異世界コンビニあるある……ねーよ その1

**スタッフへの苦情**

 その1

「店長、お客様から苦情が……」

「ん? なにがあったの?」

「店員がイケメン過ぎて嫁が生活費を使い切ってしまった、どうしてくれると」

「知らんがな……」

 とりあえず原因であるルークに自重するよう伝えて、王都へ1週間出張させた。

 すると先日のお客様の奥様が現れて、ルークを出せとクレームをつけてきた。どうしろと。


 その2

「どうなってるんだ!」

「いえ、ですからその件については申し訳ございませんがお客様のご要望にお応えすることは……」

「何とかしてよ! 俺、ここでいくら使ったと思ってるの?」

「いえ、そういう問題ではなくてですね」

 ヒートアップしたお客様がラズ君に詰め寄っている。まず事情を確認するためレナさんに話を聞くことにした。

「あ、レナさん、あのお客様何を言ってきてるの?」

「えーっとですね、実はあのお客様、私に求婚してきてまして」

「んー、確かに擦り傷程度でもなんか治療の列に並んでたよね」

「そうなんです。で、500回治療してくれた人、先着1名様が私と結婚できるとのデマが流れてまして」

「それを真に受けたと?」

「みたいです」

「知らんがな……」

「レナ、ちょうどいい、俺と結婚してくれ!」

 ラズ君が思い余ってプロポーズしてきた。追いつめられたんだろうなあ。

「だが断る」

 レナさんの笑顔の拒絶にラズ君が粉砕される。

「私と結婚したいなら……」

 お前はかぐや姫かってくらいの無理難題を展開するレナさん。しかもすごいイイ笑顔だ。

 この要求にクレームをつけてきたお客様も含め、すごすごと退散していった。


 後日、そのクレームをつけてきていた冒険者のお客様は鉄壁要塞アーネストの二つ名を持つ冒険者として名声を博し、レナさんに改めて求婚してきたが、その時はきっちりラズ君とくっついて大きなお腹を撫でているシーンを目の当たりにして崩れ落ちた。

 そのときに人目もはばからず号泣する彼を慰めたパーティメンバーの女性と結婚し、幸せに暮らしているそうである。ちゃんちゃん。


**商品への苦情**

 その1

「なんだこのコーヒーは! カップに半分しか入ってないじゃないか!」

「お客様、それはエスプレッソと言いまして、それが正式なサイズです」

「そうなのか。わかった。ではエルプレッソにしてくれ」

「エスプレッソはワンサイズのみの提供ですが……?」

「これはSエスサイズなんだろう? Lエルサイズのものを注文すると言っているんだ」

「いえ、ですから頭のエスはサイズではなくてですね……」

 困り果てているリンさんに助け舟を出す。

「ラージのマグに4ショットくらいかな、入った分だけレジ計上して出してあげて」

「いいんですか? あれコーヒー慣れてる人でもきついですよ?」

「まあ、そこはお渡しするときに普通のコーヒーより濃いですおと注意するしかないね」

「はい……私知りませんよ?」

 「エル」プレッソを受け取ったお客様は意気揚々とイートインスペースのテーブルに陣取り、コーヒーを口にした。次の瞬間口からブバっと噴霧する。

「に、にがああああああああああああああああああああああい!!!」

 後には顔面に特濃コーヒーを噴霧されて悶絶する彼の相方と、エスプレッソをグイッとやって悶える強面冒険者の姿があったという。やれやれ。


 その2

「ただいま新商品のサンドイッチ販売中ですー。白身フライにタルタルソースが絶品ですよー!」

「おう姉ちゃん、その新しいの一つ、あとコーラね」

「ご一緒にポテトはいかがですかー? セットにするとお得ですよ?」

「んじゃそれで」

「はい、ありがとうございます。ではセットで500ゴールドです……はい、ちょうどいただきました。あちらの受け渡し口でお待ちくださいませー」

 うん、やり取りはばっちりだ。新人バイトだけどよくやってくれてる。

「あ、すいませーん。その新商品の……フィレオふれっしゅ? いただけますかー?」

 フレッシュだと?! んー、スライスオニオンとかレタスはさんだらどうなるかな……?ふむ。

 などと言い間違いから新メニューのヒントを得た気になっている。すると爆弾はその次に投下された。


「すいません、そのフィレオフラッシュください」

「光るんかい!?」

 新人バイトの子が思わず突っ込みを入れてしまった。その一言でこけた厨房スタッフがトレーをひっくり返し、傍のテーブルで食事をしていた冒険者が飲みかけのレモンスカッシュを対面の連れにぶちまける。目にレモン果汁を食らった冒険者が地面に転がり、そこに蹴躓いた別のお客様が転倒しさらに行列をなぎ倒す。次々とドッカンが連鎖していく様はまさに阿鼻叫喚であった。

「いやー、サンドイッチって普通光りませんよね?」

「あ、そうですよね」

 当事者たちは普通に会話していた。背後の惨状に気付かないままにキャッキャウフフと。

 後日彼らは結婚したらしい。もうね、お前ら天然同志ケコーンしちまえよと俺がやけ気味に言ったのがきっかけだとかもうね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る