禁呪と不死者の王と労働問題と

「くっ、殺せ!」

 ゼークトは俺たちと顔を合わせた瞬間意味不明なことを言いだした。

「では、遠慮なく……」

「森羅万象の息吹よ、集いて我が盾となり給え」

「絶対魔法障壁か。けど、俺はそれを無効化できる」

「獣王を葬った魔法か。伝説の禁呪を使いこなすとは……」

「そうなの?」

「へ?」

「いや、伝説って、前にもあったのか。俺のオリジナルだと思ってたのに」

「あんですと?」

「いやー、昔の人の英知ってすごいね!」

「ふ・ざ・け・る・なあああああああああああああああ!!!」

「うわ、切れた。切れるお年寄り? 社会問題だな」

「ええい、意味不明なことをつべこべと。もういい、貴様はここで死ね!

 かの地に迷える死者の魂よ、我が呼び声に応えよ、血塗られし聖餐杯は満たされたり……

 妖異召喚、不浄なる王よ、我が意に従い顕現せよ!」


 黒いオーラのようなものが寄り集まる。スケルトンやゾンビが一か所に集まって集約してゆく。万を超える死者が集い、蟲毒のようにお互いを食らい合う。

 物質が一か所に集まると重力崩壊を起こしブラックホールになるという。怨念と魔の力が集まり周囲を汚し始める。

「これはいかん。レイル王に退くよう伝えるんだ。魔力が一定以上なければ食い殺されるぞ!」

 瘴気に触れた兵がその場で腐り落ち、スケルトンとなった。そしてそのままゴーストに取り込まれ、上空のブラックホールのような魔の集合体に飲み込まれる。

 王国軍は退いた。うちの手勢はあらかじめ魔法防御を向上させるアミュレットを通常装備として配布していることと、俺が防御結界を展開しているので耐えられる。

「ハヤシ殿。あれはいったいなんだ!?」

「って陛下、下がってくださいと伝えたはずですが」

「ふむ、そうは言うが、あれが顕現したら王都なんぞ更地も残らんのじゃないか?」

「まあ、そうではありますが」

「そして市民を避難させる時間もない。なれば前に進むのみ!」

「うっわ、無駄に王様らしいとかどうよ?」

「ん? 何か申したか?」

「いえ、陛下の御心、感服いたしました!」

「うむ、そうであろうが。で、あれは何が出てくるのじゃ?」

「不浄王らしいですよ?」

「伝説の魔物じゃないか。アンデッドどもの王で呪文一つで城壁を吹き飛ばしたと聞く」

「へー、大物ですね」

「倒す手立てはあるのか?」

「現物見ないと何ともですね」

「うむ、それは確かに。んで、無理ってなったときは?」

「出たとこ勝負で」

「であるか。承知した」

「承知された!?」

「それは、なあ。お主の力はこの世界でも頂点に位置する。お主がダメならばもうどうしようもなかろうが。まあ、今までの経緯からして奥の手の一つや二つは持っていそうだが」

「無くはないですよ。ただまあ、あまり使いたくないんですよ。おっかないから」

 無表情に告げる俺を見て周囲が凍り付いた。まあ、半ばブラフではある。核融合で爆発を起こしたとして、放射能汚染がどうなるかわからない。まさか実験してみるわけにもいかない。と言うか実験しておくべきだったかもしれない。どっかのダンジョンの奥底とかで。


「それはどんな呪文なのだ?」

「んー、そうですね。獣王を跡形もなく焼き払った魔法ですといえば?」

「あれか。して、どのような問題がある?」

「そうですね、目に見えない、色や臭いもない毒がばらまかれます。それは消えません。分解されるまで途方もない年月がかかります。何千年も不毛の地となります」

「それは魔法でどうにかならぬのか?」

「理論上こうなるというのがわかっているだけで、実際にやってないんですよね。魔法障壁で防げるかもわからないので」

「危険が高すぎるか」

「なのです」


 そうこう会話している間に闇の塊は徐々に収縮してゆく。そしてある程度の大きさになったとき、人の形を取った。

「おおおおおおおお……ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ……」

「うん、リッチですね」

「リッチだの」

「貴様らはなぜ生きている?

 我が子らは死んでしまったのに。

 すべて死に絶えよ。こんな世界などいらん!」


 なんか無差別に魔法弾を乱射し始めた。こっちの魔法障壁に弾かれる。あまり威力は高くない。見掛け倒し? なわけはないよな。


「オーナー、あの弾丸一つが並みの魔法使い数人分の魔力がこもってますからね? 一緒にしちゃだめですからね?」

「いまさり気に人を人外扱いしたよね?」

「なんのことですか?」

「査定を楽しみにしているがいい」

「ひどい! パワハラだ!」

「ふはははは、君主制であることを呪うがいい。出世させて大量に仕事を押し付けてやる!」

「は? え?」

「出世が嫌がらせになるのか。新しいな」

「はっはっは。執務室に缶詰めになって子供に会えない苦痛がわかりますか?」

「家族を守るために仕事をしているのだろう? 仕事を辞めれば子を養えぬ。本末転倒ではないか」

「まあ、適度にって意味ですね。就業時間は8時間。これを超える残業はしないようにすると」

「それはよいな。我が国でも取り入れようか」

「生活に余裕ができればお金を使うのです。それは巡り巡って税収になるのですよ」

「なるほどな。まず与えてから取るということか」

「さすが陛下。ご賢察お見事です」

「お主とおるといろいろと学ぶところが多い。今後ともよろしく頼むぞ?」


 和やかに話をしているとなんか目の前のリッチがいきなりブチ切れた。

「キサマライイカゲンニシロオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

「あーもー、めんどくせえ。トレース・オン……術式解析完了。解呪する」

「ヤミヨ、アンコクヨ、フカイノコントンヨリキンダンノホノオヲヨビオコセ!」

「はい、それまずいからね。解呪ディスペル」

 開いた右手の五指から魔力弾が放たれ、リッチの結界を破壊する。次に放たれた魔力弾がリッチを現世につなぎとめている召喚魔法の構成を破壊した。

「灰は灰に、塵は塵に戻り、光の下へ還らん……ニ〇ラム」

 召喚のくびきから解き放たれた黒い魔力は浄化魔法にあって片っ端から光の中に消え去る。

 光が消え去った後には、全力で土下座するゼークトがいた。さて、どうしてくれようか。

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