クレーム対応

 コンビニハヤシ店内。先日の大規模な襲撃もあって、ノースウッド支店ではポーション類が品薄になっていた。近隣のモンスター分布にも変化が見られ、比較的高レベルなモンスターも見られる。

 高レベルのモンスターを討伐すればギルドの評価は大きく上がる。キャンプノースウッドにはギルドの出張所も設置されていた。そんなさなか、トラブルが起きた。


「なんだって!? マジックポーション品切れかよ!」

 戦士風のいかついおっさんが俺に詰め寄っていた。

「誠に申し訳ございません。先ほど大口のお客様がおられまして、次の入荷は明日となります」

 申し訳なさそうに事情を告げる。

「クエストの納期が間に合わなくなる。何か変わりの商品はないのか?」

「そうですね、上位回復ポーションなら在庫が若干数ございます」

「それでいい、いくらだ?」

「1本160ゴールドですが、今回は100ゴールドでいかがでしょうか?」

「む、すまんな。ではそれで10本いただこう」

「ありがとうございます。では1000ゴールドとなります。あ、これふくびきけんです。10枚集めると福引ができます。よかったらご利用ください」

「ああ、ありがとう」


 なんてこった。クレームだ。クレームは良くない。店の売り上げに響くし評判が落ちたら客足が……。

「店長! 発注を早急に見直してください!」

「は、はいいいいいいい!?」

「先ほどのお客様は?」

「あー、王都のギルド所属のノーザンライツのアレスさんですね。シルバークラスです」

「了解です。モモチ衆の皆さん。追跡をお願いします。うちの商品欠品で彼らが命を落としたらうちの評判に響きます!」


「バルドさん、オーナーの口調が変なんだけど?」

「旦那様は昨日何かの本を読んでいたのじゃ。コンビニって書いてあったから多分経営の本かの?」

「そうなんですか」

「うん、最後はなんかアルファベットが書いてあったのじゃ」

「へえ。まあ、いつものフランクな口調もいいけども。なんかびしっとするね」

「旦那様は最高なのじゃ」


 さて追加発注でポーション類の補充が届いた。臨時便注文は送料が上乗せされるが背に腹は代えられない。

「ポーション入荷しました! マジックポーションもあります!」

「欠品のおわびに、今ならもれなくふくびきけんお付けしますよ!」

「タイムサービスです、エスプレッソマシンメニュー、コーヒーが半額です!」


 スタッフの呼びかけに店舗周辺で休憩していた冒険者たちが店になだれ込んでくる。

「ポーションをくれ!」

「こっちにはマジックポーションだ!」

「カフェラテ3つ!」

 ブートキャンプを耐え抜いた精鋭たちは見事な対応で混雑を感じさせない。

 見事な手並みに満足の笑みをこぼす。無論俺もレジに立つ。笑顔でお客様を迎える。防衛戦とか政治とか軍事とかはさておいて、これが俺の本業である。


「御館様、ちとご報告が」

 レジが空き始めたころ合いでタンバさんが現れる。

「ん? 何がありましたか?」

「は、先ほどの冒険者パーティが上位魔獣の群れに包囲されたようで」

「そうか、救援に向かう。後は頼む」

「御意」


 屋上で昼寝していたナギがこちらに気付く。

「あ、てんちょ。どっかいくのー?」

「ああ、さっき品切れでご迷惑をかけたお客様がいましてね」

「ふうん? どうするの?」

「ちと助けに行きます。品切れのせいで彼らが全滅したとか寝ざめが悪いじゃないですか」

「評判も悪くなるしね」

「そうそう。わかってますねえ」

「ところで、何その口調? 気色悪いんですけど」

「ふふ、川口店長をイメージしてみたんですが……きもいですかそうですか」

「がっくりしてる暇、あるの?」

「ああ、そうだった。ナギ、のせてけ」

「えー、まあしょうがないか。どっち?」

「上位魔獣に囲まれてるらしい。んー……いた。あっちだ」

「おっけ、行こう!」

 ナギがくるっと一回転してそのまま上空に飛ぶ。おれはそれに合わせて飛行魔法を使用し、空中で飛び乗った。

「あー、てんちょずっこい。飛べるんじゃん!」

「まあ、そういうなって、飛ぶのもそれなりに魔力使うんだよ」

「あなたほぼ無尽蔵ですよね?」

「さあ、行くぞ、人命がかかっている!」

「ごまかした……」


 一方そのころ。ー冒険者アレス視点ー

「くそ、レン。ヒーリングはあと何回いける?」

「あと3回くらいですねえ……」

 ヒーラーからの返答は絶望的な内容だった。

「ポーションのおかげで持ちこたえてるが、じり貧だなこりゃ」

「前開けて、大技使う!」

「おっけい、1,2,3だ!」

「せいっ! ブラストウェイブ!」

 魔法使いが大技を放った。魔力の柱にやつざきライオンが包まれる。

 グラアアアアアアアアアアアアア!?

「やったか!?」

「倒れてくれ……って駄目か」

「やばい、数が増えているぞ!?」

「なんだって、1体でも持て余してるってのに」

「救援信号は上げたか?」

「上げたが、近隣にはほかにパーティはいないはずだ」

「なんてこった。終わりか……」

 そう思って天を仰いだ。すると……雨あられのように魔力弾が降り注いだ。

「なんだ、何が起きた?」

 ノーザンライツの面々は周囲を見渡す。彼らを取り囲んでいたやつざきライオンたちは魔力弾に撃ち抜かれ息絶えている。

 そこにドラゴンが舞い降りてきた。さっきのモンスターたちがまるでネズミに見えそうな威圧感だ。そして、ひらっとその背中から飛び降りてきた人物。

「あんた、コンビニの……?」

「はい、コンビニハヤシ、オーナーのハヤシと申します。以後よしなに」

 やべえ、こいつ、後ろのドラゴンよりも強い。そう感じ取った瞬間、アレスの身体は震え始めた。

「いったい何をしに来た?」

「いや、マジックポーションが入荷したのでお届けに上がったのですよ。お困りかと思いまして」

「は、はい?!」

「ちょっと周囲が騒がしかったので静かになってもらいました。あ、ご迷惑だったでしょうか?」

「いや、そんなことはない。むしろ助かった」

「あ、これ先ほど品切れしていたマジックポーションです」

「ああ、いくらだ、言い値を払おう」

「一本300ゴールドです」

「え?!」

「ですから一本300ゴールドです」

「俺たちの命を救っておいて、その謝礼はいいのか?」

「へ?」

「いや、俺たちはぶっちゃけると全滅しかけていたんだが。正直マジックポーションがそれだけあったとしても、全滅までの時間稼ぎになったかどうかだ」

「ほうほう」

「だから、救援を受けた冒険者は謝礼を払う義務がある。ということなんだが」

「では、このポーションの代金でいいですよ。10本あるので3000ゴールドで」

「お、おう。俺の話聞いてたか?」

「そうですね、ですがその規約は冒険者同士でのみ取り交わされます。わたしは冒険者ではなく、コンビニオーナーですので」

「えっと、それじゃ……3000ゴールドで」

「はい、確かに、毎度ありがとうございます。今後ともコンビニハヤシをごひいきに!」


 そうしてコンビニ店主は再びドラゴンに飛び乗って去っていった。そういえばやつざきライオンたちはきれいに急所だけを撃ち抜かれており、討伐証明や素材としては最高級の買取価格となってくれた。

 そして俺たちはキャンプに戻ると、依頼の報酬と、素材の買い取り代金をそのままコンビニで使った。周囲の冒険者を含めておごりで飲み放題にしたのだ。

 コンビニは大いに売り上げを増やし、イイ笑顔をしたオーナーが忙しそうにレジ打ちをしていた。

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