3-100 課題クリア

 全員のテントが設置できた頃に丁度お昼時になった。


「規格外のおかしな班が1つありますが、どの班も大変上手にできていますね。これから各班でお昼にしてもらいますが、問題ないですか?」


「先生! 何を食べても良いのですか?」

「はい。食事は班ごとに何を食べても構いませんよ。但し、90分という食事時間は守ってくださいね。2泊3日という事は事前に分かっていることですので、それを踏まえて準備してきていますよね? 授業で習った基本の干し肉とパンだけで済ませても良いですし、竈でスープを作っても良いです。火を使う班は火事に気を付けてくださいね?」


 食事は基本班ごとの自由だ。俺は外に土魔法で大理石のように表面を磨いたような長テーブルと長椅子を生成した。10人が座れるサイズだ。


 そこにナビーが作り置きしてある料理を人数分並べる。【時間停止】機能のことが皆にばれるが、建国して国を出る気でいる俺には今更問題ではない。隠して不便するくらいなら使った方が良い。悪意ある者がこれ目当てに近付いてきたらナビーがすぐに教えてくれるのだから使わない手はない。



 うちの昼食


・オークの塩胡椒ステーキ

・野菜炒め

・コンソメスープ

・パン

・ハチミツレモン水


「リューク様、とっても美味しいです」

「兄様、美味しいですわ」

「ん、美味しい」

「流石リュークお兄様です♡」



 どうやらナナとプリシラは外で食べるのが新鮮で、余計に美味しく感じているようだ。


 周りで携帯食を齧っている班からは、物欲しそうな目で見られていたけどね。



 * * *



 昼食後、午後からの行動予定をロッテ先生が説明してくれる。


「皆さん、午前の課題は全員無事クリアです。おめでとう」


 一斉に歓声が沸く。


「残された課題は後1つ『1人1体魔獣を狩る』というものです。沢山狩れば加点されますし、その間に行った採取などの活動も加点対象になります。それと、仲間たちとの協力や協調性などもチェック対象になっていますので、喧嘩などしてトラブルは起こさないようにね。何か質問はありますか?」


「はい先生! 倒す魔獣はどんなものでもいいのですか?」


「ええ、魔獣のランクはどんなものでも結構です。極端な話、一年次の課題ではスライムでもドラゴンでも扱いは1匹としてカウントしますので、倒す対象は何でも良いですよ。回復職の者は火力がないので、攻撃職の者から協力を得て、止めを刺させてもらったりして倒しましょうね。決して無理はしないように。オークなどの群れと遭遇して倒せない、逃げられないと判断した場合は、声をあげて救助要請してください。近くにいる騎士が加勢に入って倒してくれますので、無理だと思ったらすぐに声をかけてくださいね」


 さっきロッテ先生が言っていた協調性を見るって、そういうことか。うちだとマームだね。弱らせてあげないと、初級の熟練レベルの低い魔法じゃ倒せないからね。


「他に質問はないですか?」

「先生、魔力操作と初級魔法の授業しか行っていないのに、いきなり魔獣を1体倒せとか無謀な課題じゃないですか?」


 ごもっともな意見が生徒の1人から出た。


「確かに先生もまだ早いと思ってはいるのですけどね……でもこれは学園が始まった当初よりの恒例行事なのです。入学して間もない中間試験後のこの時期に敢えて行うのだそうです。『騎士を目指そうという者が下級魔獣ごときに怯むようじゃ騎士になる資格なし』というのが国の考えなのでしょう。『魔獣が怖くて逃げだす者はさっさと辞めてしまえ』ですね。早いうちにふるいに掛けるという目的もあるのでしょう」


 国というより上位貴族が考えそうなことだ。一般の魔力制御程度しか扱えない生徒のことは考慮していないのだろう。上位貴族の子息は家で家庭教師が付いて初級魔法は学習済みだからね。


「倒した魔獣はどうすれば良いのですか?」

「2年次の課外授業では、倒した魔獣の素材をどうするかでも評価が違うのですが、1年次はどう扱っても構いません。1体倒せば評価は100点です。ですが、倒すまでの過程での加点項目がありますので、倒せなくても不合格ではありません。今回倒した魔獣はどう扱っても良いということは、ギルドに売っても良いということでもあります。持ち帰って売ったお金をお小遣いにすると良いでしょう」


 お小遣いと聞いて、また歓声が上がった。森の中で騒ぐと魔獣が来ちゃうよ。


「では、班ごとに狩りに出てください。必ず午後4時までに戻ってくださいね。では解散!」


 1人1体か……うちは人数が多い分、倒さないといけない魔獣の数も多くなる。

【周辺探索】の魔法にそれなりの数の魔獣が引っかかるが、危険な魔獣はいないようだ。


 10キロほど先に40頭ほどのオークの巣があるが、騎士たちは知っていて敢えて放置しているみたいだ。巣から狩りに出た部隊を俺たちに狩らせるつもりなのだろう。


『……マスター、この周辺も1年生に無理そうな魔獣は事前に冒険者を雇って間引いているみたいです』

『やっぱ親切設定なんだね……』


『……大半が貴族家の子供ですからね。何かあっては大変なので、安全には特に気を使っています』


 【周辺探索】を使ってさっさとノルマの1匹をクリアすることにしよう。


「俺たちの班はオークの群れを狙おう。1kmほどの所にオーク2・ゴブリン4の群れが狩りに出ているみたいなので、そこに向かおうか。途中にスライムとかホーンラビットがいるので、それを狩ったらうちの班は全員クリアだよ」


「リューク様の索敵魔法はそこまで判別できるのですか?」


 この質問はキリク君だ。


『……成程、キリクはマスターの為に幼少時より索敵スキルの習得に励んでいたようです。今回役に立てると思っていたみたいなのですが、自分より優れた索敵魔法を持っていると分かり、ちょっとショックだったようです』


『あたた……悪いことしたね。そっか、キリク君は闇系が主属性だったね……』


「うん。生き返った時に女神様に頂いた祝福の恩恵なんだ」

「そうでしたか……精細なことまで分かるスキルですね。私の習得した探索スキルでは、索敵エリアが狭いし、魔獣の詳細までは判別できないです。素晴らしいです」


 キリク君は拗ねないで素晴らしいと称えてくれる。やっぱ良い奴だよな……。


 オークの群れに向かう途中、スライムがいたのでマーム1人で狩らせてみる。


「マーム、スライムだから1人でやってみようか?」

「はい。【ストーンスピア】!」


「おお! 【短縮詠唱】完璧じゃないか!」

「はい、リューク様のおかげです! 1匹倒したので課題クリアです♪」


「「マーム、おめでとう!」」


 俺とサリエは逃げ足の速いホーンラビットを1匹ずつ狩って課題クリアだ。


「あ、兄様オークがいました」


 どうやら食事中のようで、何か狩った魔獣を食べているようだ。


「ルルとキリクがオークを倒そうか。残り4匹のゴブリンを右からナナ・フィリア・チェシル・マシェリで狙って狩ろう」


「「「了解です」」」


「じゃあ、カウント、3・2・1・GO!」


 ルルは弓矢で、キリクは投げナイフでオークの心臓を一撃だった。ナナとフィリアが緊張したのか初撃の魔法を外したが、第2射で見事仕留めた。


「兄様ごめんなさい……1射目を外してしまいました」

「ナナ、フィリア、何も問題ないよ。慌てず2射目で対処できていたから上出来だ。ただ、ここは森の中だから火魔法は控えようか。いくら雨季でも森の中で火魔法は良くない」


「あ! そうでしたわ……緊張で忘れていました」

「ナナも忘れていました。少し聞きたいことがあります。ルル様とキリクはどうして魔法ではなく弓とナイフで倒したのです?」


「それはですね、格下を倒す時にはMPを温存するためにできるだけ物理攻撃で倒すのが基本なのです。特に聖女という存在は回復特化ですので、MP不足で仲間の回復ができないような事態があってはいけないので、野外でのMP管理は慎重に行動するのですよ。キリクさんも同じ理由ではないでしょうか?」


「ええ、ルル様のおっしゃる通りです。私は皆さんよりMPが少ないので、慎重に行動するように教え込まれています。熟練度は低いですが【スピード】の魔法が使えますので、剣などの近接で倒す時はおっしゃって下さい」


「【スピード】は闇系の物理速度が速くなる支援魔法だね。結構レアで有用な魔法をキリクは習得しているんだね。ルルもキリクも凄いね。弓矢とナイフは回収すれば何度も使えるので、魔法職は【弓術】や【投擲】のスキルを習得しておくとMP節約になるよ。技術は習得するまで何度も繰り返し練習しないといけないから凄いよね」


 褒められると2人とも嬉しそうだ。


「このまま狩りを続けても良いんだけど、魔獣が少なくなると、探索魔法を持っていない班が苦労するかもしれないので、うちはもう拠点に帰るとしようか?」


「兄様、もう少しでレベルが上がりそうなのですが……」

「あ、そうか……ナナもフィリアもレベル20になっていなかったんだね。2ndジョブが獲得できるのか。中級魔法も使えるようになるけど、他の班のノルマ達成状況も見て判断しよう。色々俺の班は妬まれたり僻まれたりしているから、周りへの配慮も慎重に行動した方が良いからね」


「素敵です兄様! しっかり周りへの配慮ができるのは、良い領主になる気質を持っています♪ 後日で良いので、ダンジョンにでも連れて行ってくれればナナは嬉しいです」


「はい。わたくしも後日で構いませんわ。自分のこと優先の殿方よりずっと素敵です♡」


「カッコイイです勇者様♡」


 ルルちゃん……小声でも聞こえるんだよ。


『……マスター! 口に出していませんが、サリエがまた可愛いことを思っています。「流石我が主君♡」だそうです』


 お前サリエ好きだよね!

 ナビー発言でサリエを見たら、誇らしげにしている……ドヤ顔なのが確かに可愛い。

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