3-94 デザートショップの店員が集合しました

 サーシャの許可は得たけど、問題はジュエルだな。ジュエルには貴族に成れと言ってあるので、そういう情報を集めているはずだ。


 とりあえず連絡してみるか―――


『はい、お待ちしておりましたリューク様! 何でも致します! リューク様1の影の守護者であるジュエルにお任せくださいませ!』


 コールに出たジュエルのテンションが異常だった。


「ジュエル……俺、まだ何も言ってないよね?」

『もうすぐ妹も旅に出られるほど回復しますので、すぐに王都に向かいますね』


「あ~、そのことなのだけどね……ジュエルに、ちょっとお願いができてね。建国の目途が立つまで、子供たちのダンジョン活動の指導をしてあげてほしいんだ」


『子供たちの指導? 私がですか? 私はリューク様の側でお仕えしたいのですが……』


「この前、ジェシルの診察に行ったときに、体が治ったら将来何かお店をやりたいと言っていただろう?」

『はい。ジェシルの「将来の夢」ですね』


「知っての通り、俺は王都にデザートショップを開こうと考えているんだ。ジェシルにも手伝ってもらおうかなと思ってね。読み書きと計算はある程度できると言っていたし、将来的にどこかに独立店を出してあげようかと考えているんだけど、どうかな?」


『ジェシルに店をですか? リューク様が出資して下さるのです? 喜ぶと思います!』


「ジュエルは今どこにいるの?」

『宿屋の自室です』


「例の部屋の方?」

『あ、いえ……もう身バレの警戒をする必要がなくなったので、あの宿は引き払い、別の宿に移っています』


「じゃあ、ジェシルも今そこにいるの?」

『はい。隣の部屋に居ます』


「よし、今すぐそこに行くから待ってて」

『えっ? あ、はい、お待ちしています』


 コールを切り、子供たちに声をかける。


「ルディ、カリーナ、これからフォレストの宿屋に転移するね。ルディたちに戦闘の指導をお願いするつもりの人だからちゃんと挨拶するんだよ」


「ご主人様、【アサシン】のジョブの人?」

「うん、そうだよ。カリーナの目指しているジョブを持っているから、教えてもらうといい」


「はい!」


 カリーナはちょっと人見知りなところがあるから心配だけど、目指しているジョブ持ちということで興味があるようだ。


 人目のない場所に行き4人で手を繋ぎ【テレポ】を発動し、マーキングしてあるジュエルの側に転移する。


「キャッ! エッ? リューク様? 転移魔法?」


 着替え中だった……。


「ジュエル……すぐ行くって言ったのに、何で下着一枚なの?」

「リューク様がいらっしゃると聞いて、少しでもお洒落な服に着替えようと……いえ、何でもないです。それより何じっと見つめているのですか……普通は視線をそらして謝るところでしょう?」


「ジュエルはちっこ可愛いのに、やっぱ大きいなって……もう巻き布はしないんだね」

「どこのことを言っているのですか!」


「どうしたのお姉ちゃん!『キャッ!』とか可愛い声出して? キャッ! リュークお兄ちゃん!」

「ジェシル久しぶりだね。顔色も随分良くなったね」


 二部屋あるのか、奥から出てきたジェシルちゃんも着替え中だったようで下着姿だった。俺を医者の先生とでも思っているのか、恥ずかしそうにしていたが、裸を見ちゃったことを一切咎める事はなかった。それどころか下着姿のまま獣人の子供たちに興味津々だ。


「あれ、その子たちは? 可愛い!」

「ジュエル、ジェシルに伝えてくれた?」


「えっ? あ、はい。今から来ると伝えたら、とりあえず着替えるというので準備をしていたところです」


 要するにまだ何も伝えてないんだね。簡単にお互いを紹介する。カリーナはジュエルに興味津々なのに俺の後ろから出てこない……ちょっと可愛いな。



「ジェシル、折角半裸なんだからついでにもう一度診察してあげるよ」

「エッ? お兄ちゃん良いの?」


「リューク様、宜しいのですか?」

「ジュエルも、正直まだ不安なんでしょ?」


「はい。とても調子は良さそうにしていますが、不安はあります……ってジェシル!」


 ジュエルの声でジェシルを見たらすっぽんぽんになっていた。


「だってお兄ちゃんの気が変わる前に、診てもらえるならチャンスは逃さないようにしないとね♪」

「あはは、その通りだね。遠慮しても損するだけだよね」



 という訳で診てあげた―――


「【ボディースキャン】う~ん……」

「リューク様、どうですか? ジェシルはもう大丈夫なのですか?」


「うん。病気自体はもう綺麗に治っているけど、運動不足で血流が悪いのかな……ここ!」

「アイタッ!」


「そして、ここ!」

「イタッ! お兄ちゃんちょっと痛い……けど気持ち良い……あぅ~、何これ……」


「ジェシル、明日からジュエルと1kmほど散歩するように」

「ジェシルを散歩させれば良いのですか?」


「そうだね。体力が落ちているから、ゆっくりと最初は時間をかけて1kmほどから始めようか。町の散策に出かける程度でもいいよ。買い物に出たり食べ歩いたりするだけで1kmは歩くでしょ。もう体は治っているのだから、宿屋でずっと寝たきりは良くない」



 診察後にジェシルにデザートショップを開こうと考えていることを伝え、味覚を手に入れたナビーの渾身の出来の最新版のプリンとアイスを食べてもらう。


「以前にあげたものより更に美味しくなっている完成品だよ。これを売り出す予定なので食べてみて」


「ご主人様! ルディもプリン食べたいのです!」

「カリーナもアイス食べたいです」

「私はどっちもほしい!」


「お前たちさっきお昼食べたばかりなのに……」


「食べたいのです……」

「「別腹です」」


 フルーラ……そんな言葉何時覚えたんだ!

 仕方がないので、皆にも出してあげる。



「私、やりたい! これ、絶対儲かると思う」

「確かに。いくらで売るかにもよりますが、売りだしたら毎日凄い行列ができますよ」


「夏を目途に既に準備を進めているんだ」

「お兄ちゃん、これ夏に売ったらヤバいよ……どれだけ人が押し寄せてくるか……」


「じゃあ、2人も参加してくれるんだね? サーシャたちと合流して話そうか」






 ジュエルが手配してくれたフォレストの一軒家に向かう。


「リューク様、お待ちしていました。その子たちですか?」


 ルディはさっそく鼻を引くつかせてサーシャたちの匂いを確認しているようだ。

 カリーナは俺の背に隠れて、顔だけ少し出して鼻をヒクヒクさせている。


「うん。ミーニャ、この子のこと知らないか?」


「その子、私と同族の黒豹族だね……う~ん、見かけたことないですね」

「そっか、身内が居るのなら届けてあげようかと思ったけど……」


「ご主人様、カリーナを捨てないで! カリーナはご主人様が良いのです!」


 俺の腰にしがみついて、涙目で俺を見上げている。


「カリーナ、捨てたりしないよ。君の親戚がいるのなら、そっちの方が良いかなと思ったんだ」

「リューク様……親戚が居たとしても、その子を預けるのはお薦めしません」


「ミーニャ? どうして? 身内が居るならその方が良くないか?」

「情が湧くほど長く一緒に居たのならともかく、それほど可愛ければ、私のようにすぐ売られますよ……」


 うわ~その可能性が高そうだ。


「分かった……この子たちはやはり俺が引き取ろう」


 その時、部屋に居なかったファリエルさんが入ってきた。


「あわわ……何この子たち! 可愛い!」


 ファリエルさんはルディとカリーナを見るなり2人に飛びついて行った……あなたも可愛いですね……。


「ご主人様、このお姉ちゃん、良い匂いがするのです」

「良い匂い……エルフ様?」



 全く話が進まない―――


「俺にはあまり時間がない、話を進めるよ」


 時間がないと言ったらコロンが悲しそうな顔をした……。


「リューク様、今日泊まっていかないのですか」

「ごめんコロン、明日学校で大事な中間テストがあるんだ。単位を落とすと進級できなくなるから、早く帰って少しは勉強しないとね」


「「「残念です……」」」


 お姉さまたちから、はぁ~と溜息が聞こえてきた……ちょっと嬉しい。俺も本音を言えば泊まっていきたいけどね! ダンジョンでは魅力的なルルがずっと側に居たせいで、いろいろモンモンとしているのだけど、試験の方が重要だ。


「まとめるよ。サーシャたちには引き続き接客マナーと読み書き計算の習得と、『プリン』と『アイス』の味の向上を目指してね。新しく入ったルディ、カリーナ、ジェシルの3人にも指導してあげてね。そして合間にジュエルは皆を連れてフルーツダンジョンでレベルアップと探索者としての技術向上を指導してあげてほしい」


「リュークお兄ちゃん、うちのお姉ちゃんは、店のお手伝いはしないの?」

「ジュエルは冒険者が本来のお仕事だからね。店の方はジェシルが頑張って覚えるんだ。王都店はサーシャが店長だけど、ここフォレストと、もう一カ所出店したいから、3年後を目標にして皆には独立できるだけの技術を学んでほしいかな」


「この子、リュークお兄ちゃんって……」

「あ、ミーニャ……ジュエルは知っているけど、ジェシルには俺の身分はまだ教えていないんだ……でも、このまま内緒なのは無理があるね……」


 ジェシルに俺の身分を教える。


「ハハーッ、数々のごびゅれい平にご容赦を~!」

「どこの騎士だよ! しかも噛んでいて上手く言えてないし!」


「だって~……あ、だからお姉ちゃん、時々リューク君じゃなくて、リューク様って呼んでいたんだ! おかしいと思っていたのよ……どこからどう見てもリュークお兄ちゃんの身なりは貴族様だし、私の病気を治すためにお金で依頼した人なのかと思ってた……あ、『リュークお兄ちゃん』って言ったらまずいよね」


 少し前にエリーと同じような会話をした気がする……。


「ジェシル、俺は冒険者としてジュエルとは知り合ったんだ。だから、今後も冒険者リュークとして仲良くしたいと思っている。ジェシルもこれまでどおり『リュークお兄ちゃん』と呼んでくれると嬉しいな」


「でも……」



 話を進める―――



 またコールが入ってきた……ナナにフィリアにサリエからか……うわ……ロッテ先生とお父様からもだ。ちょっとこれは帰ったら怒られそうだな―――



「それとこの娘なんだけど……う~ん……皆で一般常識を教えてあげてほしい……」 


「リューク様……その子は何なのでしょう? 何やら得体のしれない感じがするのです……」

「へ~、そっちのアサシンの子より、このエルフの子の方が強そうだね」


「「「エルフの子……」」」


「まぁ~、そいつからしたら、ファリエルさんでも子ども扱いしても仕方がないか……その娘、フルーツダンジョンの最終階層に居たフルーツドラゴンの化身なんだよね……」


 『何言ってんの?』って顔、全員でしないでほしいな……。

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