3-76 ルルが追っかけてきたみたいです
俺は授業が終えるとそそくさと南門を目指した。
出掛けにサリエに少し睨まれてしまったが、サリエは勉強が若干遅れているので諦めさせた。
サリエをデートに誘うと『狩りに行きたい』という女の子なので、本当なら今日も付いてきたいのだろうな……以前一緒にダンジョン攻略したいとか言っていたしね。
南門から通称フルーツダンジョンと呼ばれている場所までは、乗合馬車の定期便が国営で運行されている。残念ながら少し前に出発したらしく、次便は2時間後の最終便だそうだ。
護衛付きでの運行になるので、便数が少ないのは仕方がない……今の本数でもおそらく大赤字だろう。国営の乗合馬車は運賃で稼ぐ気はなく、ダンジョンと王都の行き来を潤滑にすることで、冒険者や商人からダンジョン産の資源を効率良く王都に取り込むのが主な目的だ。
南門を出て少し歩いた先で【飛翔】を使って空移動する。途中で馬車を上空で追い越し、3分ほどでダンジョンのある地点に到着した。飛んで入るとマズいので、300m手前で地上に降り立ち、街道から少し入った林の中に地点登録をしておく。
【飛翔】を公開すれば以降はこんな面倒はしなくて良いのだろうけど、現在空を高速移動できるような魔法はまだこの世界にないのだ。【レビテト】という重力魔法で浮いて移動できるが、飛行というには程遠い。
もし飛んでいるのがバレたら大騒ぎになって、どうやって飛んでいるのか聞き出そうとしつこく纏わりつかれることになるのが目に見えている。当然その纏わりつく人物の中には、うちの親父や国王の伯父様、学園長もそうだろう……厄介な事この上ない。
ダンジョンの入り口を中心に囲むように正方形の壁がある……そこそこの規模の村だな。壁の一辺は300mぐらいで、王都街道側に門が一カ所だけある。
門番が2名居て、一応検問もしているようだ。
「こんちわ~」
「ああ、ってお前徒歩でここまで来たのか? しかも1人で?」
日に何度か定期便が通る為、この経路の街道が比較的安全とはいえ、俺のような子供が独り歩きするのは無謀なのだろう。
適当に誤魔化し、ギルド発行のアイアンカードを見せて入門する。
このダンジョン村の中には、教会・宿屋・武器屋・防具屋・雑貨屋・魔石商・酒場・娼館など一通りあるようだ……まるで冒険者の為の村だな。
とりあえず冒険者ギルドに行って花の情報を得よう。
門からすぐの所にあったので中に入ったのだが……あれ? ガラガラであまり人がいない? ギルド内にあまり人がいないのだ……外では冒険者はそれなりに歩いているのに?
『……マスター、ここは冒険者ギルドです。この村にいる人の殆どは探索者ギルドを利用します』
『あ、そうか。授業に来てくれてた冒険者ギルドのお姉さんがそんな話をしてくれてたな』
探索者ギルドも大元は冒険者ギルドだ。フィールドとダンジョンの特質が違うので、ギルドを分けていると言っていた。ダンジョンのみで生計を立てている人たちの事を探索者と呼ぶそうだ。
フィールドメインで活動している冒険者より色々劣るようだ。
とりあえず受付のお姉さんにダンジョンの利用法と花の情報を聞いてみるか。
「こんにちは」
「あらあら、可愛い子が来たわ。お嬢ちゃんどうしたの?」
なんか、むっちゃ子供扱いされてます……しかも女の子。
「ダンジョンに入りたいのですが、どうすれば良いのでしょうか? それと俺、男です」
「あら、ごめんね。君は探索者に成りたいのかな? 他に仲間は居ないの? 1人だと危険なので誰か同行させてくれる人を紹介してあげましょうか?」
普通は素人をそう簡単に仲間にしてくれない、お金を払って依頼するか、ポーター(荷物持ち)とか雑用をして同行させてもらって教えを乞うのが習わしだと授業でお姉さんが教えてくれた。
このお姉さんも高級な装備をした貴族のボンボン風な俺の外見で判断して、弱そうな俺に好意で言ってくれているのだろうが、荷物持ちや雑用なんかやってられない。
「今日は様子見なので1人ですが、2PTほど仲間はいます」
「成程……ひょっとして王都の学園生かな? おそらくは1年生?」
あはは、即バレしてる……2年生なら1年の3学期に課外授業で来ているはずだからね。こうやって受付のお姉さんに情報を聞くことはしないよね。
「そうです。ダンジョンの中に入るにはどうすれば良いのかと思いまして……」
色々優しく教えてくれたのだが、探索者ギルド内に地下に行くための階段があるのだそうだ。そして俺のお目当ての花は地下20階より下に行かなければ生えてないそうだ……流石レア草。
フルーツダンジョンは植物系と虫系の魔獣が多く出るので、他の2つのダンジョンより人気がない。
王都内にある通称肉ダンジョン。特に少し離れた場所にある鉱石ダンジョンはレアドッロップ1回でもすれば大金が得られるので人気がある。確率は低いけど、下位魔獣からミスリルのインゴットでもドロップしたら美味しいよね。
ここは毒を使う魔獣がいたり、キモイ虫が出るので毒消しなどの経費が要る上にあまり高額なドロップ品がない為、実力の高い者は他のダンジョンに行く。
ここを利用する探索者は初心者が多く、毒を使う魔獣がいない1~19階までを利用して薬草や毒消し草、あとそこそこ良い値で売れる魔力草を採取して稼ぐ者が多いみたいだ。勿論フルーツダンジョンと名がついているほどなので、色々なフルーツの採取もできるそうだ。
探索者ギルドは村の中心、教会のすぐ横に並んであった。ここがメインなだけあって建物もかなり大きい。ギルドの入り口前は広場になっていて、露店も出て人も多い。
気になったのが、首から木製のプラカードをぶら下げた10歳前後の子供が広場に沢山いることだ。
何だアレ?
『……探索者見習い希望のポーターですね』
『ああ、さっき冒険者ギルドのお姉さんがいってた荷物持ち?』
『……そうです。孤児が多いのですが、奴隷商に売られるのが嫌で実家を飛び出した農家の子とか、訳有りの子供がほとんどですね』
『うゎ~、いきなり重い話だね。契約奴隷が嫌で逃げ出して、ここで冒険者になって一旗揚げようってことか……』
『……実際はもっと切実です……今日明日の食糧すらままならない子もいます』
『それなら契約奴隷でどこかに奉公に出た方が良かっただろうに……少なくても食事は出るからね』
亜空間倉庫の容量の多い子は引っ張りだこで、そういう子はほぼ専属的にどこかのクランに弟子入りさせてもらっているそうだ。クランに入れた子は知識と技術を教えてもらえるので、すぐに成長して一人前の探索者になれる。
夕刻なのにここに居る子たちは、朝の出発時に誰にも雇ってもらえなかった子たちだ。
ダンジョン内では朝晩とかはあまり関係ないが、ギルドの受付時間は日中だけなので、必然的に探索者の行動もその時間に合わせて活動することになる。
「ぐわっははは! クソガキども、戻ったぞ! 生きとるか~!」
いきなり下品で豪快な笑い声があがってそっちを見る。デカい斧を担いだ40ぐらいのおっさんが、探索者ギルドから出てきて広場の子供に声を掛けている。いかにも悪そうなおっさんだ……あまり関わりたくない。
だが、子供たちは笑顔でそのおっさんに駆け寄って行っている。
「ほれ! これでも食え!」
おっさんは亜空間倉庫から10kgはありそうな肉の塊を2つ取り出して、寄ってきた少年たちに手渡した。
「「「ガッツさんありがとう!」」」
『……中級冒険者のようですね。彼はポーターから成りあがって成功した者で、子供たちからすれば憧れの存在です。帰還時には必ずドロップしたオーク肉をこのように振る舞ってあげるので、腹を空かせた子供たちからは大人気です』
『へ~、見た目に反して良い人なんだな』
『……う~~~ん、善人ではないですね。悪人でもないですけど、あくまでポーターの子供たちには優しいというだけです。中級冒険者なので他の探索者を小馬鹿にして、時々酒場で絡んで暴力を振るったりもしていますしね』
まぁ、子供たちがこのおっさんに救われているのも事実なので、俺がどうこういうことではないだろう。
広場の隅で子供たちが集まって、貰った肉でバーベキューを始めたようだ。ふ~ん、手慣れたもので炭を起こして、肉を切り分けてすぐに焼き始めた。4つも網焼きのバーベキューコンロがある……炭焼き仕様だな。
肉汁が滴って良い匂いが漂ってきた……実に旨そうだ。
あのおっさん以外にも提供者がいるのだろう……子供たちは手慣れたものだ。でも肉だけか……う~ん、成長期なのに栄養バランスが悪いな。
『……マスター、ナビーが試作で焼いたパンが沢山有りますよ。野菜もあります』
『お前は子供たちの笑顔が見たいだけだろ?』
『……良いではないですか、王族は施しをするものです』
『ノブレス・オブリージュとか言うやつか?』
「おい、焼くのは肉だけか?」
「何だよ兄ちゃん! お金持ちの冒険者にはあげないよ!」
俺の高級そうな防具から、探索者じゃなく冒険者だと見抜いたようだ。
「皆にパンと野菜をやろう。だから俺にも少し肉を食わせてくれ」
そう言いながら、インベントリから大量のパンと野菜を取り出した。
20人ぐらい居るようだが、これだけあれば十分足りるだろう。
「「「うゎ~! こんなに一杯! お兄ちゃんありがとう!」」」
約束通り数切れ肉を貰って頬張る……君たち凄く薄塩ですね。
「ホレ! 塩と胡椒だ!」
1kgほど塩と胡椒を出してプレゼントしてやる……調味料は高いから子供たちは勿論持ってないよね。
良いの? みたいな顔をしているが、遠慮するなと言うと満面の笑顔で受け取った。
『……そうです! これが見たいのです! 皆、可愛いですよね~。空腹は人を不幸にしますが、美味しい物を食べると皆、笑顔になります。あ、それと後ろにルルがいます』
『へっ? ルル?』
ついでのようにナビーに言われて後ろを振り返ったら、フード付マントを被った怪しい人がいた。
MAPで確認したら、ナビーの言う通りルルのようだ……こんなところで何してるんだ?
「ルル? お前何してるんだ?」
「ひゃい! あれ? ばれちゃいました?」
声を掛けるとこっちに近づいてきたのだが……あごの先から汗が滴っている。そりゃもうすぐ6月だし、フード付マントは流石に暑いだろ。
『……違います。マスターの後を追って南門に行ったのですが、既に定期便は出たと言われて、王都から走ってきたようです』
『走ってきたの? 1人で?』
『……そのようですね。定期便のすぐ後を追う形でしたので、魔獣には遭遇していないようですが、聖女らしからぬ行動ですね』
「お前1人で走って来たの?」
「はい……お邪魔でしょうか?」
邪魔と言えば邪魔だが……追い返すのも可哀想だよな。でもその前に言うべきことがある。
「万が一ルルの身に何かあったら、世界の損失なんだぞ? 分かっている?」
「定期便のすぐ後でしたので、1人でも問題ないと判断しました。それに王都周辺の魔獣なら、私1人で十分対処できます」
「それで何かあった時、何人の人間に責が及ぶと思っている……勿論俺も怒られるし、お前を預かった学園長にもなんらかの罰が与えられるだろう……お前は国王と同格の聖女様なんだよ」
「ごめんなさい……そこまで考えが足りていませんでした」
「で……俺の後を追ってきたのは、ダンジョンに連れて行けということかな?」
「はい。きっとお役に立ちます! リューク様はお強いのでしょうけど、魔法使いのソロでは必ず隙が生じます。私がそれをカバーしますので、連れて行ってください!」
「で……本音は?」
嘘が付けない聖女にカマを掛けてみる。
「あぅ~……勇者様と聖女は常に一緒に行動して、徐々に恋に落ちるのです! 折角のダンジョンイベントを見逃してなるものですか……」
ルルの妄想勇者ごっこ、まだ続いていたのね……聖女なのになんか残念な娘。
「はぁ~分かったよ。ちょろっと覗くだけだけど一緒に行くかい?」
「はい! 初めての共同イベントです! 頑張りますね! それと、子供たちへの施し、一部始終見ていました。ますます惚れ直しました。流石勇者様です!」
「おいルル!」
「あ、ごめんなさい」
勇者とか言って騒いだら大事になる。
折角マントで顔を隠してるのに、こんな所に聖女が居るとバレても大騒ぎだ。
さて、探索者ギルドに行きますかね。
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