3-99 課外授業

 今週の実技授業は、主に野外活動における野営の行い方などがメインになった。


「先生テントを買うとしたら、どんなタイプの物でもいいのですか? 学園指定の物とかあるのでしょうか?」


「いいえ、雨風が凌げるようなものなら何でも構いません。私の所属していたパーティーならそもそもテントは必要ないですしね……」


 なんか意味ありげな発言だ……。


『……ロッテは上級冒険者のパーティーだと、土魔法で簡易な屋根つきの箱部屋を建てるから必要ないと思っているようです。土魔法で建てるのは結構難易度は高いですね。イメージと強化が弱いと雨であっさりと崩れ落ちてしまいます』


『テントに拘らなくてもいいのか……土魔法なら俺もできそうだね』


 テントじゃなくてもいいのなら、もっと良いのを考えておこう。フィリアやナナたちを硬い地面の上に寝かせたくないしね。


 その週の学科では、この時期森にいる魔獣や毒虫などの情報を教え、弱点を突いた倒し方などを学び、実技授業では何度かテントを張ったり、飯盒で実際にご飯を炊いたり、簡易竈の縁にパンを張り付けて焼く授業が行われ、来週の野外授業に向けて準備を行っていた。


 そして週末に、来週火曜日頃に雨が降りそうと予想され日取りが決定した。


 * * *


 そして今日は火曜日の早朝―――

 王都の門を出たところで生徒は班ごとに整列し、ロッテ先生が挨拶をおこなう。


「皆さんおはようございます」

「「「おはようございます!」」」


 うわ~、皆、朝からテンション高いね~。

 小学生の時の修学旅行の出発時がこんな感じだったなぁ……。


「出発前の最終確認をしますね。今日から2泊3日で野外実習を行います。クラス単位で王都近辺の森に入りますが、森の中では班ごとの活動になります。各班に1名騎士が護衛に付きますが、基本一切手だししないことになっています。実習の評価は魔獣を倒した数や、薬草などの採取も加点対象になります。授業で習ったことを思い出して、成績優秀班を目指してください。尚、討伐した魔獣や採取したものは採点した後は好きにして構いませんので、ギルドなどに販売してお小遣いにしても結構です。ですが配当で班員内で毎年トラブルが起きています。そうならないように、事前に取り決めなどしておくと良いですよ」


 皆、すでに皮算用して喜んでいるが、俺たちまだ何も狩ってないからね。


 それにしても各班に騎士が1名とは中々豪勢だ。貴族家の子供たちが多いから何かあってはいけないってことだね。王都周辺の森なら騎士1人でも過剰戦力だ……この辺ではせいぜいスライムやホーンラビットのような弱い魔獣しか出ない。一番強くてもキラーマンティスというカマキリの魔獣だと授業で習った。だが、この手の学生の手に余る魔獣は、今回の課外実習のために数日前から間引いているそうだ。


「ナナさんは本当に行って大丈夫なのですか? 車椅子の移動は例え街道でも厳しいですよ? 街道は街中と違って石畳ではなく土なので、車椅子では凸凹に足を取られてうまく進めませんよ?」


「ロッテ先生、問題ないですわ。兄様が、車椅子を魔道具化してくれましたので、ほら、こうやって魔力を込めたら【フロート】が発動して浮くのです。地面との摩擦の抵抗がないので、侍女が軽く押すだけで凄くスムーズに進みます。 凄いでしょ?」


「まぁ、本当に凄いですわね。これでしたら問題なさそうですね」


 俺の班には騎士と神殿騎士が付くみたいだ……ルルがいるので聖女に何かあったら困るってことだね。


「王都周辺なので凶悪な魔獣は基本いませんが、初心者のあなたたちが油断できるほど弱くはありません。初級魔法で退治できる魔獣ばかりですが、十分注意してくださいね」


 授業で事前に説明を何度も受けていたので、簡単に終え出発した。

 魔法科だけあって殆どの者が帯剣だけで、荷物は【亜空間倉庫】に入れているようだ。


 魔法適正が高いと【亜空間倉庫】の容量も必然的に多いのだ。


 大きな荷物を背負っていないので、移動はスムーズだね。3時間ほどで俺たちの野外活動を行う場所に到着した。だが、3時間の移動で既にヘロヘロになっている者が結構いた……これも魔法科の特徴だね。騎士科と比べたら体力がなさ過ぎる。



 * * *



「さて、野営の拠点は密集してこの広場に設置しないといけない。俺たちの班はクジでこの区画が当たった」


「兄様、ここ、一番外側の外れ区画です……」

「あはは、まぁ、魔獣が来ても俺が倒すから心配は要らない」


 密集隊形での一番外は、ナナの言う通り外れだ。群れでいる場合、一番安全なのが群れの中心、魔獣が襲ってきた場合、外が真っ先に襲われるからね。危険度で言えば風下の一番外側が襲われやすくなる。


 それにしても、随分優しい仕様になっている。邪魔な木は伐採され、草も刈り取られ、地面の凸凹も整地されている。俺たち1年生の野外授業はテントを張るだけで良い状態なのだ。


「兄様、テントの設営速度も加点対象です。さっさと設営しましょう」


 成績にどん欲なナナらしいね。

 あ、そうそう……今回うちの班にナナだけ加入してきている。理由は車椅子移動に俺がいた方がスムーズだからだ。それと公爵家のご令嬢ということもあり、神殿騎士もいる俺の班が最も安全だからという理由もあるようだ。要は1カ所に重要人物をまとめた方が守りやすいってことだろう。聖女・王女・公爵家御子息2名……確かに誰を事故で亡くしても護衛に付いた騎士の責任は重大だ。


「まぁ、急がなくて良い。うちの班は、今回テントは使わない予定だよ。案は2つ考えているけど、今日のところは天気も持ちそうなので、土魔法で造ってみる」


 授業ではうちの班員もテント設営を皆と同じように学んでいたので、皆テントを張るつもりでいるのだろう。実は俺の魔法で造る案は教えていなかった。ここで造って驚かせようと思っていたのだ。


 土魔法の中級魔法【ストーンラウォール】にイメージを込め、18畳ほどの箱型の小屋を生成した。入口は皆がいる方の中心側に空けておく。


「一瞬で小屋が建った! 兄様凄いです♪」

「リューク様素敵ですわ♡ わたくしの婚約者として皆に自慢です♡」

「流石ゆ、リューク様です!」


 目論見通り皆驚いてくれた。でもルル、また勇者って言いかけたね……それに、君はもっと凄い物見てるよね?


 マームとキリクも目が点になっている。

 周りで一生懸命テントを組み立てている皆も、手を止め凄く驚いている。


 更に土魔法で内部を6畳と12畳ぐらいに土壁で区切った。男子部屋と女子部屋に分けたのだ。そして【インベントリ】からベッドを人数分出して、奥と手前にランタンを設置する。


 竈も同じように土魔法で小屋の前に造ってうちの班はあっという間に拠点完成だ。


 全体の様子を見ていたロッテ先生がこっちにやってきて、小屋の土壁を軽くコンコンと叩いた後、腰のナイフを抜いて少し強めに壁に突き刺した。


 そして続けざまに3発、水魔法の【アクアボール】を拠点に放った。


「なんて強度なの……す、凄いですね! これなら寝ている間に崩れる心配もないでしょう」


 どうやらテント設営の課題項目は満点をもらえたようだ。


 1時間ほどで全員の野営設置が終え、丁度お昼時になる。

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