ファンタジー世界でコンビニを経営したら?
俺の意識はどことも知れない空間に飛ばされ、何時しか青い惑星を眼下に見下ろしていた。そこに二つの光が落ちてゆく。それが二柱の困った聖霊であることを俺はなぜか理解していた。
かのシェイドとルフはその星に降り立つと、ただの人間として生活を始める。まあ、もとは世界を構成し、その管理をしていたスペックである。人外の能力によって頭角を現し、それなりの社会的地位を築くことに成功する。ある程度の財を得たあとは日本と言う国で住処を構えた。シェイドは黒髪黒目の容貌であったので、林将大と名乗っており、ルフはルーシア・ハヤシとしてどこからともなく戸籍を手に入れていたのである。そして一人の子が生まれた。
圭太と名付けられた子は平々凡々とした少年として育ち、可もなく不可もない人生を送っていた。大学を卒業し、地元の中堅企業に勤める。恋人はいなかったが。
そして両親がある日何の痕跡もなく姿を消した。さらに生涯かかっても使いきれないほどの資金が残されていたことが判明した。通帳の0の数を数えてそのままへたり込んだのも無理はない。
それまで国際結婚した以外は普通の家庭に育ってきたと思っていた圭太はいろいろと驚愕した。働く必要もなくなったのであるが、結局惰性的に仕事を続け、そしてほぼ彼のせいではないのだが、不幸な行き違いからトラブルに巻き込まれ、その会社を退職した。勤続年数は3年ほどで、退職金も雀の涙である。むしろ良く出たなと思ったが、それは社長の恩情だったらしい。
さて、唐突に職を失い、それでいて生活にも困らないという状況に置かれた圭太だが、このまま無為に日々を過ごすのもどうかと考えていた。
そして運命の出会いを果たす。会社員時代にためた資金で、独立開業のコンビニチェーンの募集があったのである。立地は地方都市の郊外であったので、それほど大きな売り上げは望めないが、営業時間は24時間じゃなくてもいいというあたりに心を惹かれた。
まあ、24時間営業は現場の負担が大きい割には売り上げ、利益にあまり寄与しないというデータも認知され、社会的なニーズも疑問視されていた。
そこで件のチェーンは24時間営業を強制しないと謳い、オーナーを募集していたのである。説明会に参加し、契約も確認した。ロイヤリティが大手に比べて低いこと、その分オーナーの力量が問われる部分が大きいこと、キャンペーン値引きの半額はオーナー負担と言ったような内容である。
そして、圭太は半年間の研修の末、ついに自分の店を手に入れたのである。経営は順調と言えない時期もあったが、その笑顔で固定客がついていた朝比奈凪とフリーターゆえに時間に都合をつけやすい藤林信和のふたりを中心に何とか経営を軌道に乗せていた。
そして、運命の日は訪れる。勇者が召喚されるには何らかのつながりが必要とされる。そして召喚元は光の女神を信仰する王国であった。
そして光の女神の血を継ぐ圭太が召喚されたのは必然と言える。
ナギとノブカズの二名が召喚されたのは、単純にケイタとのつながりが濃かったせいである。海老男君はケイタの店の常連であった。朝昼晩と通い詰めていたので、下手なバイトより店に行く頻度が高かったのである。影が薄すぎて誰も顔を覚えていなかったが。
圭太の両親たる二人が姿を消した理由は単純なことで、彼らが分身体であったことで、30年と言う時間が存在の限界であった。そして、あちらの世界とこちらの世界では時間の流れ方が違う。次元の壁を突破するときに時間もずれてしまった。ケイタとノブカズの召喚されて顕現した時間が違うのは必然である。ナギについても同じで、彼女は地球で死んでいた。故に精神と言うか魂だけが死につつあった卵に宿り、竜として生を受けることになる。そういう意味では彼女だけは転移ではなく転生である。
「うーん、何というかご都合主義な……」
「まあ、そういうな」
「そうねえ。けどあれね。まだ産んでないのに息子がいるって変な感じね」
「まあ、なんかいろいろと理解したけど、理解したくねえ」
「ケイタ、現実を見ないといかん」
「そうよ。私はあなたをそんな子に育てた覚えはありません」
「まだ育てるどころか、あんたら未だ俺を作る前でしょうが」
「まあ、作るだなんて……」
「ちと直接過ぎやせんか?」
「もういい。んで、これからどうする?」
「うむ、力の大半を分身体にして地球とやらに送り込むさ」
「そうね。じゃないとあんた生まれないし、この世界滅びるし」
「タイムパラドックスってやつを真っ向からバカにした話だな。鶏と卵の関係にもなってねえ」
「まあ、私たちの役割はもう終わりつつあるみたいだし、あとは基本見守るだけにさせてもらうわね」
「そうだな。お前の活躍を遠い空から見守っているぞ?」
「いやいやいや、俺にどうしろと?」
「まあ、管理じゃないが、今のまま世界を発展させてくれたまい」
「そうねえ、減った人口も戻さなきゃね」
「ちょ、おま!?」
「「ということで、よろしく!」」
異口同音に伝えると彼らはそのまま体が薄くなって消えていった。そして光が天に向け飛び去る。そのまま次元の壁を飛び越えるのだろう。
「あーもー、あんたらは何時もいつもいつも人に全部丸投げしていきやがって……」
そういう俺の口元は緩んでいたかもしれない。なんだかんだで両親に再会できたし、また会えると思えたからだ。
そして神々の時代は終焉を告げ人間の時代が始まる。誰かはこういうのだろう、神は去ったと。ニーチェじゃないが神の支配は終わりを告げたと皆が共有することになれば、また新しい時代が出来上がってゆく。それはいいことなのだろう。
しかしだ。それの旗振り役を俺に丸投げするな。そして置き土産をやらかしてくれた。神託で俺が人の子と神の間にできた神子であると言い逃げしていきやがった。
どうすんだこれ? しかしまあ、俺は俺にできることをするしかない。あまり気にしないことにした。
異世界に飛ばされてから約3年。ファンタジー世界でコンビニを経営したら……世界を滅亡から救う原動力になりました。めでたしめでたし。
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