カエデちゃんと

「次はカエデじゃの」

 唐突にバルドが言い出した。微笑みを浮かべながら大きくなってきたお腹を撫でている。

「へ?」

「カエデとも子を作ってやらねば。あの子も旦那様の妻であろうに」

 幸せそうな表情を浮かべながら言うので、少し思考がフリーズした。だから思わず聞いてしまった。

「俺がほかの女性と子供作ってもいいの?」

「他のと言うと見境なしにポンポン作るということかの?」

「そういうつもりはないけど」

「カエデならばよい。あの子は一途に旦那様を想っておる」

「そういうもの?」

「うむ、変な思惑とか紐がないわけではないが、それを言うたら私も同じ故のう」

「ああ……」

「それゆえに、旦那様に拒絶されたら、あの子は行き先がない」

「そう……だね」

「しがらみは見てやるな。ただあの子だけを見ればよい。私にしてくれたようにじゃな」

「うん、わかった。けどね?」

「うん?」

「俺はやっぱり君が一番だ」

「ば、莫迦。ううー……わたしにはその言葉で十分じゃ。というかじゃ」

「ん?」

「お腹にこの子がいなかったら押し倒していたぞ?」

「ちょっ!?」

 してやられた。思わず抱きしめてしまう。この気持ちが伝わるようにしっかりと、けれどお腹の子供に障らないようにふんわりと。バルドも抱き返してくる。けれど左手はお腹に添えられている。だからその手の上に俺の右手を添える。

「パパとママは君が生まれてくるのが楽しみでしょうがないんだ」

「そうじゃな。どっちに似ても強い子が生まれるだろう」

 その晩はバルドと並んで眠る。お腹の子供も入れて川の字ってやつで。さて、この時点でバルドのお腹の中には彼女に匹敵する魔力の存在が感じられる。いろんな要素が絡むが、この子は相当の力をもって生まれてくるだろう。それがこの子にとって幸せなのかわからない。


 この世界では子供は親の力を受け継ぐ。カエデちゃんと子供を作ったら、その子はどんな子供になるのか。力がなくても、ありすぎても、良くないことになる。そう思うと二の足を踏んでいたのである。けれど、それは俺のエゴだ。子供の人生は子供のもの。そう考えると一つ肩の荷が下りた。もちろんほったらかすわけじゃない。親としてその子を見守り、必要なだけの手助けをする。それでいい。


「主殿。これは一体どういうこと?」

 ここは地下の浴場。カエデちゃんがお風呂に入っているところに俺も入っていった。

 特に拒絶というわけでなく、顔が赤いがお互い様である、キョトンとしている。

「んー、とりあえず素直になることにしたんだ」

「はい?!」

「というわけで、お風呂あがったら……ね」

「わかりました、と言いたいところですが、はっきり言葉にしてもらえますか?」

 カエデちゃんの目が潤んでいる。そして心なしか震えている。

「うん。じゃあ……いつも俺を助けてくれてありがとう。俺が目の届かないところをフォローしてくれてありがとう。傍にいてくれてありがとう。いつも言葉にできないけれど、君がいてくれてよかったと思ってます」

「はい…‥はい……」

 カエデちゃんがざばっと浴槽から上がって抱き着いてくる。いろいろと当たる。けれどここは我慢だ。

「今更かもしれないけれど、大好きです。ずっと俺の隣にいてください」

「確かに今更ですね」

 その言葉にはっとする。やばい、遅かったか!?

「そんなの当り前です。主様」

 にっこりと微笑む。普段どっちかと言うとクールで無表情な感じなのだが、笑顔はすごい破壊力だった。俺の理性に対して。

「ん、ありがとね」

「二人きりの時は……主様じゃちょっとあれなので呼び方変えていいですか?」

「好きに呼んでくれていいよ」

 ぱあっと笑顔がこぼれる。可愛い。

「じゃあ、あなたと」

 うん、何だこの可愛い生き物。こうかはばつぐんだ!

「うん。もう無理。我慢できん」

「はい? え? ちょ?」

 小脇に抱えるとくるっとバスタオルで包む。風魔法で身体の水滴を吹き飛ばす。腰には申し訳程度にバスタオルを巻く。

 そしてそのまま俺はカエデちゃんの個室に入っていった。そしてそのあと無茶(ry


 一か月後。カエデちゃんが報告してきた。すなわち「こないんです」と。

 その次の日、杖をついた老人が俺を訪ねてくる。前回のバルドの時のこともあり、なんか嫌な予感がしていたので探知魔法を発動。

 っておい、この爺さん偉い魔力量だぞ?! そして周囲から敵視が向けられる。反射的に防御魔法を発動させると、四方八方から手裏剣が飛んできた。

 集中砲火を防いだと思ったら目の前の爺さんが杖を手に間合いを詰めてくる。って仕込み杖かい!?

 手元のボールペンに魔力を纏わせて斬撃を弾き返す。連撃を捌きながら周囲の敵性反応に魔力弾を叩き込む。コンビニで戦闘行為を行うものは問答無用で鎮圧である。

 数秒で爺さん以外の反応は沈黙した。そして突きを見切ってボールペンで仕込み杖の刃をへし折る。そのまま掌打で吹き飛ばし、自動ドアを開ける。

 爺さんは吹っ飛ばされて店外をゴロゴロっと転がって噴水に引っかかり、バウンドしてばしゃーんと落ちた。

 とりあえず噴水の中から引っ張り上げようとすると……浮かんでいたのは藁人形だった。

「かっかっか! 見事なり!」

「おっさん誰ですか?」

「うむ、見事な手並みじゃ婿殿」

「ってもしや?」

「カエデの父、タンバという。よしなに」


 話を聞いた。とりあえず娘を奪ったにっくき男を殴りに来たそうである。カエデちゃんから聞いた話で、俺に一撃でも入れることができたら何でも言うことを聞くとか言っていたようだ。そして見事に撃退された。


「というわけでじゃ。よろしく頼むぞ、主殿」

「はい??」

「我らモモチ衆は婿殿の指揮下に入る」

「ってそれはどういうことで?」

「うん、王国から離脱して、コンビニハヤシの支配下に入るということじゃな」

「それまずくない!?」

「第二王子を配下にしておるお主がそれを言うか?」

「そういうもんですか?」

「まあ、問題にはならんし、させぬよ」

 ニヤリと嗤うタンバ氏。その意味を知るのは半年ほど後の事だった。

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