3-98 もうすぐ野外実習があるそうです

 【ハウスクリーン】の魔法で各部屋を綺麗にしてあげ、子供たちは未だ少ない自分の荷物を部屋に収納する。魔法の効果で調理場やお風呂場も凄く綺麗になった。


 ちなみに部屋は一杯あるので基本個室だ。

 ルディとカリーナは2人一緒が良いというので4人部屋を2人で使うようにした。


 何故か1番良い部屋は俺の部屋だと言って誰も入らなかった……泊まりに来てほしいという意思表示だと受け取ろう。サリエには睨まれたけどね。



「リューク様、この宿屋、このまま利用できる気がします」


 サーシャがこのままでも開店できそうだと言ってきたけど、俺的には却下だ。


「俺の魔法である程度見た目は綺麗になったけど、床下とか白アリに喰われてるし、ネズミやゴキブリなんかも住み着いてしまっているんだ。それになによりここは元高級宿だったとしても、お昼は食堂、夜は食堂兼酒場だったんだ。俺のイメージしているデザートショップとはちょっと違うかな……」


「そうですか。予定では今後どういう流れでお考えなのでしょう?」


「そうだね……まず、絶対条件なのが君たちの九九の習得だね。お金の計算ができないと話しにならない。そして接客。これも練習してもらわないといけないね。そして肝心の商品の味のクオリティーを上げて、毎回同じ味で作れるようになるまで練習してもらう。後はフルーツダンジョンに時々行って、店で使う食材の確保かな」


「大変そうですね……」

「そりゃあ人様に売って食べてもらうのだから妥協しないできっちりやらないとね。綺麗な良い店舗、良い接客、良い商品の3つが揃ってやっと開店ができるんだよ。店舗の方はもうすぐ完成するけど、サーシャたちは7月半ばを目標に練習してもらいたい」


「後1カ月半ほど猶予期間がありますね。分かりました。皆で頑張ります。あれ? でも、ここを解体して、新たに店舗をお建てになるのですよね? 大きな建物なら1年はかかるのではないですか?」


「その辺の心配はしなくていい。俺のオリジナルスキルであっという間に建て替えられるので何の問題もない。サーシャたちは計算・接客・クレーム対応・売る商品の調理練習を頑張ってくれればいいよ」


「オリジナルスキルですか? 分かりました。お任せいたします」


「あ、そうだ。1人神殿の孤児院の娘をアルバイトとして雇ってあげてほしい」

「アルバイトですか?」


「ご主人様、エリーの事だね!」

「エリーはルディのお友だちなのです!」


「この子たちを保護した時に一緒にダンジョンに潜ったポーター見習いの娘なんだよ。まだ9歳だから大した事はできないだろうけど、九九は覚えているし、簡単な計算も孤児院で習っているようなので何かできるだろう。見習いの間はお小遣い程度の金額でいいかな。仕事を覚えて戦力になりそうなら、能力に応じた額を与えてあげて。ダンジョンに行く時も、できれば一緒に連れて行ってあげてほしい。ポーター見習いを孤児院に内緒でこっそりやっていたんだけど、危なっかしくてね……」


「うふふ、分かりました。やはりリューク様はお優しいですね♡」


 ミーニャやコロンたちもにっこりして俺を見ている。ちょっと照れくさい。

 でもエリーと口利きしてあげると約束したからね。子供とはいえ、約束は守ってあげないとね。


「接客だけど、サーシャとファリエルさん、ジェシルも何とかいけそうだけど他の娘は少し心配だね。ここは貴族街の入り口付近なので、貴族の者も来ると思うんだ……粗相があっては問題になる」


「リョウマお兄ちゃん……私、それが心配だよう~」

「ジェシルは大丈夫と思うけどな。まぁ、ある程度は何かあっても俺が対応してあげるので何も心配いらない。ジュエルとファリエルさんがめちゃ強いから、ゴロツキたちなら摘まみ出してくれるさ」


「リューク様、そういう輩は追い出してよろしいのですか?」

「ああ、ジュエルに任せるよ。ジュエルの言葉遣いは完璧だけど、接客はしなくて良い。用心棒として見張っていてくれればいいよ。貴族っぽい奴らが絡んできた時は一切手出しはしないで、すぐ俺にコールしてくれ。転移魔法で飛んでくるから」


「リューク様がバックにいると思うと、凄く安心できますね♪」




 ある程度今後の展開と方針を説明してあげ、人心地着く。


「ご主人様、お風呂のお湯が溜まりました」

「お湯がたまったのです」


 カリーナとルディが尻尾をフリフリしながらお湯が溜まったと知らせてきた。

 大きなお風呂で入浴できるのが楽しみなのだろう。


「ルディはごしゅじんさまといっしょに入りたいのです!」

「なら一緒に入るか?」


 全員が入ると言ってきたがそれは却下だ!

 サーシャやコロンがいると、子供には見せられない変化が俺の体の一部に起きてしまう。


 カリーナとルディと……サリエの4人で楽しく入りました。


 * * *


 休日明けの授業はかったるい……異世界に来てもそれはやっぱ変わらないね。


 中間テストが返ってきたのだが……ナナは全教科満点で圧倒的1位だった。


 1位 ナナ

 2位 ルル

 3位 同点でローレル姉妹

 4位 アルフ君……何気に優秀だ。

 5位 レイリアさん

 6位 なんとサリエ……うんうん、よく頑張ったね。

 7位 キリク

 8位 フィリア

 9位 パエル

 10 アーシャ

 16位 マーム

 27位 プリシラ 


 俺? 13位だった―――おかしい。


『……マスター、魔法学以外は100点です。魔法学の方も問題の方が間違っているのです。マスターは満点でしたが、教科書や板書通りの回答をしていなかったので13位なのです』


『グハッ! そういうことか!』



「皆さんこの結果を踏まえて、期末試験も頑張ってください。プリシラさんはひょっとして漢字が読めなかったのですか?」


「はい。読めない漢字がまだ一杯ありまして……前後の文字で判断しながら回答したので、結構間違っていました」


 数学などはほぼ平仮名だけだったけど、流石に国語や歴史は習った漢字が使われていた。魔法学でも火・水・風・土などのようなすでに習ったようなものは漢字で書かれていた。どうやらプリシラはその辺りの漢字で躓いたようだ。


「仕方がないですね。少し前まで目が見えなくて文字すら読めなかったのですから。むしろよくこれだけできていると感心したほどです」


「期末試験までには漢字も覚えますので、次はもっと良い成績をとります」


「はい、期待しています。ナナさんは文句なしの満点でした。素晴らしいです!」


 皆が一斉に拍手を送る。照れているナナは可愛いね。


「サリエさんも素晴らしい成績でした」

「ん! 頑張った!」


「リューク君、魔法学以外全問正解でしたが、魔法学はお嫌いですか?」

「兄様? どうしたのですか?」


「いや……次は頑張ります」



 魔法学の試験問題に『スキルは一言一句間違わないように呪文を詠唱しないと発動しない』とあった。俺はこの回答に、『スキルはイメージをしっかり持てばどのようにでも発動できる』と答えたのだ。同じように何箇所も不正解にされた問題があったためこの順位になってしまったのだ。


 俺の答えが本当は正しいのだが、面倒だったので敢えて訂正しなかった。クラス内でのサリエの株も上がったことだし別にいいだろう……説明する方が面倒だ。


「さて、中間試験が終わったのでいよいよ皆さんお待ちかねの野外実習があります。来週あたりに行われる予定なので、今日の午後の実習から野営の為の基礎実習として簡易竈の作り方やテントの設営方法などの練習もおこないます」


 クラス内がキャッキャと騒がしくなった。


「ロッテ先生、来週あたりって、まだ具体的な日にちは確定していないのですか?」


 クラスの男子が何気ない質問をする。

 貴族の子供たちはこの野外実習の目的を知っている。今の質問は商人の子供からのようだ。


「良い質問です。もうすぐ雨季に入りますよね? わざわざ雨の降る時期に合わせて野営実習を行うのがこの学園の恒例行事なのです。ですので雨が降りそうな数日前に日取りが確定します。いかに雨が厄介か身を持って知るためのものです。冬の雨は流石に危険ですので、あえてこの梅雨時期の雨で行うのです」


「雨の日にわざわざ野外実習をするのですか?」


 なにも初めての実習にそんな厄介なオプションをつけなくても良いだろうに……。


「ええ、なので各自で雨具の準備や野営に必要そうな物を買っておくと良いですよ。勿論野営道具は一式学園で準備しますが、毎年使っているものですので、テントの中には撥水効果がうすくなっていて水が浸みてくるものもあります。鍋なども古いですし、班で一式良い物を用意することをお薦めします」



 良い雨具が欲しいな……後でお爺様の所に買いに行こうかな。

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