勇者と魔王

 ラグラン大公国が成立した。すっごい軽いノリで。

 とりあえずコンビニは大繁盛である。こっちも軽いノリで大公就任セールを始めたら大うけしてしまったのだ。いつぞやのケーキ特価セール並みの人出である。


 さて、魔王陛下曰く大魔王の復活にはまだ時間がかかるそうだ。すでに1000年も前の話、大魔王となるゼークトを襲った悲劇はもはや記録すら残っていない。故に何があったかもわからない。


 記録に残る勇者の事であるノブカズ君の先代勇者はイレギュラーだった。闇に堕ち、膨大な力をもって魔国を滅ぼしかけたのだ。前にもちらっと話になったが、当時の魔王は若く、覇気にあふれていた。その覇気を重臣に利用され、王国との遠征に出ている間に妻を人質にとられる。何とかその重臣を討ち取り、妻を取り戻したが、時すでに時間切れ、ひそかに飲まされていた毒に侵され、再会叶わずその命を散らした。


 魔王の悲しみは深く、ついにはこの世界を滅ぼさんと自らを闇に落とす。うん、俺も嫁が謀殺とかされたらこの世界滅ぼす自信あるわ。

 当時の魔国首都は魔王の呪文一つで滅んだという。同じことは……たぶんできる。周囲と言うかこちらへの影響を考えなければ、ラグラン全土を焦土にできる呪文がある。使いたくはないけどな。と言うかこのことを知られたら、大真面目に大魔王とか言われそうだ。

 まあ、それはさておき、魔王ははじめはかの重臣に付いた諸侯を滅ぼしていったらしい。そして魔国の半分以上が焦土と化した。いまも闇の魔力が残って、人が入れない地がある。具体的には元首都の周辺らしいが。

 魔国の生き残りはここラグランの地に逃げ伸びた。そして王国からもあまりに禍々しい魔力の波動に討伐隊が編成され、派遣されてきていた。ここで事態を知った討伐隊の主将であった当時の王弟は王都に急使を派遣する。そしてラグランから魔国につながる境目に砦を築かせた。とはいえ首都を一撃で滅ぼす相手に気休めにもなりはしないが。

 報告を聞いた王は決断を下した。当時の宰相である賢者の進言があったからだが、彼の魔王が北の封印にたどり着けば大魔王が復活する可能性が高いと。

 勇者召喚には神の血を受けたとされる聖杯を使う。なんだこのテンプレと思いました。まる。

 そして召喚されたのが先代勇者である。彼は戦士、神官、モンク、老魔導士、占星術師、商人、踊り子と多彩なパーティメンバーを引き連れ、魔王討伐軍の陣頭に立つ。それはそうだ、いくら人外の戦闘能力を持っていようが、万の眷属を相手に戦えば疲弊する。軍勢の役割は、可能な限り勇者たちの力を温存し、魔王のもとに届ける、言い方はひどいが肉の盾だ。

 大魔王が封じられている、万年雪の谷にたどり着くにはラグランを経由する必要がある。今更だが、普通に空でも飛べば地形とか関係ないと思うが、その時点で魔王にどの程度の理性と言うか思考能力があったかは不明だ。より大きな闇の力に惹かれ、眷属を召喚しつつただ北を目指す、そういう存在になり果てていたそうだ。


 ラグラン関門。のちにそう呼ばれる城砦はこのとき元となる建造物が築かれた。魔国の生き残りと、王国の精鋭が糾合され、魔王の眷属との会戦に及んだ。

 意思のある兵同志であれば、ある程度形勢が不利になれば退却、場合によっては潰走する。負傷すれば逃げる。逆にそれがあるから戦死者は意外と増えない。だが、相手は生者を憎む闇の眷属である。完全に活動が止まるまでその身は進み続ける。凄絶な戦いになった。

 無論勇者のパーティもその力を発揮する。占星術師の引いたカードは軍勢の力を底上げする。神官の唱える治癒魔法は戦闘不能となった兵を立ち上がらせた。そして彼の得意とする死の呪文は……闇の眷属には一切効果がなかった。そのままブチ切れて槍を振るい、結果として多くの闇の眷属を葬り去る。魔力の無駄遣いすんなと勇者にシバキ倒されるところまでがお約束であった。

 戦士は大剣を振るって敵の陣列に穴を開け魔王への道を切り開く。老魔導士は氷雪の呪文を操り、敵を葬るだけでなく、氷の防壁は軍勢を守った。商人のもたらした物資は軍勢を潤し、彼の買い付けた武具は兵を守る。彼自身も伝説と呼ばれた聖なる前掛けとジャスティス・レジスターを振るって魔の眷属を倒してゆく。

 踊り子は手に炎を纏い、風を操って敵を焼き払う。その炎は龍を象り、跡形もなく焼き払っていった。のちに煉獄の舞と名付けられ伝説となる。

 そして、モンクは実は王女であった。幼いころから勇者の物語に憧れ、隙を見て自室の壁をぶち抜いては城を抜け出していたという。というか王宮の兵でも彼女と戦えるのは勇者の供を許されたかの戦士だけであり、勇者の旅立ちの際には地下牢に放り込まれていたが、牢の格子を闘気を纏った手刀で切り裂き、警戒に当たっていた兵を蹴散らして勇者のもとにたどり着いた。ある意味勇者以上に常識はずれな存在である。

 彼女のスキルはその魔力と闘気を融合させ、爆発的な力を発揮することにある。基礎ステータスも非常に高いが、その力を瞬間的に10倍以上に引き上げることができた。

 闘気弾は魔の眷属に力を発揮し、一撃で消滅させる。戦士と肩を並べ、敵軍を切り裂く。そしてついに勇者たちは魔王へたどり着いた。


「みんな、行くぞ!」

「「「「「おお!」」」」

 占星術師は軍の強化を行うためにいったん下がる。回復魔法も使えるため、支援に徹する。商人も同様で、兵たちにやくそうをばらまいていた。老魔導士は氷壁の結界を張り、眷属の接近を阻む。戦士は眷属の中でも巨大な個体と向き合っていた。

 残った四人、勇者、モンク王女、神官、踊り子は魔王に向け突進する。

「光あれ!」

 勇者がこの世界に来るとき、女神より賜ったひかりのたまが輝き、魔王の闇の魔力をかき消す。ひかりのたまは中空に浮かび輝きを放ち続けた。

「神官、死の魔法使ったら……ブッコロス」

「ふん、誰に言っているのです。この戦いに勝って私は姫様の婿に収まるのです!」

「お前……懲りないなあ」

「ふん、なんとでも言いなさい!」

「戦神にこの舞を捧ぐ……剣の舞!」

 踊り子はパーティの支援を行うことができる。魔王の防御を貫くために武器の攻撃力が底上げされた(説明

「聖霊よ、汝が愛し子に守りの御手を賜らん……」

 神官の防御魔法がかかる。物理、魔法防御が底上げされた!(説明

「いっくよー! ばくれつけん!」

 モンク王女が両手に聖闘気を纏ってすさまじい勢いのパンチを繰り出す。合間にハイキックを繰り出すのだが、神官の目線が王女の裾にたまにくぎ付けになる。

「神官、よそ見すんな!?」

「ちょ!? っていうかわたしがよそ見してるってわかるってことは勇者殿も同じところ見てるんじゃないですか!?」

「気のせいだ!」

「あれは私のものです! 盗み見しないでくださいますかねえ!」

「あーはいはい、妄想乙!」

 あほな会話をしつつ魔王の放つ魔力弾を避け、攻撃を叩き込む。神官の突きが魔王の左目を貫き、そこで一瞬動きが止まったところに斬りつけ、その左腕を切り飛ばした。

「やったか!?」

「ちょ、神官、フラグ立てんな!」

「え?」

 王女が追撃で叩きつけた手刀で魔王の右腕が切り飛ばされる。さらに踊り子の放った火球が魔王の頭を包んだ。

「うふふふふー、あたしの火炎魔法は相手を焼き尽くすまで消えないんだから!」

 燃え盛る炎の中で魔王の頭部が焼き崩れる。あっけなかった……?

「おかしい! なんで頭だけにしか火が回らない? 全身が焼き尽くされるまで消えないはずなの……に……?!」

 魔王の胴体がビクンと震えた。体の奥から何かが生まれようとしているような感じで蠕動を始めた。胴体がいきなり数倍の大きさに膨れ上がり、肉が盛り上がるように足が同じ細部に膨張した。そして、さらに蠕動が続き、腹部に顔らしきものが出てくる。腹部の真ん中が横一文字に裂けて口になった。

 ぱくんと開いた口の中に魔力が集約される……。

「避けろ!」

 慌てて散開しようとしたところで、王女が前に出た。スライディングするような動きで魔王の下に回り込み、股間を蹴りあげる。その一撃でバランスを崩し、魔王の放ったブレスは空中に向け放たれた。

 すさまじい勢いに勇者と神官は少し内またになってしまった。というか、体勢を整えた魔王の腹の口からもぐぐぐと悲鳴のような声が聞こえる。さらに若干内またになっている気がする。そして両腕が生えてきた。さらに吹っ飛んだはずの首が胴体からせりあがってきた。どうもこれが完全体のようだ。

「どうしろってんだこれ……」

 勇者のつぶやきは空に溶けて消えた。

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