レベルアップには……

 メッセージは二通着ていた。片方は支店管理についての新機能である。そしてもう一つはレベルアップの案内であった。単独の店舗はレベル4が最高で、後は支店が増えることと売り上げ、利益が一定の金額を超えるとレベルアップができる。そして4以降はレベルアップ時に一定の資金を使うようだ。

 というか5000万ゴールドとかどんだけ。今の資金が1500万ゴールドだ。支店出すのに1000万使ったので、支店を出す前の倍の資金がいるとかどんなマゾ仕様。

「桁が違いますね」

「でしょ? どうしたもんかねえ」

「ダンジョン行ってみます?」

「浮遊城?」

「なんか景気いいみたいですよ?」

「なるほど、ポーションとかバカ売れだね」

「高いポーションを使っても元が取れると判断されてるってことですよね」

「なるほど、んじゃラズ君たち行ってきなよ」

「店長は来ないんですか?」

「店番いないじゃん」

「確かにそうですけど。店長夫妻が行って来たら僕らいらなさそうですが」

「まあ、ラズ君。夫婦とか……いい響きじゃ」

 バルドがくねくねしている。カエデちゃんは……普通だったが耳が赤い。かわいいのう。

「店長ってなんというか、守備範囲広いですよね」

「リンさん、それ褒めてる?」

「無論です!」

 きっぱりと言い切りやがった。レナさんがちょっとうるんだ目でこっちを見ている。この人の上昇志向はどっから出てるのか? 

「えっと、レナはね。孤児院出身で、その孤児院が身売りされかけたから冒険者として送金しているんだ」

「ここのお給料、冒険者やるよりも割りがいいのです」

 胸を張るレナさん。プルンと言いやがった。大事なことだからもう一度。プルンプルンだ。

 そしてバルドの攻撃が突き刺さるが、レベル差ってある意味残酷だ。ダメージがない。だがその可愛い嫉妬を感じて幸せをかみしめるのであった。

「普通の冒険者クラスだったら3~4回死ねるなあれ」

「俺でもくらいたくないぞ」

 ルークがなんか失礼なことを言っている。嫁がかわいくポカポカ叩いてきて、それを受け止めるのは旦那の甲斐性だろう。

「黒騎士を嫁にするとか、もうね……」

「けどさ、なんか求婚され過ぎてだから男装してたんでしょ?」

「まあ、魔王の娘婿って肩書は大きいよね」

「条件が私に勝てる男だって言ってたけどねえ」

「ただ闇討ちとか奇襲ばっかりになって消耗してたところだったとかなんとか」

「まあ、元気な状態の黒騎士を子ども扱いしてたしねえ」

「というか、魔王の娘婿で王太子の親友ってどんだけ持ってるんですか」

 ラズ君とルークは顔を見合わせて固唾を呑んだ。こいつについて行きゃ将来安泰じゃね? と計算が見て取れる。そもそも、ドラゴンと契約してるし。さらに言うならば古龍種だ。この人この世界で最強に近くね? まあ確かに。けどコンビニオーナー以上でも以下でもないしね、俺。


 そうこうしているうちに店頭で少し騒ぎが起きた。何だろうと顔を出すと、スケイルメイルを着た冒険者風の二人組が倒れている。なんか噴水に向かって倒れているようだった。レナさんに目配せをする。彼女は理解した風で、回復魔法を唱えた。

「「水……」」

 顔を上げて二人同時につぶやいた。ていうかリザードマンだった。おお、初めて見た。

 とりあえず噴水からバケツに水をくんでぶっかける。頭からざばっと。すると意識を取り戻した。

「ありがとうございます。私の名前はザル、こっちはリズです。我らは皮膚が乾燥すると急激に衰弱するのでして……」

「んで、なんでまたうちの前で行き倒れたの?」

「実は、このあたりにあるコンビニという店では水が買えると」

「うん、そうだね」

「おお、それはどちらに?」

「ここ」

「……てへ?」

「で、水をお求めならばキャラバンに依頼してもっていかせますよ?」

「実は近所の川が干上がっておりまして、そうしていただいても一時しのぎにしかならず、それに継続して購入するだけの資金がありません。今回はその一時しのぎだけの目的ではあるのですが」

「ふーん、なんか原因があるんですかね?」

「主殿、多分浮遊城が原因。あれ地下にめり込んでるけども、何かの形で水脈を遮ってるって手の者から」

「あんですと?」

 とりあえず、うちの身内の不始末を何とかするために、俺はダンジョンに向かうしかないようだった。

 ダンジョンに赴いて何とかしてみることを告げると、二人はこちらの手を取って感謝の意を告げてきた。なんかマッチポンプの気分で、すごく後ろめたかった。

 とりあえず、翌日。俺はバルドとカエデちゃん、ナギを連れて浮遊城に赴いたのだった。

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