ。だが見た目上は全く同じ書面が出来上がる。そして、魔力も含めてコピーすると思われているため、インク選択ができることを知らないユーザーも多い。そこに気づいて悪用したのだろう。

「これは偽物ですね。コピー機には……」

「なんだと!?」

「一応説明書きも出していたんですが、これはこちらの落ち度ですね」

「いや、店長の責任ではないだろう?」

「なに、そうしておけば貴方を助ける名分になるのでね」

「どういうことだ?」

「とりあえずラグランに戻りましょうか。貴方が騙されていると証明する手立てがある」

「本当か!?」

「ええ。私にお任せください」

 こうしてライアンを伴ってラグランに帰った。そして数日後、ゲロルトが顔を真っ赤にしてコンビニに抗議に現れる。

「どういうことだ! 契約違反した者を勝手に連れ出すなど!」

「契約違反? それは誰が誰に対して行ったのです?」

「そこのライアンがわしに対してだ。偽の契約書を持ち出すなど、契約というものをバカにしている!」

「それはあなただろう? 魔力印をごまかしているのだから」

「なんだと?」

「貴様のやっていることは全てマルッとお見通しだ!」

「な、なんだってーーー!?」

 そうして俺はコピー機の前に立ち、管理用コンソールを引っ張り出す。ライアン氏から書面を受け取り、コピーされた日時を確認し、コピーの履歴を呼び出す。

 コピーするときに、書面の内容と同時に、魔力構成もすべて読み取るのだ。そしてそれは全てログに残る。そしてそのログから、魔力を含む状態で改めてコピーを出力した。

 出てきた契約書をライアン氏にわたし、魔力を通してもらう。すると、印の部分が鈍く光った。

「ど、どういうことだ、儂は確かに……!?」

「コピー機を通して、まあ、ここにちっちゃく書いてありますが、設定変更のところで魔力インクを使わない設定があります。これを使用して魔力の通っていない書面を作った。これがこの偽物の正体だ」

「ぐ、ぐぬ……」

「だがね、このコピー機は読み取った書面のすべての情報を保存している。魔力構成もね」

「ということは?」

「一度通した書面であれば、魔力構成も含めて復元可能ってことですよ」

 ゲロルトは崩れ落ちる。コピー作業がその場で終わっていれば、ログが残っていなければ、ある意味完全犯罪であった。だが、コピー機の機能がそれを上回ったということである。

 衛兵がやってきてゲロルトを拘束した。王都で複数の詐欺事件にかかわっていた容疑がかけられている。とりあえず、メ〇カリンとラベルの張り付けたポーションを渡した。


「ハヤシ殿、御助力いただき誠にありがたく」

「本当に助かりました。何とかあちこち飛び回って50万調達したんですがねえ」

 ライアン氏のそばにトルネさんも現れた。なんかでかい革袋を抱えている。

「じゃあ、こういうのはどうでしょう?」

 新しい商売のネタを提供した。コピー機を王都と魔国の各店に配置し、書面データを共有することでこっちで読み取り、あっちで出力と言うことを可能にした。ただのFAXとか言わないように。基本文書のやり取りは早馬な世界なのである。

 同時に魔力構成と印を使うことで、偽造防止のついた書面を作ることができるということは、為替としても使えるということだ。

 文書転送と、為替による金融サービスはATMが設置されるまで続き、金融サービスの元本になる資金はトルネさん出資とした。この手数料でトルネさんには莫大な収益が入り、ライセンス料としてうちにも収益があったのである。


 後日、書面の再発行サービスを始めた。その際にはレシートを持ってくるように依頼し、魔力印を押すようにしている。

 コピー機一つで大きな商売になったのであった。

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