10年後
「いらっしゃいませー!」
元気よくあいさつする娘を見て目じりが下がる。ヴァンピールとのハーフであるハルカはまだ12歳だが、すでにブートキャンプを卒業し、コンビニ店員として働いていた。
ハルカ目当てのお客もいるようで、連絡先を渡そうとした不埒ものはとりあえず消毒している。俺の消毒に耐えられない程度の力でうちの娘に手を出そう何ぞ100年早いのである。
「姉上。マシンのコーヒー豆とミルクが切れかけじゃ」
「うん、ショウタ、ルークおじさまに報告してきて」
「了解じゃ!」
てててっと走ってゆくショウタ。こちらは11歳になった。すでに人外レベルの身体能力があるらしい。カエデに仕込まれた忍術はすでにタンバさんをしてもろ手を上げさせるレベルだとか。うちの子の才能が怖い。
「旦那様、親バカ丸出しじゃの?」
「まあ、そこは否定しない。うちの子はかわいい!」
「そうじゃのう。ってナツミ、そっちに行ってはいかんのじゃ!」
バルドが二女のナツミを追いかけてゆく。おてんば盛りでしかもハイスペックな血筋である。瞬間的にはバルドを振り切るだけの速度を出せるあたりどうなんだこの子とも思う。まあ、まだ魔力操作が未熟で、バルドを出し抜けるほどの力はまだないが。
「ぱぱー。だっこー」
俺の足にしがみついてきたのは次男のリョウタである。こちらも思わず目じりを下げながら抱き上げるとがっつりしがみついてくる。そして俺は防御魔法のレベルを一段階上げる。なぜならこの子のSTRがすでに3桁あるのだ。剛力無双のスキルが生まれつきあったときは何の冗談かと思った。
おもちゃを握りつぶしたときは開いた口がふさがらなかったものだ。というか、防御魔法を解くと俺でも首が逝きかねない。実に将来有望な息子たちである。
さて、今いるのはかつて闇の聖霊王が封印され(引きこもっ)ていたテハスの地である。ここについに我がコンビニは100店舗目をオープンすることとなった。
そして親バカだなんだと言われようが記念すべき100店目の店長はハルカである。コンビニチェーン育成本部長のドーガが太鼓判を押した逸材であり、父である俺があの戦いから戻ってからは常に俺にまとわりついていた。3歳になるころにはラグラン本店のマスコットになっていた。そしてレジのそばでオペレーションを見て学び、困ったちゃんには制裁を加え、バルドの指導で剣術、魔術に高い才能を示した。というか、ブートキャンプを卒業したのは7歳の時である。実に素晴らしい娘である。
「うわあああああああああああ!?」
ショウタが悲鳴を上げていた……ということはまた来たのか。
「おお、ショウタ。またカッコよくなったのう。わらわは嬉しいぞ!」
ショウタにしがみついているのは我が義妹のソフィアである。年齢がほぼ同じのためちょくちょく行き来があったのだが、いまやブラコンというか甥コン? のような状態で、将来はショウタを婿に迎えると公言している。実に困ったものである。
しかしさすがというかファンタジー世界だからか、比較的近い血族であっても特に婚姻はタブーではないようである。もうこうなったら当人同士の意志でいいだろうとさじを投げていた。
ところで、ショウタは魔王ヒルダの攻撃を5分間凌ぎ切るという偉業を成し遂げている。空蝉の術を使いこなし、見事に猛攻を往なした。最後は大規模破壊魔法はさすがにしのぎ切れず、俺が介入したがね。
その姿に惚れたというか、母上の攻撃をあれほどしのいだ者は父上以外で初めてじゃ! となったようだ。
「ちょっとソフィア! ショウタは仕事中なんだからね! 邪魔しないで!」
「ふん、わらわとショウタの愛の語らいを邪魔するとは無粋じゃの」
「黙れ叔母さん」
「あ? 今なんといった?」
「ふん、あんたはママの妹でしょ? だから叔母さんって言ったのよ。何か間違ってる?」
「その呼び方で呼ぶなあああああああああああああああ!!!」
ソフィアの手から高密度の魔力弾が放たれる。並の冒険者なら数回死んでおつりがくるレベルだ。
そしてそれをハルカは掌で受け止め制御を奪って中和して見せた。受け止めた掌には傷一つない。
「ぐぬぬ、小癪な」
「はん、魔力操作であたしに勝てるのはパパだけよ!」
事実である。俺が10の魔力弾をすべて違った属性で放ち、それの反属性ですべて迎撃して見せる腕だ。魔法の威力自体は元の魔力最大値が違いすぎるので勝負にならないが、同じ量の魔力で戦えば、戦績は五分であった。
「うぬぬぬ、しからば、食らえ!」
手に魔力を込めて殴りかかる。格闘戦というか、接近戦では世界最高峰の魔王ヒルダより薫陶を受けているだけあって非常にハイレベルだ。ただし、こちらもバルドの教えを受けている娘は何とか互角にやりあう。
「ハルカちゃーーーーーん!!」
「ソフィア様! お見事です!!」
周囲にギャラリーが集まり盛り上がり始めた。ラグラン地区本部長のルークが賭け札を手際よく販売している。そして往年のコンビネーションでリンさんとレナさんがドリンクやビール、お菓子を売りさばく。そしてギャラリーの中には魔王夫妻やレイル王もいる。そして、後ろの方に、いてはならない存在がいた。
「ってどっから沸いたクソ親父!」
「沸いたとか言うな! 俺はボウフラかなんかかい!?」
「あらあら、ケイタさん。しばらく見ないうちに立派になって」
「って母さんも……ちょっとまて、そこにいる子供は?」
「ん? おお、初めてだったな。こいつはお前の妹のヨーコだ」
「っておい!? なんかすごい魔力を感じるんだが?」
「うむ。この世界に戻ってから作った子でな。我らの力を継いでいる。ということで、後は任せた」
「はい??」
「お兄様、よろしくお願いしますね」
「じゃあ、達者でなー!」
「待ったらんかい!!」
そう言い残すとクソ両親は再び虚空へ消えた。それが夢でないのは自分と同等の魔力を内包する妹の存在である。どうしろと?
さらに背後で破壊音がした。ハルカの周囲にはドーガのところの3つ子がフォーメーションを組んでいる。ソフィアの方にもカインとアベルの子らが構えを取っていた。さらになぜかショウタもソフィアの後ろに立っているというか、立たされている。
「ショウタよ。そなたの愛を一身に受けてわらわはあのハルカを打倒してくれようぞ」
「待って、姐さんを怒らせちゃダメだって!」
「わらわの身を案じてくれるか。愛じゃのう」
「姉さんは封印を解除すると短時間だけど父さんを超える魔力が使えるんだ! そうなったら僕らは……」
「安心なさい、ショウタは運が良ければ死なないわよ。日ごろの行いに祈りなさい!」
「やだああああああああああああああああ!!」
「むう、これはいかん!? お主ら、早く結界を張るのだ!」
「ソフィア様、間に合いません!?」
すさまじい魔力が膨れ上がる。っておい、ハルカ本気出してんじゃねえか!?
「うふふふふふふふふ。消し飛ぶがいいわ!」
いかん、俺でも間に合わねえ。まずい!
ってタイミングでヨーコの口が呪を紡ぐ。
「聖霊よ、我が盾となり給え。アヴァロン!」
そこに現れた魔法の盾は、ハルカの全力を弾き返した。上空に消えた魔力弾はとりあえず消し飛ばしたが、下手するとこの辺一帯が焦土になるところだったのだ。
「って、私の全力をはじいた?」
「ハルカちゃん。無茶したらダメ」
「ってあなた誰? パパと同じ魔力を感じる……!?」
「私はね、「パパ、いつのまに隠し子仕込んだの!! ママを裏切るなんて信じられない!」
「違う!! 誤解だ!」
「浮気男はみんなそう言うのよ!」
「話を聞け!」
「この不埒もの!」
そうして俺に向けて放たれたハイキックは母に瓜二つで、何やら懐かしい衝撃を受け俺の意識は刈り取られたのだった。
目覚めるとハルカが泣き腫らした目で俺に縋り付いていた。俺が目を覚ましたことに気付くとごめんなさいを連呼しながら抱き着いてくる。その後ろには怒りのオーラを纏ったバルドが小さくため息を吐いている。
なんか俺がノックアウトされるまでが余興であったと思われて、オープニングイベントは大盛況だったようだ。ショウタはどさくさに紛れてソフィアに物影に引っ張り込まれてたとかなんとか。南無。
新たな家族、ヨーコを加えてうちのドタバタは加速していくようだった。
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