欠品の危機

 それはある商人からもたらされた情報だった。

「魔国で魔物の侵攻がありまして、まずいことになったそうですよ?」

「何があったのですか?」

「マッドホッグの群れが現れて畑を踏み荒らしたとか。魔物は討伐されたのですが……」

 その地名を聞いて俺は愕然とした。まずい!?

 俺は商人に情報料としてポイントを付与するとすぐにノブカズ君を呼んだ。


「まずいことになりました。魔国のイモの産地が壊滅したそうです」

「へ?」

「実はですね、うちの仕入れシステムって、商材の原価とその取れ高とか相場とリンクしてるんですよ」

 事態を把握したノブカズ君の顔から血の気が引いてゆく。

 うちのスナック類の一番人気である細切りイモのフライが出せなくなるか、価格をお幅値上げする必要が出るのだ。

「暴動起きますよ?」

「あれ中毒性ありますからね。3日にいっぺん食べないとっていう人もいます」

「まずいですね。まずすぎる」

 話しながらタブレットを見ると、さっそく冷凍ポテトの素が値上がりしている。まだ価格を上げるほどではないが、情報が回って日をまたぐ前にこれだ。

「がっでむ! ノブカズ君、モモチ衆に指令を。情報収集です」

「わかりました! ってうわ!?」

「え? ……なんですと!?」

 袋入りの薄切りポテトフライ、塩、コンソメ、カレーなどの値段ががっつり上がっている。

「この値段だと利益が出ませんねえ、かといって販売を止めたら……」

 ことは一刻を争う。その認識でモモチ衆は四方に散っていった。


「なんてことだ!」

 結果は思わしくなかった。産地壊滅による情報が出回り、投機目的での買い占めすら出ていた。当然だが原価は上昇の一途であり、数も用意できないので購入制限を設けている始末である。それでもないものはない。アツアツのフライはすぐに食べきらないと味が落ちる。少ない量のフライをガッと食べきって後には寂し気にたたずむ冒険者の姿が見受けられるようになった。


「てんちょー。浮遊城の食料プラントは探してみた? たしか短期間で収穫できる品種改良された作物がいくつかあったはずだよ?」

 ナギの一言に俺たちは衝撃を受けた。

「「そ・れ・だ!」」


 自らバルドたちを率いて浮遊城へ向かう。ところで、最近判明したのだが地下にめり込んだ部分にも入り口があり、食料プラントはそこから入ることができるそうである。

 俺は先頭に立って突入した。すでに何組かの冒険者が入り込んでいるようで、地面には複数の足跡がある。そして気づいたことは、奥に向かう足跡はあるが、こっちに戻る足跡がない。

「旦那様、一応集めた情報によると……この奥に入ったパーティはすべて未帰還じゃ」

「ふむ、何がいるかいっそ楽しみだね」

「ふふ、さすが旦那様じゃ」

 念のため探知魔法を架けつつ進む。小部屋に仲ボスがいるスタイルは同じだが、大体先手必勝とばかりにバルドが切り伏せる。ルークとリンさんはついてきているだけである。

 ちなみにラズ君とレナさんはお留守番である。と言うのはレナさんのお腹が大きいためだ。あ、別に太ったわけではない。子供ができたのである。実にめでたい。


 さて、そのまま進むうちにかなり巨大な空間に出た。

「というか、なんか空間歪んでおらぬかの? 城の外郭以上のスペースがある気がするんじゃが?」

「空間魔法の気配があるね。下手に解呪したら異次元飛ばされかねないけども」

「と言うか、いやな予感がするねえ」

「ボスが出てこなかったら笑っちゃいますね」

 空間の奥から一人の男が現れた。


「よく来た……ふむ、勇者はおらぬか。我は四天王の一人、死を超越せし真祖たるヴラド公爵である」

「ご先祖さま?」

「なんじゃ、お主混じり物か。醜悪な!」

 手を振ると魔力刃が飛んできた。バルドは聖剣を縦にしてそれを防ぐ。

「旦那様、こいつ手ごわい……ああ、終わった」

 俺の方を見たバルドが嘆息する。そして憐れむように真祖たるご先祖様を見やった。


「で、誰の嫁に手出してんだこら? 殺すよ?」

「ふん、小癪な」

 ヴラドはこっちに魔力刃を飛ばすが、そもそもそれが出ない。手に魔力をためていることを察知して離れる前に解呪しているのだ。

 そのことに気付いたヴラドは化け物を見るかのような目でこちらを見る。

「実力差に気付いたか? じゃあ、滅べ」

「あ、あ、あ、あああああああああ! はわあああああああああああああああああ!?」

 土下座を始めるヴラドに解呪魔法をかけてゆく。彼らは不死化の魔法を自らにかけている。先日潰したリッチなどもそのたぐいだ。そして、俺はそのかかっている魔法を一つ一つ解除してゆく。

 時間から切り離す魔法。因果律から切り離す魔法。アンデッド化魔法。その他もろもろだ。

 時間が流れ始めて急激に体が崩れ始め、今まで受けて無効化されてきた攻撃のダメージが刻まれる。そしてそのような傷を受けても不死者の恩恵を外れたいまでは、まともにダメージが通る。

 それまで魔法で遮断してきたダメージが瞬時に襲い、ヴラドは砕けて灰になった挙句、その灰も吹き散らされて消滅したのだった。

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