3-102 皆との野営は修学旅行を思い出しました

 翌朝、今にも雨が降りそうな天気なのだが……俺はそんなことよりとにかく眠かった。


「キリク……大丈夫か?」

「正直全く寝ていません……」


「だよね……ナナとルルには困ったものだ……」


 昨晩女子たちが野営に興奮して騒いだために、うちの班は殆ど寝ていないのだ。


 俺たち男子は巻き添えだ。


 野営は慣れているだろうルルにしろ、同年代とのお泊りが楽しかったのか、朝方までナナたちと騒いでいたのだ。


「リューク様、朝のスープは私にお任せください。この日の為に家伝のスープを学んできました」


「キリクの家の味? じゃあ、お願いするよ」


 朝のスープはキリクに任せて周りを見たのだが、どこの班も目を充血させてテンション高めな者ばかりだ……どうやらうちと同じ状況だったようだ。


 中学時代の修学旅行を思い出すな……夜中興奮状態で眠ないで騒いだせいで、移動のバスの中ではバスガイドさんを無視して皆が寝ているという状況だった。


 やはりこういう行事はどこの世界であっても、みんなとても楽しいのだ。



「お! キリクの作ってくれた豆のスープ美味しいな!」

「あら、本当ですわ。優しい味がします」


「ありがとうフィリアさん。これは大豆のスープで、眠気覚ましの効果があるのだそうです。必ず初めての野営ではこうなるからと、兄が我が家に伝わる野営時に飲むと良い眠気覚ましのスープだと笑いながら教えてくれました」


「あはは、キリクのお兄さんも数年前に経験済みだったのだね」


「兄様、ごめんなさい。昨晩はちょっと浮かれていたようです」

「リューク様……騒がしくしてごめんなさい……いつもは神殿騎士と5つ以上歳の離れたお姉さまたちしかいなかったので、昨晩は凄く楽しかったのです……」

「ん、楽しかった」


 フィリアもマームも頷いているので、余程楽しかったのだろう。

 パジャマパーティーとか女子会とかいうやつだね。


「別に怒ってないよ。ほら、他の班も同じような感じみたいだよ。俺も何だかんだとキリクと遅くまで話し込んでたしね。折角の機会なのだから楽しまない方が損だよ。でも、眠気で判断が鈍って怪我とかしないようにね」


「「「はーい!」」」


「マーム、食べたらカイト君の班と合流してすぐにでも狩りに出ようか? 今にも雨が降りそうだから、早めに終えて戻ってこよう」


 カイト君がリーダーの班は、初級魔法がまだ発動していない者も2名いた。1年次の進級までに習得できればいいのだから問題ないのだが、こういう課題の時は実に不利になる。


 魔法習得前に魔獣を倒せとか……課題自体に問題があると思うのだが、国で一番と言われる騎士学園の魔法科なので、あまり学園の方針に文句も言っていられない。





「カイト君……マジか?」

「ご、ごめんなさい!」


「いや……責めているわけではないけど、それはあまりにも危険すぎるだろ?」


 俺が何を危険だと言っているかというと、カイト君の班にメイン武器を持たずに来ている者が3人もいたのだ。魔獣が出る危険な森にナイフ1本で来ているのだ。


「君たちは昨日スライムしか出なくて幸運だったのかもしれない。君たちに1本ずつこれをあげよう。サリエとオークのコロニーを潰した時に、オークたちが持っていた物だ。錆びた鉄の剣でまだ使えそうなものを研ぎ直したジャンク品だ。鉄なので刃は脆いし、手入れもこまめにしないとすぐ錆びるけど、初心者には丁度良いだろう」


「リューク様! 頂いても良いのですか⁉」

「さっきも言ったが、元は錆びた鉄の剣だ。ジャンク品なので、3~5万ほどで手に入る物だ」


「ありがとうございます。我々はその5万ジェニーがなかったのです……パーティーメンバーで出し合って、回復剤を3個買うのがやっとでした」


 武器の種類は本人たちに選ばせ、女子にはショートソードを、男子には両手持ちのロングソードをプレゼントした。

 初級回復剤も持っていない者に1本ずつ持たせてあげる。


「本当にこんなに頂いても良いのですか?」

「借りを作るのが気になるのなら、稼げるようになってから返してくれればいい。授業で習ったとおり、森はどんな魔獣が襲ってくるか分からないので危険だけど、ダンジョンの浅い所ならその剣でも魔獣の攻撃パターンを知っていれば難なく倒せる。慣れるまで、詳しいポーターを1人雇って、浅い所でコツコツ稼いでいけばすぐにお金も溜まるし、経験値を得て魔法も上達するだろう」


 近くにいたゴブリンの群れを【魔糸】で捕らえて、4人に止めを刺させて課題完了だ。

「なんてあっけない……さっきの魔法、ひょっとしてリューク様オリジナルの拘束魔法ですか?」


「うん。中々便利な魔法だよ。騎士が使う『魔封じの枷』と同じ効果があるからね」


「凄いですリューク様! 私にも教えてください」


 ルルが目をキラキラさせて聞いてきたが、これは教えて習得できるものではない。


「これはちょっと難しいかな……」


「そうですか……残念です。一度お時間がある時で良いので、どんなものなのか教えてくださいね? 凄く興味があります」

「そうだね、時間がある時にね。よし、雨が降り出す前に拠点に帰ろうか?」


「リューク様、僕たちの班はもう少し探索して行って良いでしょうか? 騎士様が陰で見守っていてくれるこの機会に、少しでもレベルをあげたいのです」


「あ、それならフィリア、キリク、マームも一緒に行っておいで」


 俺の意図を理解したフィリアとキリクがこっちを見て頷いてくれる。2人はマームの補佐兼護衛だ。キリクは探索と護衛に、フィリアは回復に付けたのだ。


「カイト君、キリクは探索魔法が使えるので役に立つと思うよ。フィリアは知ってのとおり回復魔法が得意だから、余程重傷でもない限り、怪我を負っても安心だ」


「「リューク様! お心遣いありがとうございます♡」」


 カイト君の班員の女子が目を♡にして喜んでいる。


「また兄様はそうやって誰彼構わず優しくして……」

「ナナ、それがリューク様の良い所ですから仕方がないですわ……」


「じゃあ、俺たちは先に戻っているね。雨の中、ルルやナナを連れまわしたくないからね」


「はい。僕たちもあまり遅くならないように戻ります」


 俺はこの後フィリアたちに襲いかかる存在に気付かず送り出してしまった―――

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