話せばわかる
言語疎外の魔法がかけられていたことを知った皆の衝撃は計り知れなかった。解呪もできると聞き、これまでの争いは何だったのかと肩を落とす人々もいた。
対話が可能となると、方策が増える。解呪の術式を刻んだオーブを配布したが、式が複雑すぎて展開できないというオチが付いた。
かといって毎回交渉のたびに俺が出ていくことは物理的に不可能だ。よって発想を逆転した。どっかの弁護士のように。
翻訳を可能にしたのだ。サークレットに術式を付与し、それを各方面に配布した。そして捕虜を相手に実験し、こちらはうまくいくことが判明したのだ。
西方戦線で先日大規模な戦いがあり、500ほどの捕虜がいたので試しに会ってみることにしした。
サークレットをジェイド卿にもつけてもらっている。
【私の言葉がわかるか?】
【なに? われらが眷属がなぜ敵についている?】
【違う、我らは光の聖霊に与する者】
【どういうことだ!?】
【我らには呪いがかけられている。互いの意思疎通を阻害するものだ】
【なんだと? 邪悪なる者ゆえに言葉が通じない、そういうことではなかったのか?】
【お互いそう思ってきたのだがな、今言葉が通じていることに非常な驚きを持っているよ】
【誰がこのような?】
【大勇者どのだ。無尽の智によるたまものである。そして今我らは大魔王の復活を阻止せんと動いている】
【それは闇の聖霊王様の事か?】
【やはりそうか。と言うことだと、こちらの光の聖霊はそちらからすると魔王なのだろうな】
【うむ、魔王が支配する世界を打破するため、闇の聖霊王様を復活させるのが我らの目的だ。魔王の手先たるコンビニ王を討ち取れと四天王殿に命じられた】
【コンビニ王とはどのような存在だ?】
【魔王の手先で、人々を堕落させると聞いている。光にあふれる神殿で、人々の望みを無条件に叶え、努力と言うものを否定する。その魔力は魔王に次ぎ、魔王の国を統べるという者らしい】
【うん、じゃあ体験してみようか】
【え? ちょ? おい?!】
「言霊よ、そのあるべき姿を取り戻せ……ディスペル」
「え? 何が起きた?」
「これで我らと同じ言葉を話せるようになった」
「え? ということは?」
「うん、私が魔王です。初めまして」
目の前の捕虜はいきなりガクブルし始めた。失礼な。
「さて、お名前は?」
「ヴィクトルです」
「立場は?」
「中隊長をしていました」
「言葉が通じるようになるとして、君の部下は君に従うか? 無論、危害を加えることはない」
「安全を保障していただけるならば」
「いいだろう」
「では降伏します」
ジェイド卿に依頼して、彼らに弁当と飲み物を配布した。すごい勢いでがっついていた。
「まあ、そうなるわな。我らとてコンビニができるまでは、まともな味付けなんぞ望むべくもなかった。飯って旨いんだとカルチャーショックを受けたぞ?」
「そういうものですか」
「あとだ、あのタレとか塩コショウとか、砂糖とか。特に甘いものは王でもなかなか口に入らなかったからな?」
「いやあ、あははは」
「あとフライとかだな。油を大量に使って調理するとか正気の沙汰じゃない。貴重品なんだぞ?」
「えーと……」
「まあ、良くも悪くもあの便利さを知ってしまった我々は後戻りができん。であれば、彼らも巻き込んでしまうのが一番よかろう」
「ですよねえ。と言うわけで、餌付けです」
「悪辣な……」
ジェイド卿の顔には苦笑が浮かんでいた。まずいものしか食えない生活よりも、少しでもうまいものを食った方が生活は豊かになる。貧しいよりも豊かな方がよいという考えだ。良し悪しはあるにしても。
翻訳のサークレットは捕虜の説得や集落の懐柔に大きな効果を発揮した。それにより、侵攻ペースが速まった。
結局半年でカッパーマインとタルサが陥落した。現地に赴きキャンプの設営と街道整備、および支店の設置を行う。
各拠点には維持の人員を残しつつノースウッドに戦力を集中し始める。もともと先だっての戦いで大きな集落ができており、生産力にも余力がある。
さて、キャンペーンの結果をそろそろ出さないといけない。これも候補者が多く頭を悩ませている。
というか、各国で神器の数が今後のパワーバランスを決めると躍起になっている節がある。実に困ったものだ。
とりあえず各戦線で新たに撮った写真を利用してブロマイドをばらまくことにした。ワンパターンであるが確実にリターンがあるキャンペーンである。実際売り上げが伸びる。あと、支配領域が広がったせいかいろいろな商品が増えた。特にスイーツの種類が増え、出張所でも置いてくれとの養母が上がってきている。品数の上限が決まっているので、売り上げの少ない商品を減らし、スイーツを配布することにした。
すると、売り上げが向上するだけでなく、現地の治安も安定するとか何が起きた?
まあ、いろいろと進めつつ2か月、神器授与のセレモニーと、北方遠征の出陣式が迫っていた。
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