戴冠式と闇の軍勢
さて、王都に着いた。セリカ王女とノブカズ君が先頭に立って入城を果たす。俺とバルド、そしてカイン兄上は列の中央あたりだ。空を見上げると暗雲が渦巻いている。雨が降ってないのが不思議なレベルだ。
レイル王子が満面の笑みで両手を広げて出迎えてくる。念願の王位を手に届くところに来ているのだ。得意の絶頂なのだろう。まあ、平和な時代なら王位を勤めあげるだけの才はある、らしい。俺にはそこらへんはよくわからない。
だが、大魔王復活という世界の土壇場でこの人が国を治めきれるかと言うと、微妙、らしい。あと、一軍を率いる将としての才は飛びぬけているそうだ。ただ、大軍を率いても圧倒的な個の力でひっくり返るこの世界である。やや宝の持ち腐れであるのがなんとも残念な話だった。
政治家としては弟のライルが優れている。謀略の才は妹のセリカにあった。3人手を取り合えばすごくね?
「勇者殿、前線での働きはこの王都にまで聞こえておる。王国としても最大限の援助を約束しましょう」
「レイル殿下、ありがとうございます。後、セリカは良き妻です」
「わが妹が迷惑をかけておらぬかと心配していたが……?」
「いえ、敵軍を破る功績も上げております。さすが王族とノースウッドでも人心を集めております」
「それは良かった。大魔王を討つ日まで、共に手を取り合いましょう」
「はい!」
式典はまあ平穏無事に進んだ。相変わらず雲行きが怪しい。そして濃密な魔力が立ち込めている。まるで異界から悪しき存在を召喚する場でもあるかのようだった。
そして目の前では、父王の前に跪き、王冠を受けるレイル王子の姿があった。
「古より続く王位を今汝に託す。レイルよ、王位を継ぎ、この国を守り通す覚悟はできたか?」
「はい、骨が砕かれこの身が粉となっても、血の一滴になり果てても」
「うむ、なれば、王位と共に勇者より伝わりし力も汝に託す。国民を守る力である。決して誤ることなかれ」
「はっ!」
レイル王子の頭上に王冠が戴かれた。王がまとっていたオーラが王冠を通じてレイル王に流れ込む。これはすごい。一言でいえば補助魔法のセットだった。防御アップ、魔法防御アップ、身体強化魔法などなど。そして王冠自体にも防御魔法がかかっている。今の状態ならば魔王陛下に勝てないまでも負けない程度の戦いはできるだろう。勝てないというのは防御特化の力であるからだ。ただ、魔力も底上げされているので、攻撃力は未知数である。
さて、長々とこの儀式に付き合ってきたが、とりあえず頭上に魔法障壁を展開した。
ドーーーーーーーン! と轟音を立て落雷が鳴り響く。暗灰色のローブを纏った魔導士と思しき人物が飛行魔法でずっと頭上にいた。
「わが名は闇の王、四天王ゼークト。闇の軍勢よ来たれ!」
魔導士が手を一振りすると王城周辺にアンデッド、ゾンビとかスケルトンが現れた。地中からにょきにょきと生えてくる。ここが王都であるということは攻防戦での死者も出たであろうし、長年の営みで多くの死者を抱えているということである。
石に魔力が宿り、ガーゴイルとなって飛び立つ。魔力を帯びた土は隆起しクレイゴーレムとなる。あらかじめ防御魔法が張られている王都内部には影響を及ぼしていない。
と言うか、それなりに準備をして仕込んでいる儀式魔法であった。ただ、これだけ雰囲気と言うか、気配が駄々漏れであるあたり、こいつは二流だ。などと考えている余裕がまだありました。この時までは。
「撃って出る、結界を解除するぞ!」
「うわバカやめろおおおおおおおおおお!!!」
「王は俺だ、指図は受けぬ!」
結界が解除されたことにより、場内にゾンビが沸くということはさすがになかった。だが上空からガーゴイルが降ってくる。曇り時々ガーゴイルとかどんな天気だ!?
「弓兵、うてええええええい!」
城壁に展開している王国兵は王の激に応じて矢を放った。なるほど、軍を率いさせれば兵に恐れを忘れさせる、名将の器だ。だが状況判断が甘すぎる。結界の維持をしていれば、自分は身動きができない。要するに非常に地味な役回りになる。
要するにこいつ目立ちたいのだ。自己顕示欲の権化。だから有能な兄妹を排除しようとしたのだろう。
そして王になった瞬間そのタガが外れた。王都にどんな被害が出ようとも、自ら先陣に立って打ち払ったという実績がほしいのだろう。なんてこった。
「コンビニハヤシ部隊を招集する。あ、てんしょん!」
「「「「さー! いえすさーー!!」」」」
ライル王子率いるコンビニの精鋭が集結した。数は30名。ただし、この世界の戦争は個の力が大きければひっくり返る。王都における最精鋭と言ってよい戦力だ。
とりあえず闇の王とやらは俺のガトリング魔法弾の斉射を浴びせると、何発かかすったあたりで地上に降り立ち、軍の中に姿を消した。
ちなみに、魔国の兵はバルドの指揮のもとにまとまっている。ライル君は軍の指揮とかは不慣れなので、本店から引っ張ってきたルイ・ニコラに指揮を任せた。
王国軍は王を先頭に城門を開き撃って出ている。数度の突撃は効果を現し、敵軍を大きく削ってはいた。だが相手はこの地の死者全てを支配下に置いている。攻勢をかければ被害ゼロと言うわけにはいかない。こういった死者の軍の恐ろしさは、自軍の損害がそのまま敵軍の兵力の補充になってしまうことだ。
とりあえず、150の戦力をまとめる。中央をコンビニ部隊。俺もそこに所属する。両翼を魔国の兵が展開する。
唐突に起きた戦いは一方的に攻められていたが、反撃の時間である。
ルイ・ニコラの指示により城門が開け放たれた。
うちの部隊は俺を先陣に、突撃を開始したのである。
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