キャンプノースウッドの日常
コンビニハヤシノースウッド店は順調に売り上げを伸ばしている。発注数の見直しにより品切れもなくなって、たまに行う店長の気まぐれタイムセールも良い反応である。
粉末状のやくそうを使って範囲回復を行ういやしのこなは人気商品であった。たまに風向きでモンスターを回復させてしまうこともあるが、そこは自己責任である。
「本日の気まぐれタイムセール開催です! スイーツが全品30%OFF!」
「ショートケーキをくれ、娘に頼まれてるんだ!」
「もげろリア充! じゃなくて、こちら3つセットですとさらにお得ですよ?」
「買った!」
独身店員のひがみはさておき、今日も順調な売り上げでとてもいいことです。
大魔王の脅威はすでに各国より公表されていました。はじめは混乱もありましたが、勇者が最前線に立ち、コンビニがそのバックアップをしていると伝わると混乱はあっという間に静まったようです。
そういえば、素材回収ポストのおかげでお店にプールされている素材の量がすごいことになってきました。タブレットを操作して、最前線にふさわしい装備品の仕入れをすることにしました。
「んー、これいいな。ひかりの剣。剣先に魔力を流すと目くらましの光を放つのか。うん、10本仕入れ……っと」
「オーナー、それ使いどころ間違ったら自爆しませんか?」
「ノブカズ君、自己責任って言葉あるじゃない。それにだ」
「それに?」
「こんなファンタジー世界にPL法はありません」
「おいっ!?」
「そうそう、ナギにお使い頼んでたのって終わりましたかね?」
「お使い?」
その直後、巨大なドラゴンが空中から降り立った。口には人間をくわえている。
「おお、よかった。これで品ぞろえ強化になる」
「あれって……?」
ナギがぽとっと落とした人影はそのままビターンと地面に叩きつけられた。人型の穴が開くとかさすがファンタジー。
そのまま引っ張り出す。土埃に汚れた白衣を払いながらすっごい目つきでこっちを睨んできた。
「やあ、バラケルスさん。お久しぶりです」
「いきなりそこのドラゴンに拉致されたんだがどういうことかねえ!?」
「なに、こっちの店舗に異動をお願いしたいだけです」
「ちょっとまて、なんで王都からこんな辺鄙なところに異動なんだ!?」
「それは、最前線ですし」
「ですしもおすしもねえ!?」
「エンチャントサービスをこっちでやりたいんですよ。それに、拒否権があるとお思いで?」
「ぐぬ、承知した」
「では……タイムセール追加です! 高名な錬金術師のバラケルス氏がこちらに常駐することになりました! エンチャント料金がただいま半額です!」
「「「な、なんだってーーー!!!」」」
どどどどどどどどと冒険者が押し寄せる。訓練されたコンビニスタッフの皆はてきぱきと動き、エンチャント受付ブースを設営し、一人が受付を行い、紙に希望内容を書き出しバラケルス氏に回す。もう一人は完成品のチェックを行い、会計を行う。明朗会計、後払いである。
この企画はうまくいった。武具の性能の底上げで討伐成功率が上がり、冒険者の生還率を底上げしたのだ。いくらファンタジー世界と言えど、悲しいけど現実世界である。要するに身機関の冒険者も多くいる。それに伴い捜索隊が編成され、遺品を持ち帰るシーンは日常茶飯事であった。ときにパーティメンバーは家族以上の絆で結ばれる。
俺、この討伐に成功したら僧侶の彼女にプロポーズするんだとか旗をおったてるやつも多い。そういった不幸な事例を少しでも減らしたかったのである。
「バラケルスさんのおかげで生還できました!」
「お、おう。よかったな」
「バラケルスさんのおかげで結婚できました!」
「へ、へえ?」
「バラケルスさんのおかげで腰痛が治りました!」
「は、はい? それ関係なくないか?」
「バラケルスさんのおかげで……」
「わかった、わかったからもういいからやめてくれ!!!」
お客様にメリットがあり、うちのスタッフも感謝される。まさにWin-Winだね!
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