閑話 巨竜襲来

 遠方から地響きのような音が聞こえる。それは徐々にこちらに近づいているようだった。

 モモチ衆からの急報を受け、俺は最精鋭のみを率いて現地に向かった。報告によると巨大なドラゴンがノースウッドに向けて移動しているらしい。


「なんだありゃ……」

「ノブカズ君。でっかいねえ」

 ざっくり3階建てのビルくらいの高さに頭がある。頭から尻尾まではプールほどか。とりあえず脚に魔法弾を撃ち込むが、強固な鱗に弾かれる。

「あなた、古龍です」

「旦那様。あれは硬い」

 アレとか硬いとか言うと悶々としてしまう。と言ったあほな思考は除外して戦況を分析する。

「飛び道具と魔法で足止めする。ドーガ、タブレットで迎撃施設の建造を。あれは下手に軍を差し向けても蹴散らされる。少数精鋭による邀撃を行う」

「はっ!」

 ドーガ他10人ほどが罠の設置に散る。一定の歩みで迫りくる巨大な竜を相手に迎撃戦が開始された。

 足めがけて攻撃を叩き込む。一定のダメージが蓄積したらちょっと怯んだりする。たまに頭を下げたり、振り下ろしてくるので、そこを狙って攻撃を叩き込む。

「えー、それは反則」

 カエデちゃんがぼやく。頭を下げたタイミングで目玉に矢が直撃させたのだが、ノーダメージだった。

 ガラスのような外殻に弾かれたようである。なんて非常識な生物だ。

 数回ひるませ、歩みを止めたが、どうもさすがにうっとおしくなってきたと見える。進行方向にある岩を蹴り飛ばしてきた。多少不意打ち気味であったが、さすがにこれを食らうやつはいなかった。

 踏み下ろされる足を避けて氷結魔法を打ち込む。直後に火炎魔法を打ち込んだ。わずかに鱗にひびが入る。

「どおおおおおおおっせえええええええええい!」

 いったん合流したドーガが巨大な金砕棒を振るう。パキーンと澄んだ音を立てて鱗が砕けた。そこに露出した表皮に向け矢が突き刺さる。といってもでっかい柱みたいな足に普通の矢が刺さったとしても、人間のすねにとげが刺さったようなレベルである。

 だが、確実に痛みを感じさせたようだ。突き刺さった矢をドーガの振るうこん棒で根元まで打ち込むと咆哮が周囲の空気を震わせる。

 さらにバルドの体当たりするような勢いの刺突が繰り出され、アロンダイトの剣先が食い込む。

「マジックバースト!」

 裂帛の気合と共に魔力を解放すると、内部で魔力が暴発しダメージを与える。さすがに激痛が走ったのか、足が崩れ落ち、その巨大な体躯が地面に臥す。

「いまだ!」

 俺の合図で、周囲に設置されていたカタパルトやバリスタが一斉に発射される。巨大な矢は強固な鱗を貫いて突き刺さった。そしてカタパルトから放たれた岩塊は放物線を描いてドラゴンの顔を直撃した。これで目を回したようで、ドーガが首に突き刺さったバリスタの矢じりを叩いてさらに奥深くえぐろうと試みる。バルドはアロンダイトをドラゴンの顔面に叩きつける。カエデちゃんはモモチ衆を指揮して、もう片方の前脚の知覚に爆薬を積み上げ、点火していた。

 腹を揺さぶるような爆音とともに、鱗が砕け、表皮を焼く。ドラゴンの上げる声は咆哮ではなく断末魔にも聞こえた。

「まだだ、まだ終わらんよ!」

 その時、ドラゴンの口に魔力が集約されるのを感じる。

「散開! ブレスが来るぞ!」

 とっさの指示が功を奏した。まとまっていたらブレスでなぎ倒されていたところだ。

 だが、それがすでに最後のあがきだった。再び放たれたバリスタの矢はドラゴンの眉間を撃ち抜き、バルドが極大化させたアロンダイトの一撃でその首が跳ね飛ばされたのだった。


「ウッハウハやで!」

「旦那さま、その口調はちょっと……」

 バルドが眉をひそめてツッコミを入れてくる。

 ノースウッドの職人を呼び寄せ巨大なドラゴンを解体する。鱗、骨、目玉、肉。余すところなく使い切る。

 モモチ衆にこの戦果を喧伝させたことにより、各国の商人が希少な素材の買い付けにやってきた。

「大公殿下。このたびの巨竜討伐、誠にお見事にて」

「うむ、苦戦したがな。何とかなるもんだ」

「って挨拶はこれくらいでいいですかね?」

「そうだね。トルネさんは友人ですし」

「「あっはっはっはっは」」

 我がコンビニハヤシグループのなくてはならないパートナーである。

 と言うか、物流を担うタルーン商会は、駅馬車、荷馬車、街道整備、宿などを運営し、人の流れ、モノの流れを事実上支配している。

「いやあ、ハヤシ殿の助言、非常に助かりました。あうとそーしんぐ、ですなあ」

「全部自分のところでやろうとするといつか破たんします。得意分野を持っている業者と提携し、グループとして囲い込めば、開発コストを押さえつつ利益を出せます」

「そうそう、それです。業務提携、資本提携からそのままタルーン商会の一部門として取り込んでいますが、規模が大きくなれば利益も大きくなりますし、その利益を適切に分配すればみんな幸せ。いいことです!」

「「はっはっはっは!!」」

「ところで、ドラゴンの鱗ですが、これくらいでいかがですか?」

「いや、伝説の古龍の鱗ですからね? こんくらいですよ」

「んー、ですがこれまでのお付き合いの実績を考慮してこれでは?」

「ふむ、タルーン商会の利益を忖度してこれだけにしましょう」

「買った!!」

「いやあ、今日もいい取引ができました。ありがとうございます」

「「はっはっはっはっは!!」」


 そして次は巨大な甲殻類が歩いてきたとの報告を受け、巨大生物迎撃陣を構築したエリアにどうやって誘い込むかを思案することになるのである。また素材で一儲けだ!

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