3-101 皆と外で作る食事は格別だね
速攻で課題をクリアした俺たちは、他の者たちのことを考慮して、早々に拠点に引き返した。
「あれ? リューク君の班はもう帰ってきたの?」
「ロッテ先生、うちの班はノルマ達成です。幾ら沢山狩ったら加点が得られるからといっても、うちには戦闘侍女のサリエや聖女のルルがいるので流石に場違いかなと……狩りすぎると他の班に迷惑だろうと思い引き上げてきました」
「それもそうですね……気を使ってくれてありがとう。そうしてくれると助かります。あなたたちだけで全部狩られてしまうと、他の班の評価ができないところでした」
俺たちに付いていた騎士がロッテ先生に討伐結果の報告をしているみたいだ。
「リューク君、お付きの騎士から報告は受けました。あなたたちの班は全員合格とし、以降は自由としますね。でも今日は他の班の為に魔獣狩りは控えてください」
「ええ、そのつもりで帰ってきましたので、拠点で待機しています」
夕刻4時に一度広場で点呼があった。ある班が15分遅れて帰ってきたが、騎士から事前に連絡があったようで先生も特に慌てた感じはなかった。当然遅れた班は厳重注意を受けたが、帰り際にオークに見つかり、何とか退治して帰ってきたので遅れたとか言っていた。
「今日の午後からで、3つの班がノルマを達成しています。残り2班で6人が魔獣を倒せていませんが、明日1日期日はありますので頑張ってくださいね。それと、1班が遅れて帰ってきましたが、遅れそうな時は早めにコールで知らせること! 騎士から遅れそうだというメールを頂けたので心配していませんでしたが、騎士から事前連絡がなかったら大慌てするところでした」
「「「先生ごめんなさい!」」」
「はい。次からは『報告』『連絡』『相談』、授業で教えた『ほう・れん・そう』をしっかり守ってくださいね。みんなもですよ!」
「「「は~い!」」」
へ~、この世界でも『ほうれんそう』あるんだ……でも今の日本だと『ほうれんそう』は古いって言われてるんだけどね。たしか『かく・れん・ぼう』=『確認』『連絡』『報告』のほうが自発的社員に育つとからしい。
相談させるより自己で考えさせ、それを行動に移す前に上司が確認だけしてGOする方が効率も自主性もいいとか……まぁ、俺はそんな型にはまった考え方自体が好きじゃなかったけどね。
それにしてもこの課題、探索魔法所持者がいない班は不利だよな。ただ拠点で座ってるだけだと暇だし、手伝ってもいいなら暇潰しになるんだけどな~。
「ロッテ先生、ノルマをクリアした班が協力するのは良いのでしょうか?」
「ええ、勿論良いですよ。でも、自分から言い出す人は珍しいですね。普通は自分の班以外はライバル、自分の班がクリアできれば他の班は知ったことではないと考える人が殆どです。先にも言いましたが、協調性は加点項目にも入っています。敵視するとか足を引っ張るのではなく、リューク君のように同じクラスメイト、仲間として手助けしてあげようと思うのはとても良いことです。それと1年次は助けてもらったからといって減点になりません。あくまで1人1体倒せば課題クリアですからね」
「先生、この課題ってぶっちゃけると生き物を殺せるかってのを見るのが本当の狙いなのでしょ?」
「そうですね。毎年必ずいるのです……女子に多いのですが、魔獣でもどうしても生き物は殺せない。魔獣が怖くて、体が竦んで何もできない。1年学んでそういう事実が分かったら、頑張った時間が勿体ないですからね。魔獣を殺せないのであれば、騎士学園にふさわしくはないので、辞めるしかないです。2年次の課題をクリアできず、落第となり進級できません。早い段階で見極め、違う道を薦めるのも優しさの一つかと思います。ただ、1年次は倒せなくても進級できますので頑張りましょう」
その日の晩、マームを通してうちの班にヘルプ要請があった。
どうやら探索魔法持ちがいないらしく、時間一杯まで森の中を歩き回ったがスライムしか発見できず、まだ3人しかクリアできていないようだ。1PTは7人なので、後4人も残っている。当然最下位だ。
「あの……リューク様……ダメでしょうか?」
マームは言いにくそうにモジモジしながら俺に問いかけてくる。
当人たちも一緒に来ているので、気になったことを聞いてみる。
「直接俺に言ってこないで、マームを通したのはどうして?」
「兄様……ルル様が加わったこの班にお願いし辛いのだと思いますよ。先ほど兄様の方から協力して良いのかと、先生に聞いていたから、こうやってマームを通してアポイントを取ってから訪ねてきたのです。直接兄様に言ってこない判断は好ましいです」
「ありがとうございますナナ様、おっしゃる通りです。聖女様や王女殿下、公爵家の御子息のいる班にお願いするのは恐れ多いことだと思っています。ですが、課題がクリアできなくて進級できない事態になるのは困るので、マームさんに間に入ってもらい口添えをお願いしました」
マームは『貴族に取り入って気に入らない』とかの理由で、仲間外れにされる可能性もあるのだ。ここはマームの顔を立ててあげるのが正解だろう。
「分かった。勿論良いよ。明日午後から雨になりそうだから、午前中にサクッと終えようか? それからマーム、そんなに俺に遠慮しないで良いんだよ」
「はい! それじゃあひとつお願いがあります」
「何だい?」
「リューク様に教わったスキル発動のコツや、勉強のやり方などを皆にも教えてあげて良いですか?」
別に隠すようなことではない……俺に教えろというなら問題だが、マームが教わったことを教えてあげるのなら全く問題ない。
「ああ、勿論良いよ。でもマームの負担にならないようにね。自分の勉強が優先だよ。その上で空いた時間に教えてあげるのなら良いよ。休日のパーティーでの狩りなんかに行くときはこっち優先にしてね?」
「勿論です! ありがとうございます」
どうやらマームの中間試験の点が良かったので、皆にどういう勉強をしているのか尋ねられ、俺に教わったのだと言ったようなのだ。直接俺に聞きにくいから、間接的にマームから教わりたいと言われ、勝手に教えるのもいけないかと俺に許可を求めたみたいだ。そんなに俺に気を使わなくても良いのに……。
* * *
夕食は皆と一緒に作った。
大きな寸胴鍋でオニオンスープを作って、この分は他の班の希望者にも配る事にした。
ナビーの作り置き料理も大量に持っているのだが、それでは味気ない。こういう時は皆でワイワイやるのが後々良い思い出になるんだよね。
勿論ナナにも仕事を与える。
「ナナとフィリアはこのお肉をサイコロ状に切ってくれるか?」
「「はい」」
「手慣れたチェシルとマシェリは人参と玉ねぎ、ジャガイモの皮むきだ」
「「了解しました」」
「マームとキリクはこのオークステーキを焼いてくれ」
「「はい」」
「ルルとプリシラはこの野菜を手で千切って盛り付けてくれるか? ドレッシングを掛けてサラダにする」
「「分かりました」」
「ん、私は? 私だけ何も言われてない!」
自分だけ仕事を言われなかったサリエがちょっとご機嫌斜めだ。
「サリエは俺とこっちで飯盒でご飯炊きだ」
そう言ったらめっちゃ良い笑顔を見せた……可愛い!
皆の食事があまりにも質素だったので、敢えて大きな鍋で作り、スープを振舞ってあげた。護衛の騎士たちにも配ったので大変喜ばれた。
本日の夕飯
・オークのステーキ(マーム・キリク作)
・ホーンラビットのコロコロお肉入り野菜炒め(ナナ・フィリア作)
・オニオンスープ(チェシル・マシェリ作)
・レモンドレッシングの生野菜サラダ(ルル・プリシラ作)
・ご飯(俺とサリエ作)
自分たちで協力し合って作った料理は、いつもより美味しく感じるね!
外で皆と作って食べる食事は最高だ!
ただ、パエル姉妹には少し申し訳ないと思っている。
いつも食事を作ってくれ一緒に食べていたのに、今回ナナだけがこちらの班に入ったため別行動になってしまっている。流石にパエルとアーシャの二人が抜けると、アルフ君の班の戦力が心もとないからね。
アルフ君の班で楽しそうにはしているが、時々こちらに羨ましそうな視線をパエル姉妹たちから感じるのだ。
今度埋め合わせはするからね……ごめんよ。
夕食後、日が暮れると警戒以外何もすることがなくなる。
することがないのなら、後は寝るだけだ―――
「皆さん! 今回夜の見張り当番は騎士の方たちが行ってくれますが、本来班員内で交代に行うものです。騎士の方々に感謝しましょう。それと魔獣は夜行性な個体が多いです。装備品は外さないで、すぐ対処できるよう武器も近くに置いて寝るのですよ。あとは……男女混合の班構成ですが、くれぐれも変な気を起こさないようにしてくださいね。不純異性交遊を推奨するために男女混同なのではありませんからね!」
先生……何故こっちを見て言う!
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