3-77 ポーターを雇ってみました
とりあえず探索者ギルドの中に入ってみよう。と……その前に、汗を滴らせているルルに【クリーン】と【エアーコントロール】の魔法を掛けてあげる。
「エッ!? 急に涼しくなりました! オリジナル魔法!?」
「ああ、少し低めの温度設定にしているので、体の熱が引いたら少し温度を上げるんだよ。冷やし過ぎたり暖め過ぎると、体調を崩したり、最悪死に至る事もある危険な魔法でもあるからね。ルルなら温度差の危険性は分かるよね?」
「はい。危険性は理解していますが……この魔法は素晴らしいです! これから夏になって暑さが増しても快適に過ごせるのではないですか?」
「うん。良いでしょ? 12時間効果があるから便利だよ」
「はい……夏場の特訓は過酷です。この魔法があれば……羨ましいです」
探索者ギルドの中は、夕刻ということもあってごった返していた。
探索者ギルドのカードも作ろうと思っていたけど、今回は止めておこう……流石にこの人数を待ちたくない。
「ルル、人が多いので今回はそのままダンジョンに入ろう」
「はい」
ギルド内の端の通路から入って最奥の部屋にダンジョンの入り口があり、部屋の前には衛兵がいた。
気になったのは、さっき広場にいたような、首からプラカードを下げた子供が、広い通路の端に10人並んでいることだ。しかもその子たちはプラカードをこっちに向けて俺たちを睨んでくる……凄い眼力で睨んでいるのだ。
「お前たち今から潜るのか?」
「ええ、来週に本格的にくるつもりで、今日は様子見にきました」
「じゃあ、すぐ戻ってくるのか?」
「ええ、そのつもりです」
「この部屋の中の受付にいって入洞料を払って、滞在予定期間と人数、名前を記帳してから行くんだぞ。冒険者ギルドのカードじゃなくて、探索者ギルドの方のカードの方が良いから、今度本格的に潜る時は作っておいたほうが良いぞ」
探索者ギルドのカードだと、記帳しなくても神器にかざしていけば、自動記帳で登録され便利らしい。
この時に万が一に備えて、保険として依頼料を一時的に預けてておけば、申告期日を2日過ぎても帰ってこない場合に、納めた依頼料に見合った救出隊が編成されて助けにきてくれるのだそうだ。
申告期日内に無事に帰還した場合には、5%引かれて返金してくれるみたいだ。
マジで保険金だ……でも良い制度だと思う。
今回俺は、保険は掛けないけどね。
「それで、あの睨んでくる子たちは何なのですか? ポーターの依頼待ち?」
「ああ、そうだ。日暮れまでの間、1時間交代で10人までこの廊下で待機できるように決めてある。それと睨んでるんじゃなくて、必死にアピールしているんだ。声を出させるとうるさくて敵わんからな。ここでは言葉は禁止している。なので、あの首から下げた看板で自己アピールをしているんだよ。もうすぐ日が暮れるので、おそらくあと数組しか潜るヤツもこないからな……」
俺を残り少ない時間内で雇ってもらえる可能性のある依頼人として見ているから必死の眼なのだ……初心者冒険者は、ポーターがいると案内も兼ねてくれるので良いらしい。見るからに初心者な俺たちは、雇ってくれる可能性が高い人に見えるようだ。
プラカードには上から自分のメリットを記載しているそうで、見方を教えてくれた。
1、年齢 ー 種族レベル
2、持てる容量
3、手持ち武器・道具
4、使える魔法
5、同行できる日数
6、日当希望額
先頭にいる男の子の看板はこう書いている
1、10歳 ー 15
2、5×5(100) + 背負い袋
3、ダガー・初級回復剤2
4、【アクア】・【クリーン】
5、……
6、3000-5000
説明を詳しく聞くと
1、年齢は10歳の男の子で種族レベルが15
2、1マス100kgの容量の亜空間倉庫持ちで、25マス使え、最大容量は2500kg。それに背中にしょっているナップサック分
3、持ってる武器はダガー・初級回復剤2個所有(有事の際に2~3割増しで提供)
4、使えるのは生活魔法の【アクア】と【クリーン】
5、…… 無記入は期日無制限だそうだ
6、日給3000ジェニーから5000ジェニー内で応相談ということらしい
賃金は、この国の最低賃金より少ない……子供だし、見習いだからだそうだ。
「これでも先頭に居る子ほど、給金が高いんだぞ。その子は【アクア】とレアな聖属性の【クリーン】が有るからな。長期に潜る時は命の水と清潔保持ができると言って人気があるヤツだ。女にとっては【クリーン】がないときついからな。それに【亜空間倉庫】の容量が多い」
これで給金が高い方? 最後尾の女の子を見たら、500ジェニーだった。
俺のエッ? って顔を見て衛兵が教えてくれた。
「その娘は、給金はタダでも良いって考えの娘だ。出される僅かな飯と己の技術向上が目的の娘だ。看板を見ての通り、現時点ではあまり才はない……今日明日の食事もままならない子だ。どうだ? ここまで話を聞いたんだ、1人雇ってあげないか? 上の方の階の案内程度は皆できるぞ。安全を金で買えるんだから損はしないぞ」
へ~、この門番、この子たちのことをちゃんと気に掛けてあげてるんだね。
金持ってそうな貴族のボンボンに見えるらしく、金で安全を買えと薦めてくる。
1、9歳 ー 10
2、5×3(10) + 背負い袋
3、ナイフ
4、ファイア
5、……
6、500
ポーターを雇うにあたって、その子たちの食事と最低限の命の保証はする義務があるらしい。
「リューク様……」
俺の袖をルルが引っ張っている……言いたいことは分かるんだけど、同情は双方の為にならない。ルルはこの女の子を雇って連れて行ってあげたいのだろう。でも才のない子が無理をすると必ずいつか死ぬ。死ぬ前に早めに諦めさすのも大事なことだと思うんだけどな。まぁ、良いか……どうせ今日は様子見だ。
「君、今日は様子見の数時間だけだけど、俺たち二人と一緒にくるかい?」
「ちょっと待った! 君たち二人だけなのか?」
「ええ、そうですよ」
「その子たちの同伴をさっき薦めたが、仲間が他にもいると思っていたのだ。君たち二人だけで行かせるのはちょっと……そこに足手纏いのポーターの子供まで……いくら初めてだからといっても、無謀にもほどがある」
「成程、衛兵さんは、無謀な若者の無駄な死を防ぐ役目もあるのですね」
「いや……13歳以下だけの者の入洞許可は与えないが、普通は個人の自由だ。そのポーターだって死ぬ覚悟はしているはずだ。毎月数人のポーター見習いが亡くなっているが、俺の口出しすることじゃない……だがお前たちは学園生だろ? しかもおそらく貴族様だ……」
万が一死なれて、親が何で止めなかったと怒鳴り込んでくるかもと危惧しているのか。
「俺はリューク・B・フォレスト。ジェネラル率いる200体規模のコロニーを先日二人で潰したばかりだ。今日は様子見だけですぐ戻るし、ソロでも問題ないぐらいの戦力はあるよ」
「公爵家! そういえばその噂は聞いています! あなた様が……分かりました。じゃあ、その娘が例の噂の公爵家が育てたという戦闘系侍女……」
例のって、全部サリエが倒したことになっているんだね……まぁ、良いけど。
「で、君はどうする? 一緒に行くかい?」
「お兄ちゃんは、貴族様?……私も行ってイイの?」
「今日は様子見だけだから、深く潜って危険な所にはいかないからね」
「お兄ちゃんありがとう! わたしはエリーって言います。よろしくお願いします」
衛兵は何か言いたげだったが、この9歳の幼女の同行を黙認してくれたようだ。
まぁ、見るからに足手纏いだからね。
先頭にいた男の子が、女の子の所にやってきて、手に何やら握らせてつぶやいた。
「帰ってくるまで貸しといてやる」
見たら初級回復剤を握らせたようだ……坊主なかなかカッコイイではないか!
「イイの? タークありがとう! ちゃんとかえすからね!」
『……どうやらその女の子に気があるようですね。死んでほしくないので、万が一の為に回復剤を貸し与えたようです』
『チッ、マセガキだな……10歳のくせに』
ルルはそのやり取りを微笑ましそうに見ていた。
中の受付で記帳し、入洞料を払って3人でダンジョンに入る。1人1万ジェニーだ……意外と高い。ポーターにも税は掛かってくるようだ……だから倉庫の容量が少ない者は赤字になるので雇わないのか。
石の階段を下って直ぐの所で、ポーターのエリーをパーティーに誘う。
まぁ、この子はポーター(荷物持ち)というより、案内人だ。この子の【亜空間倉庫】の容量は微々たるものだ。
「お兄ちゃん? あの……イイの?」
「ああ、いいよ」
「ありがとうお兄ちゃん!」
一般的にポーターはパーティーに入れてもらえない。
理由はいくつかあるが、一番の理由は経験値がポーターに均等分配され、1人当たりの得られる経験値が減ってしまうからだ。
もう1つの理由は、普通は1PTの上限の7人でダンジョンに入ることが多いので、ポーターはパーティーに入る余地がないのだ。レイドパーティーにすれば30人まで編成できるのだが、網膜上で得られる情報がレイドパーティーにしてしまうと格段に減ってしまうのだ。ポーターの為に仲間から得られる必要な情報を減らして危険を冒す必要はない。
1階に下りたのだが、石の通路でできていて植物は一切生えてない。
通路の幅は約5mぐらいかな……天井の高さも5mはありそうだが、お約束的にうっすらと壁や天井が発光していて結構ダンジョン内は明るい。
「エリー、1階はどんな魔獣が出るんだ?」
「んとね、3階までは1匹ずつしか出てこなくて、ゴブリン・スライム・ホーンラビット・モルモルしか出ないよ」
モルモルか……植物系の苔玉の魔獣だな。
近寄ると転がって体当たりしてくるだけの、あまり脅威じゃない魔獣だ。
『……モルモルは薬草と毒消し草をドロップします。浅い階では稀ですが、初級回復剤を低確率で落としますね』
「4種しか出ないのか。下の階へ行くルートは分かるかな?」
「うん。10階までなら覚えてる!」
「へ~、エリーは9歳なのに偉いな」
「えへへ~、でも5階より下はオークも出るようになるから、2人だと危険だよ? 4階までにした方がイイよ……」
そう言ってエリーは俺たちを先導しようとしたので注意する。
「エリー、ポーターは先導する時でも冒険者の前に出ちゃいけないよ。必ず後ろから声で進路を指示するんだ。曲がり角で魔獣に突発的に出会っても、エリーは対処できないだろ?」
「あっ! そうだった……お兄ちゃん教えてくれてありがとう」
素直に俺たちの後ろに回って声で指示してくる……素直な子だ。
最初の遭遇魔獣はモルモルだった……ルルが杖殴りで一撃死させる。
ルルは転がってきたところをタイミング良く杖で野球のように横殴って吹き飛ばした。ふっとんで壁に激突したかと思ったら、黒い煙になって地面や壁に吸われて消えてしまった。その煙が発生した場所に、魔石と初級回復剤がドロップしている。
「おね~ちゃん凄い! あ! 回復剤がドロップしてる!」
なんかエリーが凄く驚いているので聞くと、1階では薬草が出ることも珍しいのに回復剤がドロップしたことに驚いているみたいだ。ドロップ品は運に左右され、確かラストアタック判定があるって授業で言っていたよな……ルル、本物の聖女だもんな。
ドロップ回収はポーターのエリーの担当だ。
「その回復剤はエリーにあげるよ。プレゼントだ」
「あの、お兄ちゃん? 今、品薄で回復剤は売ると7000~9000ジェニーにもなるんだよ? 買うとなったらもっとするんだよ?」
「知ってるよ、俺は貴族だからお金持ちなんだよ。遠慮しなくて良いぞ」
回復剤と引き換えに、とっても嬉しそうな素敵な笑顔を頂いた。
『……えへへ、可愛いですね』
ナビーの奴、凄く気味の悪い笑い声だ……どんな顔をしていることやら。
このダンジョンはピラミッド型だそうで、浅い階は広くないようなのでさっさと5階まで下ることにした。
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