新商品の開発
さて、王国もいろいろと落ち着いたので本店に帰還した。ゼークトを尋問した結果で、大魔王の復活条件はよくわかっていないらしい。大地を血で染め上げよとか物騒な言い分もあるとかなんとか。
人々の怨嗟の声が頂点に達したときとか、まあ、あれだ、今の世の中に不満を持つ人が増えたらみたいな話だ。
と言うことになると両国でいい政治を敷けばよいということになる。王国の冠(善王養成ギブス)は大魔王復活を阻止するある意味有効な安全装置と言うことか。
余談だがあの冠の効果は、着けられた人間の性格がアレなほど強い効果を発揮するらしい。まさに人が変わってしまったレイル王の魂に安息があらんことを……。うん、実際問題、170度くらい人格替わってたしなあ。
「旦那様、収支報告が上がってきたのじゃ」
「ああ、バルド、ありがとう。……ふむ、どこの店も利益きっちり出てるね」
「あなた。リンさんが元気な男の子を生んだと」
「そりゃめでたい。お祝いを贈っておいて。内容は……ベビーグッズと消耗品詰め合わせで」
「バルド姉さまと一緒に縫っておいた産着もつける」
「いいね。喜ぶと思うよ」
普通に経営をしていた。王国と魔国で改革が進んでいる。先行きはまだ見えないがきっといい方に変わるはずだ。明日はきっと今日よりもよくなっている。人生はその積み重ねである。
キャンペーンで配布していたブロマイドが問い合わせ殺到である。いっそパックにしてトレカにしてしまうか。1枚、10枚、10枚の1ダースを1ケースとして……おまけにはお菓子を付ける。これで……それに今回は王国軍が大活躍をした。新たな王が見事な采配で武勲を上げたと評判が上がっている。内情はアレだが。これは売れると判断し、タルーン商会への手紙を書くのだった。
何やかやで3か月ほど留守にしていたキャンプノースウッドだが、久しぶりに訪れるとえらい様変わりしていた。上位の魔物が出現することや、定期的に大規模襲撃があることで、武勲や名声を稼ぐために冒険者が集まっている。
魔法使いが増えたことで、土木工事の効率が劇的に上がっていた。バラケルス氏がなんでか石造りの住宅に入っている。なんでも魔獣が放った火炎弾が直撃して前の家というかテントが燃えたらしい。
彼のエンチャントは非常に好評で冒険者たちからの人望も厚くなっている。というか、錬金術ギルドであれだけ傍若無人にふるまっていたのが別人のようだ。
そういえば、労働者の労働時間とその内容における国際的覚書、労働基準法の一部例外に入る地域であった。自分のシフトの時間が終わったからという理由で防衛戦を抜けられたらほかの人間が死ぬ。条文に但し書きを付け、最前線手当を出し、オーバーした時間については割増の給与を支払う。そして代休を取らせる制度とした。
代わりにと言っては何だが、防衛戦発生の時には非番ではあっても参戦の義務を負うとした。まあ、シフトを回すためには定員を増やさないといけない。よって、名声の高い冒険者や防衛戦で武勲を上げた者を対象に、専属契約を持ちかけるようにしていた。
人気の高い冒険者はブロマイドを販売したり、グッズ販売のマージンを回す。あとは鍛冶屋とバラケルスと、人気冒険者のコラボで限定生産の装備品を販売した。ドワーフ鍛冶の今代マゴロクの一番弟子を前線に引き抜くことに成功していた。最前線で武器と言うものを勉強して来いとのありがたいお言葉を師匠からもらい受けている。
「オーナー、師匠が言っていた、お前の武器には魂がねえって意味、分かり始めてきました!」
非常に頼もしい……実は女性である。ミドと言う。いろいろな武器を考案し、からくりを用いた装備品を開発していたが、師匠であるマゴロクからは実用に耐えないと言われていた。
そして最前線に放り込まれ、その過酷な現実を体感することになる。結局からくり機構は耐久性に欠け場合によっては肝心なタイミングで破損することもあった。数回使うたびにメンテや再調整が必要と言う時点でどうしろと? と言われても仕方ない事も理解した。さらに武器は己の命を預ける相棒であるとの考えを実感した。戦場で武器が壊れることは死を意味する。そのことを心底理解していなかったのである。
さて、話がそれた。今回開発したのは、パワーファイターにお勧め! 鬼軍曹の金棒である。ドーガが愛用するモーニングスターを汎用性を高めに調整したものであった。
これは大ヒットした。軍曹殿をこよなく愛するブートキャンプ卒業生のみならぬ、防衛戦で指揮を執り、真っ先に敵を血祭にあげる姿は全軍を鼓舞していたのである。
ほか戦士ダルトンのバスタードソードとかも一部のマニアに受けた。片手でも両手でも使えるあたりに浪漫を感じていただいたようだ。黒鉄で黒光りする刀身は浪漫愛好家に受け、根強い人気を保っている。
重騎士ルカの大楯や、不敗のルイの槍などシリーズ化していった。ただし、武器は使ってこそである。コレクターの貴族からの注文は、当人が使いこなせないならば、いくら金を積んでも注文を断った。
よい武器を一本でも前線に届ければ、戦死者が減る。その資金を冒険者の支援に回していただきたいと要請したところ、一部の貴族は快く受けてくれた。彼らにはレプリカを贈っている。見た目でわからないなまくらではあるが、とりあえず格好はつくようだ。
そうして、最前線で日々を過ごしていると、警報が鳴った。防衛線が発令されたのである。
その規模は2万。今までの最大値の5倍の戦力であった。
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