偉大なるレイル王の治績
「誓約の神よ、今ここに新たなる誓いを立てる者あり。
今ここに乞い願う、彼の者の誓いが破られんときには、
汝が力にて裁きを与えられんことを……」
人差し指の先を振れ合わせる。触れた瞬間一瞬光って、ゼークトの爪が青く染まる。
「知ってると思うけども。誓約の呪法はあんたの心に反応する。今は青いが誓約を破るほうに心が動くと……爪は紫を経て赤くなる。深紅に染まった瞬間……」
俺は拳を上に向け、開いて見せた。爆発するとのジェスチャーである。
実際に爆発するのかは知らないが、まあ、何らかのペナルティが起きる。たとえば、魔力が封印されるとか、禿るとか。誓約の内容の重さによって変わる。
「くっ、大魔王様を裏切ることになるとは……なんということだ!」
「いや、だったら死ぬまで戦う? あれ召喚したせいで魔力枯渇してるよね?」
「えっと、回復するまでひと月はかかるんですが……待ってくれませんよね?」
「待つ義理がどこに?」
「はい、畏まりました我が君よ。何なりとお申し付けください」
「ふむ、四天王の最後の一人は誰だ?」
無言でゼークトが手を上げる。
「いや、今まで二人しか倒してないぞ?」
「あのですね。獣王の肩にアーリマンがくっついてたと思うんですが」
「ああ、魔法障壁を張ってた」
「あれが夜魔の王ヤミーです」
「へ? 二人がかりだったのアレ?」
「ええ。まあ」
「んで、お前さんが降伏したとなると、大魔王復活はどうなる?」
「ああ、多分四天王の一人の……」
「マテコラ」
思わず食い気味に突っ込みを入れてしまう。
「はい?」
「四天王って字面からするとふつー四人じゃないの? ていうかお前さっき自分が最後の一人って言ったよな?」
「ええ、私が所属していた四天王はそうですね」
「待て、ほかにもいるのか?」
「そもそも、四天王だからと言って四人じゃないといけないって誰が決めたのですか」
うん、ドヤ顔で言い放ったので思わずシバキ倒してしまった。ついカッとなってやってしまったが一切後悔していない。
とりあえずいろいろ聞きだすと、どうも東西南北の四天王がいるらしい。俺が撃破したのは南の四天王で、方位守護の四天王では一番の小者らしい。もういいわそのテンプレ。
と言いながら、ノースウッドに攻め寄せてきて返り討ちになった四天王が何人かいるらしい。四天王って言葉がゲシュタルト崩壊してきた……
ちなみに、ゼークト自身はかなりの魔力量があり、魔道具の作成も得意らしいので、王国の店舗に配属した。首から労働基準法適用範囲外ですと札をぶら下げて。
レイル王は、王子時代はいろいろとアレだったが、実際に王位についてみると普通だった。と言うか、まさに人が変わったかのような器のでかさを披露している。
「そういえばオーナー。王冠の移譲のとき、兄上になんか取りついたじゃないですか」
「おおライル君、そうだな。なんかオーラみたいなのが流れ込んだように見えた」
「うちの父上も、王位継承前は結構アレだったらしいんですよ。けど、王位に就いたらいろいろと無難になっちゃって」
俺はバルコニーから戦勝の演説をしているレイル王の姿をスキャンしてみた……うッわ……。
「あー、やっぱなんかありましたか?」
俺はよほど、うわあ……って顔をしてたらしい。
「あー、うん。あれ洗脳装置だわ。と言うか先王陛下、抜け殻みたいになってない?」
「なってますねー。急激にボケてるらしいです」
「らしいって、見舞いとかしてないんかい?!」
「王都襲撃の騒ぎでしたからねえ。まあ、落ち着いたら行きますよ」
「うん、そうしてください。それで、多分重責から解放されたからとかみたいな美談になるんだろうけども、ずっと自意識を奪われて、立派な王様として振る舞えなかったんだとしたら……俺でも壊れる自信がある」
「あちゃー……、まあ、兄上は自業自得ですね。長子で継承権一位なのに弟や妹を蹴落とそうとしてますし」
「そういわれたら同情の余地ないねえ」
「でしょう?」
「ああ、そういえば、ノブカズ君、子供出来たって」
「ああ、姉上が参戦していなかったのはそういうことですか。薄々そうじゃないかって思いましたが」
「んで、男の子だったらうちの子と結婚させようって言われるじゃない。面倒だからまだ内密にね」
「はい、というかうちにも子供出来たらそういう話になるんですかねえ?」
「だろうねえ」
「こうなってみると、王族のしがらみって面倒くさいですね」
「うちは、バルドはいいとして、そっちの王国とはそういう繋がりないからね。モモチ家は王国の籍を離れてうちの重臣筆頭になってるし」
「じっさい、ジョゼフ卿が発狂してるみたいです。しょうがないのでフグタ卿を引き立ててるとか」
「もしやタラオ衆と?」
「ええ、よくご存じですね」
サ〇エさんの息子か!? というツッコミは置いとく。むしろかなぐり捨てる。
戦勝の演説で、レイル王はやらかした。労働基準法の発布である。一日8時間を基準として、それ以上の労務を行う場合は割増の賃金を支払うこと。違法な労働には、事業主を罰すること。ちなみに、いつの間にか根回しが済んでいて、ヴァラキア辺境伯であるカイン卿経由で、魔国でも同様の法を発布することが発表されていた。
事業主は従業員を増やして調整しないといけない。一時的に経営が悪化する商会などもあったようだが……結果として、自由な時間が増え、給料は据え置きのため、彼らにはお金を使う時間が提供されたことになる。
そして労働人口が増加。要するにこれまで養われていた人口層が働きに出ることになり、彼らにも給料が回ることになる。概ねと言う枕詞が付くが、お金を持った市民が増え、同時に余暇も増えた。彼らは趣味に、バカンスにとお金を使い始める。
結果として王都の経済は右肩上がりに向上した。それを見て同様の事をやり始める地方領主も増加。王国は空前の繁栄を謳歌することになる。
さて、お金を使いたい人がいても使い場所がないとどうしようもない。そこでうちのコンビニでいろいろイベントや商売の提案をしていった。
王都近郊にあった温泉地のプロデュースは、街道や駅馬車の整備も含めて……タルーン商会に丸投げしたが……大成功を収めた。魔物の領域の討伐や、街道整備の際の護衛任務で冒険者にも金が回る。
旅行やバカンスの提案は当然後追いも出てきたが、王国が(うちに依頼して)行った街道整備は、レイル王の偉大な業績として語り継がれることになる。
レイル王の演説はブラック解放宣言として、その一事を持っても名君として語り継がれることになるのである。
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