1-14 サリエはジェネラルとタイマン勝負がしたいようです
オークジェネラルが巣食った洞窟をMAPで確認したのだが、昨日と数が合わない。
「昨日の夕方確認した時はオークが121頭居たんだよね。現在98頭しか居ないってことは20頭ほど狩りに出ているんだよね? ゴブリンやコボルドが少ないのもそのせいかな? どうする?」
「ん、リューク様、外に出てるオークの居場所分かる?」
「うん。コロニーを中心に10km圏内に分散しているみたいだね」
「ん、【身体強化】とか【俊足】のレベルが一気に上がっているから、慣れる練習がてらに周りから狩るのもいいかも」
「そうだね。【身体強化】MAXの今なら100mを3秒ほどで走れそうだし、移動も苦じゃないからね。【自動拾得】をONにして狩ったものはすべて【インベントリ】にとりあえず入れるようにしておくから、どんどん狩れるものは狩っちゃおうか。後でまとめて要らないゴブリンなんかは魔石だけ抜いて焼却すればいいしね」
【隠密】【忍足】がMAX状態の俺たちは、森の中を音もなく結構なスピードで狩りながら移動中だ。MAPを見ながら魔法の射程に入った瞬間首を落としていくのだ。そして死んだ魔獣は勝手に【インベントリ】に保管される。
もはや狩りと言えない……これは作業だな。
「ん……これはちょっとつまらないかも……」
「ただ移動してるだけだしね。レベルは2つ上がったし、スライムや兎、オークも10頭狩ってるんだけど、面白みが全くないね。ちょっと休憩しようか。スキルをまた増やそうと思うからちょっと待ってて」
「ん! 何を作るの?」
オリジナルスキルの作製と聞いてサリエは興味津々だ。
「MPの回復量を増やすパッシブスキルを創ろうかと思ってね。いくらMPがそこそこあるといっても、消費量が多いと回復が追い付かないからね」
「ん、確かにそうかも。待ってる」
【魔法創造】
1、【HP・MP回復量増加】
2、・時間経過で回復するHP・MP量の回復量が増加する
・安静状態にしているほど回復量は増量する
3、イメージ
4、【魔法創造】発動
【魔法創造】
1、【リストア】
2、・ユグドラシルのデータから対象の過去情報をラーニング
・闇属性の時間魔法で任意の時間まで対象物の時間を巻き戻す
・ナビーのサポートで適性時間を調整してもらえる
・巻き戻す時間により消費MPが比例して増える
3、イメージ
4、【魔法創造】発動
「サリエお待たせ。そういえば【インベントリ】は使ってみた?」
「ん、昨晩は嬉しすぎてなかなか寝付けなかったから、色々試した」
「【スキルコピー】だけど、もらうこともできるんだ。サリエの【双剣術】【拳術】【格闘術】【馬術】をもらっていいか?」
「ん、どうぞ」
「じゃあ、またサリエと【コネクト】するな。【双剣術】【拳術】【格闘術】【馬術】をもらって、【HP・MP回復量増加】と【エアーコンディショナー】【テレポ】【弓士】【槍士】をあげてから【カスタマイズ】でレベル10にして完了」
「ん? 【エアーコンディショナー】ってなに?」
「【エアコン】って唱えてみたら分かるよ。この時期はあまり必要ないけど、夏や冬には凄い効果があると思うぞ」
「ん? 涼しくなった! 何これ! 凄い!」
「だろ? 真夏の暑い時期に長袖を着てこれだけ走れば汗だくになるからね。それが回避できる魔法だ。でも冷やし過ぎたり暖め過ぎたら命に係わってくるから気を付けるんだぞ? 脱水を起こしたり体を冷やし過ぎて体調を崩したりもする。寝るときはタイマーセットして極力消すようにね」
夏でも冒険者は長袖は仕方がない……特に夏場は森や林の危険な毒虫や毒草などから身を守る必要がある。
半袖や半パンなんかでピクニック気分で出歩いていたら、蛭や毒蜘蛛、毒毛虫にやられたり毒草で被れたりしてしまうのだ。
「ん、分かった。リューク様ありがとう」
「サリエは多分【多重詠唱】も欲しいと思うけど。あれは国が滅ぶレベルの禁呪だからちょっと考えさせてくれな。コピー制限もあって5人までしかコピーもできないしね」
「ん? 5人?」
「レアなスキルはコピーしてあげられる人数に制限があるんだ。サリエにあげたのでレアなのは【インベントリ】【無詠唱】【テレポ】【マジックシールド】【ボディースキャン】【アクアフロー】【魔法消費量軽減】【HP・MP回復量増加】これは僕の生涯で10人までしかあげられない。同意のもとに返してもらうか、サリエが死亡しないことには10人という枠に縛られるんだ。だから誰にでも話せないし、あげられない。下手にコピーできるのが分かったら皆それを望むでしょ? 『私はなんでコピーしてくれないの?』『俺はどうしてダメなんだ!』とかの苦情も出るだろうしね」
俺の話を聞いてたサリエは急に泣き出した。声は殺しているが涙が止まらない。
「サリエ、どうした!?」
「ん! 人数に制限があるのに、そんなレアなスキルをコピーしてくれて嬉しいの!」
「サリエが信用に足ると判断したからね。身内以外にあげる気はないのでくれぐれも秘密ね」
「ん! 誰にも言わない!」
「【多重詠唱】がヤバいのは分かるよね?」
「ん? 同時に一杯倒せるから?」
「どうやら分かっていないね。僕のオリジナルはレベル1で10個同時発動できるんだけど、もしこれをレベル10で広範囲魔法の禁呪指定の【メテオ】や【ファイガストリーム】なんかを同時に100個放ったらどうなると思う?」
「ん! 街が消える!?」
「だよね……ヤバいでしょ?」
「ん! ヤバい! 国に暗殺されかねないレベルでヤバい!」
「そういうこと……だから誰が相手でも勝てるほどの絶対の強さを得るまでは、不用意に人前で使えないんだよ」
「さぁ、後3カ所ほどで周辺のグループも狩り終えるからサクッとやっちゃおうか」
「ん、頑張る」
1時間ほどで周囲の雑魚を狩り終える。【腕力強化】Lv3というパッシブ系スキルを1つ得た。ドキドキしながらこのレベルを上げたのだが、腕の大きさがやたらでかくなることもなく、剣を棒切れのように軽く扱えるようになった。【身体強化】と合わせて俺とサリエの腕力はとんでもないことになっている。
【リストア】で武器を新品同様になる時間まで巻き戻して修理しておく。サリエはまっさらになった武器を見て驚いていたが、流石に昨日から非常識の連発を体験したせいで追及はしてこなかった。
MPが全快するまで休憩し、いよいよコロニー討伐だ。
「ん、リューク様、多分オークやゴブリンの子供もいる。私がやるから他は躊躇しないでね?」
「ああ、昨日と違って今日は大丈夫だよ。可哀想だからと子供を殺さず生かしたら、それがまたどんどん子を増やしてすぐコロニーができるからね」
「ん、即殺は鉄則。甘い事したら、誰かが犠牲になる」
「じゃあ昨日のように、プリーストを僕が倒したら攻撃開始だ。昨日と違って洞窟になっていて奥も深いから、【ホーミング】機能があるけど狩り漏れが出るかもしれないので注意してね。弓兵を見かけたら、サリエも優先してスキルで弦を切るように」
「ん、分かった」
『ナビー、数が多すぎるからまたプリーストの☆表示頼めるか?』
『……仕方ないですね。アーチャーはいいのですか?』
『今回はプリーストだけでいい。サリエのスキル回しも見てみたいからね。それと中に人間の女性は捕まってない?』
MAPでは人は表示されていないが、念のためにナビーに確認を取った。
万が一中に人が囚われていて、誤射で殺人なんかしたくないからね。
『……はい、洞窟内部には魔獣しかいません』
今回は俺の周りを5つのリング状に50個の中級魔法【ウィンダラカッター】が回っている。
前回上位種は2発で倒せることが分かっているが、プリーストのみ3発用意して一斉掃射で撃ち出した。
あちこちで血飛沫が舞い上がる。
オークのブヒブヒ、フゴフゴという悲鳴なような鳴き声が響き渡る。
洞窟の外に出ていた奴らは一斉に襲ってきたが、サリエがこちらに近づく順番に剣で倒していく。
50頭ほどいた外の奴らを倒し終えたのだが、内部から全く出てこなくなった。
プリーストは先にホーミングで内部の奴も殺し終えている。
「ん、出てこなくなった……中に突っ込む?」
「いや、アーチャーが内部からこっちを狙っている。スキルで弓兵を片付けたら炙り出してやる」
洞窟の入り口付近から弓でこっちを狙ってる奴らに【ウィンダラカッター】を放って始末する。そして内部のゴブリンが固まってる場所に【ファイアラウォール】を5発撃ちこむ。
「サリエ、熱と酸欠で出てくるだろうから、順次撃破!」
「ん、了解!」
目論見どおり酸欠状態になって次から次に洞窟の外に飛び出してきた。出てきた奴らは剣で片っ端から首チョンしていく。弓持ちを見かけたら即魔法で排除するのも忘れない。サリエも剣の合間にちゃんと【無詠唱】の魔法でで首チョンできている。
「サリエ、ちょっとおいで。一度武器を修理する。【リストア】よしいいぞ」
「ん、ありがとう!」
俺たちの武器は結構良い品だが、総ミスリルの剣ではない。鉄が混ざっているため剣がぶつかり合うとどうしても欠けたり刃先が潰れたりして切れ味が悪くなるのだ。
「また、出てこなくなったな……」
「ん、また火魔法撃ち込む?」
「さっき撃ったのはゴブリンめがけて撃ったんだよ。オークに撃つと肉がダメになるからね」
「ん、そか……じゃあどうするの?」
「【ライト】×10を中に放つから突っ込もうか? まだジェネラルが残っているから気を付けてね。残数はオーク16、ゴブリン19……もうちょっとだ」
「ん、ジェネラルやっつける」
「行くよ! 向こうが光で目が眩んでるうちにやっちゃおうね」
【ライト】を10個洞窟内部に放って、2人で突っ込んだ。
ほとんどのオークやゴブリンが急に明るくなって目を瞑っているので、その間にサクサク倒していく。
洞窟内部に残ってたのは雌と子供が主体だった。ちょっと気が咎めたが、昨日ナビーに襲われている女性のリアルタイムの動画を見せられたせいで、俺はオークに嫌悪感を持っている。こいつらに容赦はしない。
残りオーク4になったとき、サリエが相手をしているオークが咆哮した瞬間、サリエの体が一瞬硬直した。
その硬直した一瞬の隙をついて、そいつはサリエの心臓に剣を突き立てた!
今のはシールドがなかったらヤバかった。
どうやらサリエと戦闘中の奴がジェネラルのようだ。
でも何だ今の?
俺が周りの3頭を倒してサリエの加勢に向かったのだが、ジェネラルはサリエと剣で互角に渡り合っていた……こりゃ剣だけだと俺じゃ勝てん。ジェネラルめちゃくちゃ強い!
サリエの剣の腕前は【剣鬼】Lv8、その辺の奴らじゃ瞬殺できるはずなのだ。
スキルも使えば今回も瞬殺できるはずなのに、なぜか剣だけでやり合っている。
サリエって実は戦闘狂?
サリエを見る限りどうも楽しんでやってる節があるので、スキルで介入できるのだが邪魔したら後で拗ねられそうなので任せることにした。
ん!? まただ! オークが咆哮した瞬間サリエが一瞬硬直して首を薙ぎられた!
これもシールドがなかったら即死レベルだ。
『ナビー、今のなんだ?』
『……威圧系のスキルですね。蛇に睨まれた蛙というやつです』
『そんなものもあるのか……シールドがなかったらサリエは2回死んでるな』
サリエは首を薙ぎられた後、腰からもう一本の剣を抜きオークの首を薙いで殺した。
なっ!?
そうなのだ、さっきまでサリエは剣一本でずっと昨日から戦闘していた。だがサリエのステータスに【双剣術】があったはずなのだ。サリエの腰にも短剣が差してある。つまりサリエは手抜きして遊んでいたのだ。
「サリエ、お前遊んでたな!」
「ん、剣一本で倒せると思ったのに……」
滅茶苦茶悔しそうにしている。
「シールドがなかったら2回死んでたぞ!」
「ん、ちゃんとそれも見越してやってた。でも変な硬直で2回切られた」
「あれ、威圧系のスキルみたいだ。お、奪えてる。【将の咆哮】ってスキルみたいだぞ」
レベル4のスキルだったが、レベル10にしてサリエに放ってみた。
「ハァッ!」
サリエはびくっと飛び上がって3秒ほど硬直した。
「ん! 怖かった! リューク様のあほ!」
余程怖かったのか『あほ』って言われた! 目をぬぐっているので、前髪で見えないが実は涙目なのかもしれない。
「そんなに怖かったのか?」
「ん! 超怖かった! ちょっとちびった!」
ちびったとか、レディは言っちゃいけません!
「ジェネラルは【将の咆哮】Lv4で所持してたのを、レベル10にしてさっき使ったんだよ。3秒ほど硬直してたね? これかなり使えるぞ。範囲攻撃だし、雑魚ならこれだけで気絶しそうだね」
「ん、かなり使えると思う。超怖かった……」
「10人までコピーできるようなので、後でコピーしてやるな」
「ん! ホント! これ凄く使えるスキル! 嬉しい!」
念のために洞窟内を探索しておくことにする。
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