1-9 兎を狩ったので今晩は煮込みシチューです

 移動中に父様からコールが鳴る。


「サリエ、父様からコールなのでちょっと待っていてくれるか?」

「ん、了解」


「はい、父様なんでしょうか?」

「リューク、お前いまどこにいるのだ?」


「街の外にレベル上げにきています」

「はぁっ!? 身の危険があるというのに何をやっているのだ!」


「身の危険があるからそうしているのです。実はですね……生き返ったせいで僕の種族レベルが初期化されてレベル1だったのですよ。女神様そんなこと一言も教えてくれなかったから、【クリスタルプレート】でステータスを見てびっくりしました。これじゃ、暗殺者どころかスライムにも殺されちゃいそうだったので、今サリエにパワーレベリングをしてもらっているところです」


「稀に息を吹き返す者はいるそうだが、レベルが1になるとか聞いたことがないぞ! それに街の外で暗殺者が襲ってきたらどうするのだ!」


「まぁ生き返ったのは神の御業なので、その辺は分かりません。僕には優秀な探索スキルがあるので【隠密】などを使って近づこうとしても、すぐに察知できますので大丈夫ですよ。むしろ街中の方が危険です。街の外だと僕に近づく人間は全て敵と思って対応できますが、街の中だと人が多すぎてその判別がつかないので下手に攻撃できない分、人の居ない郊外の方が良いのです」


「言っていることは分かるのだが、それでもサリエと2人ってのは心配だ」

「サリエは父様が言ってたように凄く優秀です。オークの群れも6体ほどなら1分かからないで倒しちゃってます。それに、僕を見失って焦ったラエルが、10時ぐらいから何度もコールしてきてますよ。居場所が分からない証拠ですね」


「そうだ、俺の所にもさっきラエルからコールがあったのだ。リュークと連絡がつかないが知っているかとな。俺の方には護衛に付けている騎士から、サリエと早朝から出かけたと連絡があったのだが、心配になってコールしてみたのだ。しかしレベル1とは大変な事態だな。そういう重要なことは事前に報告しなさい」


「ごめんなさい。あまり心配させたくなかったのです。すでにレベルも8まで上がって、即死は回避できるようになっていますのでご安心ください」


「レベル8で安心できるわけがないだろう!」

「実は女神様からもらったスキルがあるので、全く危険はないのです。どんなものか言えないのは心苦しいのですが……」


 もう死ぬことはないと思い、サリエに秘密にしろと言ってたレベルの初期化のことを父様に教えたのだが、レベル8じゃ心配させてしまったようだ……。


「また、女神様のスキルか……いったいどんなものか気になるが、教えてくれないのだよな?」

「はい、こればっかりは女神様との約束なので」


「仕方がないな。で、ラエルはどうするのだ?」

「このまま無視して、放っておきます。焦らして心労させるのも一興です」


「……昔はあれほど仲が良かったのに」

「僕を殺して、フィリアを奪って娶ろうとしたのですよ。簡単に捕える気はないです。焦らして、切羽詰まらせて後がなくなって自爆させる予定です。ですので父様の所にコールがあっても自分も知らないと言っておいてください」


「分かった……十分気を付けるのだぞ」



 800mほどの距離だったので、すぐに現場に到着してサクッと狩り終えた。

 コボルドもサリエが瞬殺したので脅威にもならない。


「サリエ、またちょっと待ってもらえるか」

「ん、了解」



 レベルも3つ上がって驚いたが、高レベルのオークがいたのだろう……奪ったAP量からそれが伺える。

 新たなスキルは手に入らなかったが、先に奪ってた既存のスキルがランクアップしているものが結構あった。


 ・【隠密】レベル3→レベル4  

 ・【忍足】レベル2→レベル4 

 ・【剣士】レベル2→レベル5

 ・【棒術士】レベル3→レベル4

 ・【魔力感知】レベル2→レベル3

 ・【聴覚強化】レベル3→レベル4

 ・【俊足】レベル2→レベル4


 【剣士】のレベルが5になったのが美味しいな。

 【隠密】と【忍足】のコンボも地味に凄い。ほとんど足音がしなくなった。



 奪って上がったものとは別に、APを新たに割り振って強化する。


 ・【剣士】レベル5→【剣聖】レベル5

 ・【身体強化】レベル3→レベル10

 ・【獲得経験値増量】レベル1→レベル10

 ・【マジックシールド】レベル1→レベル5

 ・【プロテス】レベル1→レベル5

 ・【シェル】レベル1→レベル5


 これでこの周辺の魔獣では負けることはなくなった。シールドでダメージが5000吸収される時点でほぼ無敵だ。それに加えて物理防御と魔法防御がが50%増しなのだ。オークごときじゃ10匹で袋叩きにされてもそうそう俺のシールドは壊せないだろう。


 経験値の増量もMAXにしたことだし、ここからは一気にいこうと思う。


『ナビー、どこかいい狩場ないかな?』

『……はい、先ほど話されていたオークのコロニーが周辺に2つありますね。1つはオークナイト率いる30頭の小さなコロニーと、もう1つはオークジェネラル率いる121頭の大きなコロニーができています』


『30頭というのは、全部で30頭って事かな?』

『……いえ、オークが30頭です。どちらのコロニーもゴブリンやコボルドは含んでいません』


『そこに行っても、俺たちだけで狩れるか?』

『……まったく問題ないと思われます。30頭のコロニーに、オークプリーストが2頭いますので、何らかの魔法が奪えて手に入るのではないでしょうか?』


『よし、そこに行ってみよう』


 その前に追加かな。


 【魔法創造】

 1、【魔法消費量軽減】

 2、・使う魔法のMPを軽減してくれる

   ・熟練度のレベルが反映され消費量が変わる

 3、イメージ

 4、【魔法創造】発動



 【魔法創造】

 1、【オートリバフ】

 2、・発動型バフに条件指定設定が行えるようになる

   ・各スキルごとに条件を変えられる

 3、イメージ

 4、【魔法創造】発動



 うっかりでシールド切れちゃったら嫌だしね。この3つは忘れないうちに設定しておこう。


 ・【マジックシールド】:シールド吸収量が40%を切ったら自動リバフ

 ・【プロテス】:戦闘時消滅時間の10秒前に自動リバフ

 ・【シェル】:戦闘時消滅時間の10秒前に自動リバフ




「サリエ、次の狩場なんだけど。オークナイトが率いるコロニーが3キロほど離れたところにあるんだけど、そこにしようと思う」


「ん! コロニーは危険! ダメ!」

「それほど大きいものじゃないんだ。オークが30頭ほどで、ゴブリンが53、コボルドが13頭のコロニーだよ。プリーストが2頭いるけど、それ以外は雑魚だからサクッと狩ろうよ」


「ん! それでも100頭近くいるのは危険!」

「僕のシールドのレベルが上がって今は5000ダメージ吸収してくれるし、物理防御も魔法防御力も50%増しだから、多分ノーダメージで倒せるよ」


「ん!? 吸収量5000ってどういうこと!? そんなの聞いたことない」

「例の女神様の恩恵なんだ」


「ん、色々リューク様はおかしい……」

「僕1人じゃ流石に厳しいから、一緒に来てくれるかな?」


「ん、本当ならギルドに報告して、シルバーランク以上の冒険者が1PTで狩るレベル」

「分かっているけど、サリエにもダメージがいかないようにちゃんとシールドのリバフは行うから信用してほしい」


「ん、分かった。でも怪我しないでね……就任1日で私、解雇されちゃう」

「あはは、気を付けるよ」


 何とかサリエを説得してコロニー討伐の許可が下りた。


 3キロの移動中にブルースライム4匹、グリーンスライム4匹、ホーンラビット2匹が居たので少し寄り道しながら向かったため移動距離は5キロ近くになった。


 回り道してまで狩った理由なのだが、スキル獲得とお肉の為だ。


 予想どおり新たなスキルと、熟練度の高いスライムから既存スキルのレベルアップができた。

 APを消費してレベルを上げるより、今は奪えるなら奪いたい。


 ・【アクアボール】レベル4

 ・【アクアウォール】レベル3

 ・【アクアスピア】レベル4

 ・【アクアカッター】レベル5

 ・【アクアヒール】レベル5

 ・【アクアキュアー】レベル3

 ・【アクアシールド】レベル4


 ・【ウィンドボール】レベル3

 ・【ウィンドウォール】レベル2

 ・【ウィンドスピア】レベル4

 ・【ウィンドカッター】レベル5

 ・【ウィンドシールド】レベル3


 グリーンスライムは風系の魔獣でいいスキルが奪えた。

 森や林には滅多にレッドスライムとイエロースライムはいないらしく、火系と雷系が奪えないのは残念だ。草原の方に行くと多いらしいので、できれば行ってスキルを増やしたいところだ。


 ホーンラビットは角のあるウサギだが、臆病なので滅多に人は襲わない。だが、作物を荒らす害獣で、結構どこにでもいる。国から常に討伐依頼が出ている魔獣だ。肉が美味しく毛皮もいい値で買ってくれるため、討伐対象として人気のある魔獣なのだが、姿を見たらすぐ逃げるため通常は罠を仕掛けて狩るのが賢明だ。  


 俺たちは【隠密】と【忍足】を駆使して近づき、俺が【アクアボール】を当てて動きを一瞬止めてる間にサリエが瞬殺する連携で狩ることができた。


 うちのシェフにコールして、今晩は一角兎の煮込みシチューにしてもらうよう依頼した。他の材料の下ごしらえはしておくので、17時までに肉を持ってきてほしいそうだ。肉を煮込むのに少し時間がいるから17時を過ぎたら夕飯が遅くなるためだ。一角兎のシチュー煮込みはサリエも大好物のようで嬉しそうだ。



 今回奪ったAPと2つ上がったレベルアップポイントで熟練度を上げておく。 

 【獲得AP増量】をMAXにしてから得られるAPが倍になったことで、かなりのポイントが得られるようになった。効率よく振ってサクッと倒したい。


 ・【ウィンドカッター】レベル5→【ウィンダラカッター】レベル5

 ・【アクアヒール】レベル5→【アクアラヒール】レベル3

 ・【アクアキュアー】レベル3→【アクアラキュアー】レベル2

 ・【魔法消費量軽減】レベル1→レベル10



 できれば【ウィンダラカッター】をレベル10にしたかったのだが種族レベルが足らないのかこれ以上上げられないようだ。本来中級魔法は種族レベル20以上が一般的なのでレベル13で中級魔法のレベル5まで習得できるのも本当はおかしいのかもしれない。



 コロニーの30m手前で周囲を窺っているのだが、サリエが凄く緊張している。


「サリエ、大丈夫か?」

「ん、一杯いる。これほどの集団戦は初めて。ちょっと不安。リューク様は最初ゴブリンにすら震えていたのに、どうして平気なの?」


「平気ではないけど、自分のスキルに絶対の自信があるからね」

「ん、私も腕には自信がある。でもこの数はやはり怖い」


 サリエは不意に俺にくっついてきて、クンクンし始めた……。


「サリエ? 何で俺の匂いを嗅いでいるの?」

「ん、良い匂い……落ち着く」


「ああ、そうか……個人香の効果だね? 2人ともリラックス効果があるからね。恐怖や極度の緊張は動きが鈍るから、こういう使い方も有りだね」


 お互い恥ずかしながらもクンクンしあって、個人香効果を最大限に利用した。1分ほどで効果が現れ緊張がほぐれる。雑魚とはいえ100頭相手に挑むのだ。サリエは耳まで真っ赤になってるが、大分緊張がほぐれたようだ。



 この後の戦闘のことを考え、ドキドキしながらサリエと作戦を練るのだった。

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