キャンプノースウッド
コンビニハヤシ、北の森店はつつがなくオープンに至った。たまに亜人の兵が攻めて来るけれども、防戦に参加すると、ポイントを付けるシステムを発表すると、非常に好評で、先を争って防衛戦に参加するようになった。
オープン前に整備した街道は駅馬車が往復しており、人員や物資の移動も順調である。トルネさんと相談して、防衛施設の内側に宿屋をオープンしてもらった。コンビニの埋没式防壁の外周にやぐらを建て、そのやぐらを繋ぐように防壁を張り巡らせる。ひと月を待たずして、キャンプノースウッドと呼ばれる集落が出来上がっていた。
こうなるとコンビニでは提供できないサービス、おもに宿泊であるが、が提供され、そこを拠点にする冒険者も増えてゆく。
ドーガ君に命じて、親衛隊も分隊を編成し、ローテーションで常駐させた。こうなれば、迎撃するだけでなくこちらから攻勢に出ることもできるようになり、小エリアごとにいるボスを撃破し、徐々に敵勢力を押し込んでゆく。こうして、店舗オープンから3か月で、コンビニ周辺が戦場になることはほぼなくなった……はずだった。
「ノブカズ様、何やら大規模な攻勢予兆が……」
「モモチ衆を斥候に出してもらえるように申請を」
「はい。承知しました」
「周囲の冒険者にも避難勧告を。のろしを上げて」
「わかりました」
ノブカズ君の報告を聞いて現地入りした俺は、まずキャンプの門を閉じ、防戦の準備を整える。タンバさんが周囲の警戒をしてくれているので、めったなことでは奇襲はない。
「オーナー、敵の規模がわかりました。ゴブリンキング率いる4000が迫っています。いかがなさいますか?」
「この辺の戦力は?」
「ドーガ殿率いる300と、冒険者が500と言ったところで」
「んー、5倍か。レベル差を考えると何とかトントンかね?」
「そうですな……」
「開幕大き目の魔法叩き込んで崩すか」
「それが良いかと」
「では、モモチ衆はここの防衛を、一部は支援を頼む」
「承知、ご武運を」
俺はタンバさんにひらひらと手を振り、やぐらを降りた。
ドーガ君率いる部隊には前衛を担ってもらう。キャンプでの防戦はすなわち本拠地での籠城戦である。それゆえに、そこにたどり着くまでに敵の戦力を削らないといけない。
野戦築城によって防衛陣地が築かれている。そこに敵を引きつけ、時間稼ぎと敵戦力の消耗を図るのだ。
ゴブリンの軍が迫る。少し強めに魔力を使い、竜巻を敵陣のど真ん中に発生させる。1分ほどで魔力を使い果たし、竜巻は消えるが、敵陣は混乱し、陣列は乱れる。
「かかれ!」
ドーガ君の号令一下、冒険者の遊撃隊が切り込み、敵陣を切り崩す。陣を組んでの集団戦には慣れていないが個の力を頼りに当たるを幸いになぎ倒してゆく。
むろん負傷者も出るが、やくそうをばらまいて回復させる。魔力切れの魔法使いにもマジックポーションをぶっかける。このあたり補給は十分だった。
「MVPにはレア武器をプレゼント! コンビニハヤシ防衛戦に奮ってご参加ください! 敵将を討ち取った人にはボーナスポイントキャンペーン!」
冒険者の目の前に餌を置いて煽る。彼らの戦意は有頂天に達した。
「「「殺せ! 殺せ! 殺せ!」」」
親衛隊にも戦果に応じてボーナスを約束している。ドーガ君の振るうモーニングスターは一振りで複数のゴブリンの頭部を打ち砕いた。
戦線は膠着し、兵力差と戦力差が拮抗してきた。そこに切り札が切られる。
今まで参戦していなかった最大戦力。勇者パーティが敵の後方から斬り込んだのである。
後方には全く無警戒であったため、奇襲は見事に成功した。と言うか、ノブカズ君は一気に敵本陣に斬り込み、ゴブリンキングを真っ二つにしていたのである。これで敵軍の統制は完全になくなった。
ゴブリンの群れは四分五裂し、討たれてゆく。追撃は適当なところで切り上げ、陣に戻ったコンビニ防衛隊は勝鬨を上げるのだった。
戦場を臨む丘の上にて……
「ふむ、あれが今代の勇者か」
「ふん、まだまだ小者だね。それよりも開幕の魔法を放った奴の方が脅威じゃないか?」
「だが完全魔法防御のある俺の敵ではない」
「勇者の首を取れば、大魔王様復活に障害は無くなる。貴殿ら、気を抜かぬことだ」
この一言を最後に4つの人影はかき消えるように消えた。
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