営業活動

 タブレットで発注できる現在のシステムは非常に便利である。最近多いのがうちでも仕入れられない武器の問い合わせだ。コンビニという、利便性を提供するという商売としてはちとまずい気もするのである。よって対策を考えていた。


「うーん、やっぱり発注はできないな……ん?」

 問い合わせのあった武器について調べるためタブレットを眺めていると、データベースには登録されているのだ。そして商品マスタを確認すると、仕入れ先欄に記載があった。

「仕入れ先、ドワーフの里……か」

 仕入れ先マスタを確認すると、取引実績無きため発注不可の文字。まてよ? これって取引実績を作れば行けるんじゃね?


「バルド、ドワーフの里ってどこにあるのかな?」

「うむ? いきなり何を言い出す?」

「んー、ほら。最近問い合わせ多いじゃない。この前もダルトンさんからケイオスブレードって大剣がほしいって言われたし」

「ふむ、そうじゃの。あれは出回ってる数が世界でも片手の数もないんじゃないかの?」

「無茶ぶりもいいところだな……」

「まあ、お客様からの期待が大きいのは良い事じゃと思うがの?」

「それは確かに」

「ここは旦那様の腕の見せどころではないのか?」

 そういってほほ笑むバルド。その笑顔を見ているとなんかもういろんなものがこみ上げてくる。

「おっしゃあ! やってやろうじゃないか!」

 張り切る俺に最愛の妻は最高の笑顔を向けてくれた。


「というわけで、ちと出張に行ってくる」

 唐突に告げた俺にスタッフのみんなが目を丸くする。基本店頭に立つだけで店にこもりきりの俺の普段の様子が浸透しきっているのだろう。

「えーと、行商ですか?」

「ラズ君、そう言うのはトルネさんで事足りてる」

「じゃあ、なぜに?」

「仕入れ先を増やそうと思ってね」

「へ? 王都の工房とかいろいろあるじゃないですか」

「では聞くけど、最近問い合わせの多い項目は何かな?」

「武器、ですね。しかもBランク以上の」

「そう、けどそれを手に入れる伝手がない。オークションとかに出回ることもあるけどさすがに資金力じゃ貴族とかにはかなわない」

 資金力云々のあたりで嘘つけとツッコミが入った気がするがキニシナイ。

「何か心当たりでも?」

「うん、端末を見てほしいんだけど、商品マスタのところに仕入先って項目あるじゃない」

「ああ、そうですね」

「でさ、この前問い合わせがあった武器の名前を検索してみたら、仕入れ先の登録自体はあったんだよね」

「それってどの武器の話ですか?」

「ケイオスブレード」

「あれダルトンさんがネタで言ってた話じゃないですか!?」

「そうなの? 普通に問い合わせとして聞いてたよ」

「ていうか最初に、出世したら伝説の武器を一度でいいから振るってみたいな、例えばケイオスブレードかよって」

「あれ? そうだっけ?」

「そうです!」

「まあ、それはいいや。とりあえずドワーフの里に行ってみる」

「はい?! 伝説の地としてたどり着いたものはいないって有名ですけどもおおおお??!」

「存在が知られてるってことは実在するんだろ?」

「それすら危ぶまれているというか、仮にたどり着いたものがいたとしてもそれこそ勇者の御世。伝説の彼方です」

「けど、タブレットには記載がある。それにね……」

 俺の一言に皆が固唾を呑んでいる。

「住所書いてあるんだよ。マスタに」

 その一言に皆が椅子から転げ落ちる。うん、示し合わせたかのようなコケ方だ。さては練習してたな?

「してねえよ!」

 ルークの突込みに皆がこれまた同時にうなずく。お前ら息があってるな。さすが我がコンビニの最古参メンバーだ。

「まあ、そんなわけでちと行ってくる」

「場所は……ローデルキア山脈?! 人類未踏の地じゃないですか!?」

「いや、行って帰ってきたとか、ドワーフの人がそっから出てきたってことでしょ? 出所そこの武器があるんだから」

「それはそうですが……」

「なら俺がたどり着けない道理はないね。ってことで行ってくる」

「わかりました、お気をつけて」

「もちろんだよ」


 さて、軽い気持ちで出かけてきた俺は若干の後悔をしていた。最初は飛んでいけばすぐだと思っていたのだ。しかし乱気流に巻き込まれてまっすぐに飛べない。特に山地付近まで来るともはや風の結界と呼ぶべき規模になっていた。

 さらに魔物が強い。魔力を開放すると蜘蛛の子散らす程度ではあるが、並の冒険者では太刀打ちできないレベルではある。70くらいか。

 そしてついにたどり着いた。谷間を利用して出入り口を絞ったのだろう。さらに岩を削り加工して城壁らしきものもできている。そして、出入り口と思しき門の前には巨大なゴーレムがデーンと鎮座していた。


「ココハトオサヌ」

「すっげえ、しゃべったよ」

「シンニュウシャカ? ナラバハイジョスル」

 高さは人間のおよそ3倍、特殊な鉱石が混ぜられているのかやたら滑らかな動きをしている。とりあえずシールドを3重に張るが1枚目を砕かれた。

「すげえな。推定レベル100クラスだ」

「キョウテキトハンダン。ブーストモードニイコウシマス」

 内部で魔力が膨れ上がる。それとともに埋め込まれている鉱石から魔法回路が生成され輝きだす。

「ってか眩しいな。ブーストモードって目つぶしモードの事か?!」

 再び拳が振り下ろされるが、後ろに飛んでかわす。前かがみなった姿勢から腕を支点に回転して蹴りが飛んできた。

「うお!?」

 慌てて展開した5枚のシールドのうち4枚が破られた。

「すげーなおい。足の力は腕の3倍ってか」

 ゴーレムは無言で攻撃を繰り出してくる。それを避け、あるいは防ぐ。ふとゴーレムがなぜか抜き手をこちらに向けてくる。通常と違う挙動にゾクっといやな予感がした。

 高密度圧縮したシールドを展開する。そしてゴーレムの抜き手はそれを一撃で粉々に砕く。

「やべえ、魔力殺しか!?」

「主殿!」

 ゴーレムの顔に煙玉が叩きつけられる。E=MC^2の魔法式を思い浮かべ短距離転移で難を逃れた。

「カエデちゃん、助かった」

「いえ、バルド姉さまのご指示です」

「そうか、ありがとな」

 わしわしと頭を撫でる。ちっちゃい体はその勢いで揺れて、たわわな果実もプルンプルンとしている。いい眺めだ。

「主殿、油断はいけません」

「ああ、そうだな」

 頷いた俺に彼女は手をかざして合図を送る。

 その手が振り下ろされると同時に、ゴーレムに手裏剣が突き刺さる。モモチ忍軍の一斉攻撃だ。

 突き刺さった手裏剣はゴーレムに埋め込まれていた鉱石を砕いていた。

「ソンショウド70%トッパ。ジバクシマス。1フンイナイニハンケイ5キロメートルイナイカラタイヒシテクダサイ」

「ちょ!?」

「なんですって?!」

「ナオ、バクハツシタサイニマリョクムコウカノサンダンヲトバシマス。マホウケッカイハイッサイムコウカサレマス」

「親切だなおい」

 つぶやく間にもカウントダウンは進む。

「主殿、カエデは幸せでした。来世でもまた夫婦に……」

「んー……こことそこと、あそこと……ていっ!」

 俺の指先から合わせて10の魔力弾が飛ぶ。それはゴーレムの核につながる回路を遮断する。

 ブビュンとノイズのような声を発してゴーレムは機能を停止した。

「さて、んじゃ入ろうか。カエデちゃん」

「は?! え??」

「いやー、クリスタルゴーレムって珍しいから解析してたんだよね」

「ということは?」

「うん、機能停止だけなら1秒かからなかった」

「えっと……」

「やー、ごめんねー」

 てへぺろってやったがカエデちゃんは拗ねて道端にうずくまってしまった。

 思いつく限りのご機嫌浮上策を試み、30分後には俺の腕にしがみついてドワーフの里に向けて歩いてゆく。とりあえず左腕に当たる感触が素晴らしかった。

 さて、商談にはどこに行ったものやら。

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