人手不足解消の手立て

 さて、西からも報告が届いた。土砂崩れで先遣隊が孤立しているとのこと。土木魔法で道を切り開き整地を行う。山肌にはコンクリートをイメージしてコーティングを行う。排水用の穴をいくつか通して簡易だが工事を終える。そこで奇妙なことに気付いた。崩れるほど土砂が水を含んでいない。と言うことは何者かの破壊工作である可能性が高い。

「ということで、行軍中、警戒を怠りなきよう」

「承知した。手間をかけたの、婿殿」

「いえいえ、むしろ協力していただいている身です。なれば可能な限り手を貸すは当然でしょう」

「婿殿。今や立場はそちらの方が上じゃ。妻の親以上の敬意を払わない方がよい」

「ふえ?」

「おぬしはすべての国民よりの支持があると思うてよい。コンビニを経営し国民を富ませた。戦を止めた。神に認められ神器を賜った。一つだけでも十分偉業たるに、そのすべてを成し遂げておる。そんなお主が一声かければ、我が国などひっくり返るであろうよ」

「そんな大げさな……」

「冗談だったらよかったんじゃがなあ。まあ、お主がそういうことをせぬのはよくわかっておる。だが、戦いと略奪しか食い扶持を確保できなんだことは、忸怩たる思いがあるのも事実じゃ」

「魔王様、そんな危ういことを……」

「なに、この場は身内しかおらぬ。それゆえの愚痴じゃ。たまには良かろうが?」

「まあ、息抜きも必要ですよね」

「そういうことじゃ。王都ではここまでぶっちゃけた話はできぬゆえにな」

「オフレコですねわかります」


 そうしてしばらく歓談した。生まれたばかりのソフィア王女はすでに王都のアイドルになっているらしい。そもそも念話で意思疎通できるしな。身内だけに限るらしいが。

 労働基準法が施行され、軌道に乗っているらしい。一時的に歳出は増えたが、税収の向上見込みが大きい。同じ給金で余暇が増える。使う暇がなかったお金を使える。また新規で雇われた者も増え、彼らもお金を使い始める。そうして経済が回り始める。

 消費が増えれば需要が拡大する。そうして需給が拡大再生産を繰り返し、らせん状に規模が向上してゆく。と言うことを説明したが、魔王様には何となくしか理解してもらえなかった。幸いなことにジェイド卿は数字にも強く、こちらの言いたいことを理解してくれたようだ。さすが長年領土経営をしていただけの事はある。

 ジェイド卿の下地があったからこそヴァラキア領は辺境伯とされても短期間で成果を上げた。そう思われるだけの知識と理解力であった。

「陛下、いっそ義父上を宰相としては?」

「いかん。それをやると俺の仕事が増えてしまう。そうなったらヒルダやソフィアといる時間が減るではないか!」

「と言う剣幕での」

 やれやれと言った表情をしていながら口元はほころんでいる。国の重職という地位よりも家族である自分と娘を優先しているのだ。まあ、そもそも爵位ぶん投げてるしなこの人。

 そうこうしているうちに斥候が先遣隊を包囲する敵軍を発見した。先遣隊は200。それを取り囲むゴブリンは500以上ってところか。

 ってその中でフルプレートの騎士が剣を振るうってあれキースじゃないか。そしてスレイプニルに跨って左手を掲げて兵を鼓舞する騎士。案の定というか左手の上に首がのっかっている。

「ええか、おまえら! 今に陛下が応援をよこすはずなんや! びびっとったらあかんで!」

 うん、あのえせ関西弁。ビビアンだ。ってことはコンビニ部隊を率いているのか。柵と土塁をうまく張り巡らせて守りを固めている。そう簡単には落ちないだろ。


「味方を救うのじゃ、続け!」

「「「おおおおおおおおおう!!」」」

 こちらの鬨にゴブリンが気付いた。むしろ気づかせて動揺を誘う手だ。

「穿ち抜け! ゲイボルクよ!」

 魔王様が手に持った槍を天高く投擲すると、投げ上げられた槍から無数の魔力刃が放たれる。その魔力の矢はゴブリンたちを正確に屠る。一度の投擲で50以上のゴブリンが倒れ伏した。

 普通の軍なら1割が死傷すれば大打撃で、さらに1割が倒れれば壊滅である。そしてこちらの兵力は500ほど。挟撃された格好だ。ゴブリンは雪崩を打って逃げ始める。その姿を見てビビアンが追撃を指示した。

 短いが激しい戦いの後、ゴブリンは300近い死体を放棄して逃げ散っていった。

「てんちょー、お久しぶりやー!」

「ビビアンさん、なんでまた従軍してるんですか?」

「王都の店は異動願いだしてたはずやで?」

「あれ? ……確かに出てるな。辺境出張所に異動を希望?」

「どうせやるなら最前線や。王都仕込みのコンビニのサービスは世界のどこでも通用する。うちはそう思うで!」

 その言葉に不覚にもジンときた。ちょっと目が潤んでいる気がする。

「ありがとう。ビビアンさん。ありがとう」

「んでな? このネタ広報に流さん? そしたら辺境の人手不足解消になるかもやで?」

「う、ばれてるのか」

「そりゃなあ。うちはもう古参やしね、何となく現状はわかるつもりや。だからてんちょーに恩返しになるかもなーって思てな?」

 ふと目線を横にやるとキースが一生懸命頷いている。そしてガントレットの親指を立ててくれた。


 皆さんが培ったサービスは世界どこででも通用します。新たなお客様との出会いを求めてわたしは最前線への異動願を出しました。オーナーは世界を救うために戦っています。それと同時に新たな市場をもとめて外に打って出ました。

 新しい環境。新しい店。そして新しいお客様。私たちの使命はお客様に便利さを提供することです。それがコンビニ店員の誇りです。

 思い出してください。なぜコンビニで働こうと思ったのか? 給料が良い。勢いのある商会だ。いろいろと理由はあるでしょう。そしていざ仕事に就いた。厳しい訓練を潜り抜けて。仕事は大変です。やることは山積みです。お客様がひっきりなしに来て、様々な注文をしてゆきます。

 正直、給料が良いというだけではやりきれない部分はありませんか?

 けど、そんな私たちの心の支えはお客様の笑顔と、「ありがとう」の一言ではないでしょうか?

 要するに、どこにいってもわたしたちの仕事は同じです。さあ、新たな世界に飛び出してみませんか?

 追記、さすが辺境、ゴブリンが攻め寄せてきましたが、救援要請に応じてオーナーが蹴散らしてくれました。従業員を絶対に見捨てないオーナーは上司の鑑です!

 文:ビビアン(西方辺境店長:正式名称未定のため


 さて、従業員向けの広報に上の文を載せた。なんかどっかのブラック企業が従業員を洗脳しているような内容である。ただまあ、こんなのでも効果は出たようで、辺境に異動願を出す奴が増えてくれた。ただ、そうなると既存店も手薄になる。結局人手不足は変わらないようだ。

 従業員紹介システムを告知してみた。紹介された人物が採用されて、訓練を通過して配属されたら双方にボーナスを出すという制度だ。あまり数が増えるようなら訓練を通過できなかった場合ペナルティを課すとかしようか。

 問題が少し好転した事にふと息を吐きながら、いろいろと巡り巡るものだなあと思いをはせるのだった。

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