死者の軍勢と強行突破
城壁上には這い上がってくるゾンビやスケルトンを叩くために兵が駆けまわっている。だがあの手のアンデッドは動きが鈍いので、そうそう乗り越えられることはない。また王都直属の兵は士気も練度も高くすぐにどうこうはならないだろう。
王国のお付きの武官に出撃することを告げ、城門前の広場に部隊を集結させた。ライル君はコンビニに配置し、後方支援を依頼している。王族として戦場に立つ覚悟であったそうだが、向き不向きを言い含め、残らせた。
ラグランと魔国の合同部隊として動く。全体の指揮官をルイ・ニコラに任せることを伝え、方針を言い含める。
「ルイ、俺は部隊の指揮はできない。前線でカチこんで血路を開く。だから俺を含めて使いこなせ」
「はっ! 承知しました。お任せください」
「頼む。いざとなったら俺を殿に使ってバルドを逃がしてくれ」
「ふむ、承知しましたが、オーナーを討ち取れる存在とはこの世にいるのですか?」
「信頼してくれるのはいいが、そういう過信は良くない。予断を持たず目の前の現実に対して対応すればいい」
「はい、それは軍曹殿に叩きこまれました。あの訓練は無駄ではなかったと証明して見せましょう」
「頼もしいな。俺の背中はお前に預ける。存分にやれ」
「はっ!」
「行くぞ!」
「城門開け! 出る!」
城門を抜け橋を渡る。殺到してくるゾンビたちを魔法弾を連射して薙ぎ払う。
「炎を統べし王、至高なる魔術師スルトよ、汝が火炎の一端をここに顕現させよう。
レーヴァテインよ、その輝きをもて我が敵を焼き払え!
紅蓮なる刃、今ここに振るわん……!」
不浄なる者を焼き払う棒状の何か。レーヴァテインは杖であるとも剣であるとも言われている。スルトは魔術師なので杖なのだろうか?
横一線に振るう。先端から伸びた火箭が死者の軍団を焼き払う。四天王(笑)のなんとかはすぐに軍勢の中に身を隠した。魔力特化型なので、おそらく個人戦闘には向かないのか?
と言うか、真後ろ以外の270度くらいの範囲を薙ぎ払うので、軍勢の出番がない。と思っていたら魔法の使える兵を前面に出し、魔力弾の掃射を始めた。討ち損じのゾンビたちを叩いてゆく。
俺がレーヴァテインを一振りするたびに数百のゾンビやスケルトンが薙ぎ払われる。だが数万の軍勢で、さらに順次補充される相手には焼け石に水感がぬぐえない。結局召喚者を討たないとどうしようもなく、じり貧になる一方であろう。
「ルイ、敵将はどこにいると思う?」
「はっ! 軍勢の密度にムラがあります。オーナーの推測通りで、おそらく個人の戦闘能力に自信がないので、周囲を固めているのでしょう」
「具体的には?」
「一度ですが、場内に撤収し、城壁上から軍の配置を見直すのはいかがでしょうか?」
「と言うか、今敵中に孤立しつつある。戻るのは厳しくないか?」
「なれば、一度方陣を敷き、防備を固めましょう。そのうえで、飛翔魔法で上空から偵察は?」
「それが現実的だな。10分ほど持ちこたえろ。方向が決まったらそちらに特大の花火を上げる。あとは突撃だな。詳細は任す」
「承知しました、方陣を組む。前衛はわたしが、両翼はバルド様、カイン殿、後衛はルカ、お前だ」
「「了解!」」
前衛を入れ替え魔力弾を斉射することで敵兵を近づけないようにする。そのうえで接近する相手には重装兵の槍衾で迎え撃つ。四隅には魔法兵を置き、ファイアーボールなどで広範囲を焼き払ってもらう。
上空から周囲を見渡す。城壁に向かう動きと、こちらの部隊を包囲しようとする動き。そして、まるっきり動かないひと固まり。……たぶんあれだな。レーヴァテインの魔力を解放し動きのない一団に向け叩きつける。キュドッと言う腹に響く音と、きのこ状の雲が上がる。陣の中央に降り立つと、ルイが先陣を勤め、突撃隊形に変更していた。弾幕を張り突撃を支援する。
「こっちだ、続け!」
「「「おおおおおおおおおおおう!」」」
ルイは片手剣を振りかざし駆けだす。
「善なる神よ、汝が御子に祝福を。悪しき者を打ち払う加護を与え賜らん……光あれ!」
「おお、祝福がかかったぞ。不浄なる者を打ち払うのだ!」
絶妙な激を受け、兵たちは勇んで敵を切り払う。一つの陣を突破した。本来すぐに手当てされるべきなのだが本陣のど真ん中に強大な魔法攻撃を受け、まるっとど真ん中が焼き払われている。
そしてもう一つこちらに有利な条件があった。レイル王率いる手勢がこちらの爆発に気付き、挟撃すべく動いていることだ。敵本隊はこちらに戦力を集中できない。というか、どんな野生の勘だ!? 爆発? つまり大規模な魔法攻撃が叩き込まれた? そっちが本陣だ! これを直感だけで導き出したとしか思えない行動の速さである。
あれはあれで王の器なのかもしれない。少なくとも決断の速さは常人になしえないところだ。ただの勘が運よくいい方に転んだ可能性も否定できないが、大一番で運任せで動いて事態を好転させるのは強運の持ち主ともいえる。まあ、人の事はいい。
兵力が分断され、抵抗を何とか突破してついに敵本陣を発見して強襲した。
同じく反対側からはレイル王率いる騎兵が攻勢をかけている。なんとか四天王の一人ゼークトを追い詰めたのだった。
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