1-7 人型の魔獣を殺すのは凄く抵抗があります

 周辺のスライムを3匹狩ったらレベルが上がった。どうやら先程創った【獲得経験値増量】の効果が大きいようだ。初期のレベルは上がりやすいが高レベルに成るほど上がりにくくなる。今のうちにレベルアップ時の獲得率を上げておいた方がいいだろうと思い、【獲得AP増量】【獲得HP増量】【獲得MP増量】をまず優先することにした。


 創りたいスキルはまだたくさんあるのだが、MP量の少ない今創っても役に立たない。今はレベルアップ時の増量効果を得るためにそっちを優先した方がいいだろう。



 サリエは倒したスライムから小さな魔石を持ってきた。若干水色の半透明な小さなビー玉っぽい物だ。


 この魔石を冒険者ギルドに持っていくと買い取ってくれる。スライムは常時討伐対象になっていて5匹倒すと魔石報酬と別に討伐報酬が得られる。最弱のスライムなので大した額にはならないが、初心者冒険者には大事な収入源のようだ。スライムの魔石1つ大体500ジェニー。5匹の討伐報酬が5000ジェニー。5匹倒せばトータルで7500ジェニーの収入だ。


 この世界のジェニーの価値は大体今の日本の円よりほんの少し高いくらいかな。

 大体同じくらいと思っていれば問題ないだろう。


 最弱のスライム倒して日当分稼げるんだと思ってはいけない。普通は俺のようなチートな探索スキルを持っていないから、街の周辺だと1日駆けずり回ってやっと20匹ほど探し出せるぐらいだろう。



『ナビー、次はどっちに行ったらいい?』

『……そうですね、1キロほど離れたところにゴブリン3、オーク2の群れがいます。サリエなら楽勝でしょうから、それを狩るといいでしょう。人型の魔獣のオークならマスターにとってお得な戦闘系スキルを持っているかもしれません』


『そうか! あいつら弱いけど、剣も魔法も使うんだったな』


「サリエ、次は1キロほど移動する。そこにゴブリン3頭、オーク2頭の群れがいる。どうやら狩りの為、巣から出てきているようだ」


「ん、リューク様の探索スキル凄い! これだとサクサク狩れて、すぐ安全圏までレベルアップできそう!」


「そうだね、すでにレベル3だしね」

「ん? スライム4匹で2レベルアップ?」


「まぁ、元がレベル1だからね。普通、街の外に狩りに行くのは貴族でも10歳の社交デビュー後だから少なくてもレベル10になってからだし、ここまでポンポンすぐは上がらないよね」


「ん、それもそうか。リューク様すぐそこへ行こう」


 普通に生活してるだけで、種族レベルは10までなら1年で1レベルぐらい上がるのだ。10歳だとレベル10以上になっているのが普通で、10になってない子は余程過保護に育てられた良家のお子様ぐらいだ。逆に苛酷に仕事をさせられているような子は10歳でもレベル15とかの子もいる。そういう子たちは魔法の習得はないが、【身体強化】や【腕力強化】などの自己習得できるようなものを得ている子も多い。




 オークがいる場所まで1キロの距離だったが、10分ほどで到着する。

 どうやらリューク君は学園に通うために幼少のころから公爵家の爵子として恥ずかしくないよう強制的に体を鍛えられていたようだ。スキルは初期化されているものの、ある程度鍛えられた肉体は健在だ。


 俺も息切れひとつないが、サリエはかなりまだ余裕がありそうだな。


「サリエは随分まだ余裕ありそうだね?」

「ん、1キロくらいなら走れば3分かからない」


 この娘間違いなく【身体強化】持ちだな。あとでサリエのスキル構成覗いてみよ。


「あいつら移動中だね。僕がゴブリンを倒すから、サリエはオーク2頭頼めるかな?」

「ん、全部私がやるから、リューク様は後ろにいて!」


「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。パッシブ効果でゴブリンごときじゃ僕のシールド壊せないから」


「ん、でもまだ熟練度が低いって言ってた……」

「低くてもゴブリンやオークじゃ壊せないから僕の言うこと信用して」


 サリエの顔はまだ不満げだが、しぶしぶ俺の指示に従うことにしたようだ。


「ん! 絶対無理はダメ!」

「分かった、約束する。それと、オークの肉が傷まないようにできるだけ綺麗に狩ってね」


「ん! 勿論! オークは私の大好物!」


 どうやらサリエもオーク肉は好きなようだ。

 ちなみにゴブリンの肉は臭くて、どう料理しても食べれないほど不味いそうだ。


 オークは身長2メートルほどある人型の魔獣だ。豚8:人2って感じの風貌で豚耳、豚鼻で長い牙が下顎から突き出ている。足は短く腹がでっぷりと出ているが、筋肉質で相撲取りのような体形をしている。2足歩行の人っぽい豚って感じかな。


 オークは低級扱いの魔獣だが、一般人の男性が武器を持って3人ほどいないと勝てないぐらいには強いみたいだ。


 ゴブリンは身長120cmほどでサリエより少し低い程度の大きさだ。こちらは一般人でも武器を持ってれば勝てるほどに弱い。スライムと同程度のものだが、たまにどこかで拾った剣や槍を持っていることがあるのでそこだけはスライムと違って注意がいる。


 剣やナイフを持てば人間の子供でも脅威なのと同じだ。


 このオークとゴブリンはよく一緒に行動しており、ゴブリンはオークの身の回りの世話をして群れに混ぜてもらっている関係らしい。サメにくっついて身を守っているコバンザメみたいなものだ。あと、コボルドという上半身がゴブリンで下半身が犬型の魔獣も偵察要員としてオークの群れによくくっついている。


 この3種は共存関係にあるらしく、よく一緒に狩れるのだが、食用はオークだけで他は魔石を取ったらゾンビ化しないように首を落として放置か、焼却処分するのだそうだ。




 サリエに指示をだし戦闘を開始したのだが、正直スライムと違ってかなり怖かった。


 サリエは早々に2頭ともオークの首を落とし、俺のすぐ後ろで控えている。


 体が震え、手足が緊張してうまく動けない……スライムの時には感じなかった人型を相手にするという、疑似的殺人意識が出たためだ。ゴブリンを刺した瞬間、子供を殺しているような感覚に陥ってしまったのだ。リアルに飛び出る血飛沫がなおいっそうの恐怖を煽ってくる。


 2匹倒した時点で足がガクブルになってしまい、俺の動きが極端に悪くなってしまった。ゴブリンの武器はただの木の棒だ。当たっても打撲程度にしかならない。シールドを掛けてある俺には直撃してもダメージはないだろう。見兼ねたサリエが声を掛けてきた。


「ん! リューク様大丈夫? 私がやる?」

「大丈夫だ……僕にやらせてくれ」


 サリエに任せてもいいのだが、もしサリエがいない時に暗殺者と対峙した場合に恐怖で動けないじゃ話にならない。魔法は使わず、敢えて剣で首を落としゴブリンを屠った。


「ん、リューク様は殺生が苦手?」

「そうだね。あまり好きじゃないけど、今回は記憶の混濁が原因だと思う。次からはもう少しうまく動けるだろうからあまり心配しないでいいよ」


 記憶のせいでと無理やり理由をこじつけたが、サリエは不安げな雰囲気を出している。

 リューク君自体はオークを殺すのは平気だった。つまりビビってるのは俺なのだ。


「ん、心配だけど見守る。【クリーン】」

「ありがとう。サリエは浄化魔法を持っていたんだね。おかげで返り血が綺麗になくなった」


 お風呂の際【クリーン】と言っていたので、サリエが所持していると予想はしていたが、中々便利な魔法だ。


「ん、リューク様、次はどっちに行く?」

「少しまた考え事をしたいから、考えがまとまるまで待っていてもらえるかな?」


「ん、分かった。待ってる」



 ゴブリンはともかく、オークからスキルをいくつか奪えたようだ。


 ・【隠密】レベル3   :気配を消す魔法

 ・【忍足】レベル2   :足音を消しながら歩く技術

 ・【気配察知】レベル4 :周囲の気配を探れる

 ・【嗅覚強化】レベル3 :嗅覚が良くなる

 ・【嗅覚鑑定】レベル3 :匂いから体調や状態が判別できるようになる

 ・【剣士】レベル2   :剣の扱いが上手くなる

 ・【棒術士】レベル3  :棒の扱いが上手くなる


『ナビー、【嗅覚強化】は分かるんだが【嗅覚鑑定】ってなんだ?』

『……さっき狩ったうちの1頭が上位種のオークナイトだったようですね。そいつの所持してたスキルなのですが、匂いを嗅ぐことによってその嗅いだ成分から対象の体調や、状態、個人香などの分析ができるようです。鼻の良いオークならではの種族スキルですね。人族はあまり持ってる人がいないレアスキルです』


『個人香ってのはなんだ?』

『……この世界では、指紋のように各個人で匂いが全く違うのです。ある程度の属性ごとに決まったベースはあるのですが、嗅覚の優れた人からすれば全く違った匂いに感じられるでしょう。あと、匂いはその人の心が滲み出したものとも言われていて、善良な者ほど良い匂いがするそうです。逆に犯罪を重ねた醜悪な心を持った人は悪臭になるようです』


『俺の世界でも匂いは皆違うが、人が分かるレベルじゃなかったからなんか面白いな。俺の世界にはなかったものだ。それと【剣士】レベル2ってあるけど技術まで奪えるのか? いくらなんでも触ったこともない武器の扱いを習得できるってわけじゃないよな?』


『……そのまさかのようですね。リュークは剣を学んでいましたが【剣士】レベル9まで習得していました。転生時すべてリセットされてしまいましたが、どうやら技術も敵から奪えるようです。扱ったことがなくても、ユグドラシルから技術をマスターにラーニングすることができるようです。APポイントを割り振ることで【剣士】のレベルを上げて剣の腕も上げられるみたいです』


『【殺害強奪】ヤバくないか? そんなことしていいのか? 普通は一生懸命毎日鍛錬してやっと技術が向上するんだぞ。殺してそいつの技術をまるまる奪うなんて……』


『……マスターが自分でそういうスキルを創ったのではないですか? イメージ通りですよね?』


『確かにイメ通りなんだけど、ズル過ぎるというか……いいのかなって気になる。まぁ6日間じゃ、高が知れているから許可されたんだろうけどね。リューク君【剣士】レベル9とか凄いな。もうすぐカンストじゃないか』


『……【剣士】→【剣聖】→【剣王】→【剣鬼】→【剣神】と続きますのでまだまだですよ?』


『あれ? そんなに上があったの? 記憶にないや……ちなみにサリエはどれぐらいなんだ?』

『……【剣王】レベル8ですね。魔法科入学生の平均が【剣士】レベル5程度です。騎士科の生徒の平均が【剣聖】レベル1ぐらいです。サリエはかなり強いですよ、マスターの為に随分頑張ったのでしょうね』


『サリエは魔法科に行くより、騎士科に行った方が良いのじゃないか?』

『……そうとも言えません。サリエにはエルフの血が流れているので魔法適性も十分あるのです。寿命も人族よりも長いので両方伸ばすのも良いのではないでしょうか』



 技術も奪えるという事実が分かった。しかもパーティーメンバーのサリエが狩っても奪えるというチートっぷりだ。オーク主体で狩るのが良いだろうと思う。


 レベルも2つ上がっている。とりあえず奪ったAPはすべて【獲得AP増量】に振ってAPをまず稼ぐ必要がありそうだ。入学までに元の【剣士】レベル9までにはしておきたい。


 今回のレベルアップ時にAPが21ポイント入っている。どうやらレベル毎に3ポイントずつ増えているようだ。種族レベル5→レベル6になるときには15ポイント入ることになる。次は18→21→24という具合だな。レベルアップ毎にAPを多くもらえるのは嬉しいが、だんだんレベルが上がれば雑魚魔獣じゃレベルアップ自体が難しくなってくるので、これも【殺生強奪】頼りになってきそうだ。


 APを使って熟練度のレベルを上げる時の消費量なのだが、こんな感じだ。


 レベル1→レベル2に割り振るのに2ポイント消費       2

 レベル2→レベル3に割り振るのに3ポイント消費       5

 レベル3→レベル4に割り振るのに4ポイント消費       9

 レベル4→レベル5に割り振るのに5ポイント消費      14

 レベル5→レベル6に割り振るのに6ポイント消費      20

 レベル6→レベル7に割り振るのに7ポイント消費      27

 レベル7→レベル8に割り振るのに8ポイント消費      35

 レベル8→レベル9に割り振るのに9ポイント消費      44

 レベル9→レベル10に割り振るのに10ポイント消費    54


 つまりレベル1からレベル10にするには、APが54必要だということだ。

 サリエの【剣王】レベル8や、これ以外にも沢山スキルを持っているのを考えると、レベルアップ以外でもAPを得る条件があるのだろうと思う。



 今回レベルアップ時にもらった21ポイントと、オークとゴブリンのダブったスキルの還元分の18ポイントで39ポイントある。


 【獲得AP増量】をレベル8にするのがベストだろう。これで次回のレベルアップ時にもらえる分が80%増しになるはずだ。


『……マスター【殺生強奪】にも関与できそうなのでそちらにも対応できるようにしておきますね』


『魔獣を殺して奪うAPが8割増しになるのか? それっておかしくないか?』


『……あまり深く考えても意味ないのではないでしょうか? 『増えるんだ、ラッキー』ぐらいの気持ちで良いのではないですか?』


『それで良いのか?』


 深く考えるだけ無駄なようだ……次回から獲得AP8割増しなら結構早く色々割り振れそうだ。



「サリエ待たせたね。次もオークのいる場所に行く」

「ん、問題ない」




 ここから2km先にいるオークの所に向かうのだった。

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