魔王様がやってくる

 さて、ノブカズ君がいろいろとはっちゃけた翌日。うちの嫁たちを何とか迎撃し、生き延びた。ちょっと太陽が違った色に見えるのは気のせいである。

 先触れの使者が現れ、魔王陛下が間もなく到着される。俺の立場は家臣ではないが、両国の王家には敬意を払っている。要するに半独立の臣従国家みたいな立ち位置になっているわけだ。

 魔国側にはラグランの城塞があり、以前は王国の最前線の防壁であった。いまはキャラバンの基地だったり、冒険者の拠点として開放している。なんかこの城塞の所有権も俺に移っているようだ。特に通行税は取っていないが、ここを通過する者は必ずうちのコンビニに立ち寄るという不文律ができている。いつの間にやらだ。

 まあ、物資の補給や休息に必要でもあり、位置関係的に立ち寄らないメリットがないともいえる。通貨や素材があれば食料ほかの物資が補充できるのだ。


 少し話がそれた。あと2時間もすれば魔王陛下率いる部隊がここ、ラグランの地に到着する。そしてもう一つの報告が上がってきた。

「主殿、王国よりジョゼフ氏が先触れとして到着。レイル王子が部隊を率いてやってくると」

「あー、やっぱ来たか。まあ、対抗してるんだよなあ」

「お任せください、歓迎の準備は整っております!」

 そこにドーガが現れてやたらびしっとした敬礼を行う。

「んー、了解だ。任せた」

 俺はこの発言を後ほどひどく悔やんだ。こいつがやる歓迎の意味を額面通り取ってしまったことをだ。


 先に王国軍が到着した。レイル王子を出迎えるため店外に出ると……うん、やらかしてた。

 ドーガが動員したブートキャンプ卒業生が一糸乱れぬ隊列を組んでいる。彼らはうちのコンビニの制服を着用し、ガンホーガンホーと気勢を上げていた。

 そこに儀仗兵に先導された王子が現れる……そのまま回れ右して引き返そうとした。

 そこにコンビニ制服を纏ったライル王子が兄をとっ捕まえる。

「兄上、ここで退いては王国の名折れですよ?」

「いやまて、あれってなんだ?」

「コンビニ親衛隊ですが?」

「まて、なんだそれ!?」

 あまりにさらっというので納得しかけたが、我に返ってツッコミを入れる。

「地獄のブートキャンプを卒業したものはみんな兄弟です。何か事あれば鉄の結束でこの地に集うのです」

「いやそれ返答になってねえ!?」

 まさか俺の悪乗りがこんな形で返ってくるとは……。


「お久しぶりです。王太子殿下」

「ああ、ハヤシ殿も息災の様子」

 ひとまず余所行きモードで話を始める。

「兄上!」

 そこにセリカ王女が現れる。なんか怒りのオーラを纏わせて。

「セリカ!?」

「うふふふふふ、兄上、御覚悟を!」

 なんかすごい勢いで飛び掛かっていった。レイル王子も剣を抜いて迎撃する。というか思い切り腰が引けている。おかしいね、この人王国最強のはずじゃ?

「真正面から戦えばそうなんですけども、搦手に弱いんですよね。兄上は」

「あー、そんな感じだよね。落とし穴とかにさっくりはまりそう」

「……ええ」

「はまったことあるんかい!?」

「まあ、その話はいいじゃないですか。しかし姉上がブチ切れてますね。勇者を追放したことがばれた?」

「やっぱやってたんかい。けどまあ、同情の余地はないねえ」

「まあ、父上の意向があったとはいえ、実行犯ですし」

「あ、すげえ、ナチュラルに暗器使ってる」

「姉上はアサシンの技能持ちですからねえ」

「勇者の血で先祖返りって聞いてるけど?」

「正確には先天的にスキルが目覚めるだけなんです。勇者に発現する可能性があるやつが」

「なるほどねえ。中々に難儀な」

 やれやれと肩をすくめる。その目線の先では壮絶な兄妹喧嘩が行われていた。振るわれる攻撃一つ一つが一般人だと即死するレベルな。


「なにやら騒がしいの」

 あ、いつの間にか魔王陛下が到着していた。

「御無沙汰しております。義母上……え?」

 さすがに驚いた。スレイプニルの上に跨る義父上のさらに膝の上にぽすんと座っている。

「母上、いったい何事ですか?」

 バルドもなにやら唖然としている。

「ん? バルドか。やらんぞ?」

「要りません!」

 地味にショックを受けている義父上。と言うかすすすっと近寄ってきて俺の首に抱き着く。そして横向きに体を密着させてきた。これはあれか……?

 とりあえず、バルドの意を忖度してお姫様抱っこをしてみた。正解だったようで、花がほころぶような笑みを見せる。そして馬上の母に向けドヤ顔をして見せる。

 互いの目線に火花が散ったような気がするが、見なかったことにした。

 ふと気づいて背後を伺うと……明らかに首の急所を貫こうとする致命の一撃をノブカズ君が止めている。

「ダーリンどいてそいつ殺せない」

「うん、ちょっと待とうかハニー」

「ハニー……うふふふふふふ」

 ナイフを放り投げて頬を押さえてくねくねしている。怖え。


 こうしてグダグダのまま魔王陛下の訪問が幕を開けたのだった。と言うか何をするんでしょうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る