新人研修と錬金術ギルド

 新人さんを加え、彼らの研修をスタートさせました。

「ビビアンさん。その頭って……固定できます?」

「乗っけておくことはできますよ?」

「ちょ、上下逆ですって!?」

「あらあら」

【気を付けよう】

 キースさんがしゃしゃっとスケッチブックにマジックを走らせる。

「とりあえずキースさんがしゃべれないのがネックですね……そうだ!」

 俺は大きめのボードをもってきてしゃしゃっとPOPを作る。そしてキースさんの前後に括り付けた。そう、サンドイッチマンにしたのである。あとは看板をもって店内外を回ってもらう。あとはレジ操作、フライドフーズやドリンクの作成、コーヒーマシンのメンテなどを覚えてもらう。

 ビビアンさんは頭と体が別々に動けるようだ。実に器用である。頭はマイクのそばに置いてポテト揚げたてでーすとか言ってもらい、体の方はキッチンに配置する。正直生首だけとか首なしの胴体が動いている姿を見てお客様が数人ぶっ倒れていた。

【ただいまおすすめはいれたて珈琲です!】

 キースさんは身振りでコーヒーマシンにお客様を案内する。レジでカップを買ってもらい、マシンにセット、後はメニューのボタンを押す。

 ふわっとコーヒーの香りが漂い、お客様がその出所を探し出す。お客様からの質問にすでにベテランの域に入っているレナさんとかラズ君が動く。またコーヒーを買わなかったお客様にもクーポンを配布し、次回来店とコーヒーの拡販につなげる。実際問題、コーヒーの利益率はかなり高い。また店頭調理のフードメニューも儲けが大きい。イートインスペースもその売り上げに寄与してくれているのだった。


 そんなある日。王都からジョゼフさんと一緒に偉そうなおっさんが訪ねてきた。

「御無沙汰しております」

「いえいえ、こちらこそ」

「今回はちょっと知人を紹介したく……」

 そのタイミングで手元に紙がひらひらと降ってくる。

 なになに、王都の錬金術ギルドのマスターだって? ふむ……。

「カエデよ、お前は誰の味方だね?」

「決まってる、主殿の味方」

「あー、もう……好きにせい」

 とやり取りを始めたあたりでおっさんが名乗ってきた。

「お初にお目にかかる。我は錬金術ギルドのバラケルスという。商売の話を持ってきた」

「お聞きしましょう」

 彼の提案はポーションの販売とやくそうの調合による薬類の販売であった。そして上やくそうや特やくそうを見てぽかーんとしていた。

「こ、これは?」

「うちの商品です」

「んああああああああああああああ!?」

「こういうのもありますよ?」

 ほかのポーション類を見せる。もはや燃え尽きていた。マジックポーションはかなり希少な品らしい。神の雫とか見せない方がいいな。

「主殿、一応このおっさん王都ではそれなりの実力者なの。コテンパンにしすぎてもめんどくさい」

「なるほど、カエデちゃんありがとう」

「ケイタ殿。ちょっとばかり妥協してはくれぬか? 実際めんどくさいのだよ、この阿呆は」

「あー、なまじっか中途半端に実力があるんで、自分を最高だと思い込んでる類ですねわかります」

「うむ、そこまで平たく言われるとあれだがその通りだ。もうしばらくしたら再起動するからそのあたりでなんかうまいこと言ってくれ」

「丸投げっすか……」

「儂にはもうどうしようもない」

「うっわ開き直ったよ」

「なんとでもいうがいい」

 そうこうしているうちにおっさんの黒目が戻ってきた。

「バラケルスさん、こういうのはいかがですかね?」

「なんだね?」

「うちのポーションややくそう類をそっちに卸売りします。どっちにしても王都方面に店はないので競合しません」

「それじゃ!」

「ただし、瓶とか袋にはうちのコンビニの印だけ入れさせていただきます」

「う、うむ、しかたないの」

「それでですね。ポーションを解析するのもやくそうを素材にするのも自由です。その条件ならば錬金術ギルドの商品として販売できるということで」

「それじゃ! 同じ素材でわしが作ればもっと質の良いポーションができるわ!」

 うさん臭さにジト目を送りつつ、とりあえずこれで解決と思いたかった。そして一つ忘れていたことがあった。先日の魔王陛下が訪れた理由を。

 空が暗くなったと思ったら巨大な岩山が徐々に高度を下げてきていたのである。

「あれは……伝説の浮遊城!?」

 バラケルスさんが絶叫していた。すっかりときれいさっぱり忘れていた。浮遊城はなんか、ごごごごごごごごとか言いながらコンビニの屋根をかすめて背後の空き地に着地したのだった。

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