3-58 どうやらモテてる理由に魅力値が関係しているようです

 二人の気持ちを聞いたは良いものの、横から殺気が放たれている。


 うちの愛妹だ……ナナがこれでもかというくらい冷めた視線で横から俺を睨んでいるのだが、気づいていないふりをしている。


「兄様……なに無視しているのですか? ナナはこうなることを恐れて、この可愛すぎる姉妹をお父様にお願いして侍女にしなかったのはご存知ですよね?」


 この発言に、パイル伯爵と夫人が不機嫌な顔をした。


「ナナ! 今の発言は、学年までずらして、お前の為に必死で数年間も介護技術や料理やら家事、魔法学に至るまで頑張った姉妹と、それを教育してきた伯爵家に凄く失礼だぞ!」


「あ! も、申し訳ありません! 伯爵家及びお二人には深くお詫びいたします。ですが! わたくしの本音です! お二人は可愛すぎるのです! 私の侍女に可愛さは要りません! 兄様の好みなのです! だから危惧して事前に避けていたのに!」


「「「ナナ様、酷いです!!」」」


 これはローレル姉妹、マーレル姉妹双方から上がった声だ……確かに酷すぎる。


 とりあえずナナには強烈なデコピンを入れておいた。


 ある意味、可愛くないから侍女にした……と言われたマーレル姉妹は涙目だ。マーレル姉妹も決して可愛くないことはないのだ。只、俺の周りにいる女子が可愛すぎて霞んでいるだけだ。


 ローレル姉妹は自分たちの5年近い努力が報われなかった理由が、まさかの可愛いからという理由とは思いもしなかっただろう。むしろ彼女たちからすれば、可愛さは侍女候補に選ばれる武器になるとさえ思っていたほどだ。



「そんな事情でうちの娘たちは侍女候補から漏れたのか……ゼノ様が理由を言い淀んだのはこういう事情があったからか……」


「パイル侯爵、申し訳ない! 本当にうちの愚妹がすみません!」

「済んだことなので今更言っても仕方がない……理由を聞くと、二人が何年も必死に頑張っていただけに不憫だがな」


 その愚妹は、おでこを腫らせて俺の横で声を殺して泣いている。


「あまりにも申し訳なかったので、うちの班員に取り入れてフォローするつもりでした」

「ああ、その話は班分けがあった日に、娘たちが嬉しそうに報告してきたので聞いている」


「あの……リュークさん。どうか娘たちのどちらかを貰ってやっては頂けないでしょうか?」


 奥方がこのタイミングでまた、切り込んできた。

 ナナの暴言のせいもあるし、交渉としては良いタイミングだな……。


「もし俺が断ると、さっきのあの者たちに学園卒業後に嫁ぐ事になるのかな?」

「資金の目途がついたので、婚約を急ぐ必要はなくなりましたが、商家の方はともかく、家格が上の貴族家相手に断るにはそれなりの理由が要る段階まで話は進んでいます。公爵家のご子息との縁談となれば、断るには十分な理由になるかと思います。何より娘たちがリュークさんのことを好きなようです。親としてこれ以上の理由は要りません」


「リューク様、わたくしは承服しかねます。お二人が嫌いとかではないのですが、これ以上嫁を増やす必要性はありません。本来わたくしとナナさえ居れば後継者問題は事足りるのです。サリエちゃんはリューク様の心のオアシスのようですので良いとしましょう。わたくしもサリエちゃんのことは大好きです。プリシラ殿下も建国のことを考えれば、他国の牽制に絶大な抑止効果が望めます。ルル様に至っては聖女様です……本当は嫌なのですが、ルル様も仕方がないのかと思えます。ですが、ローレル姉妹の御二方に関しては、結婚する理由がございません! 可愛いから? 婚約者の見た目があまり宜しくないから可哀想? そんな理由で一国の王が簡単に嫁を増やして良いはずがありません!」


「フィリア、もっと言ちゃえ!」


 横でやじったナナに、もう一発デコピンを入れておく。


 フィリアの気迫にローレル姉妹はタジタジで何も言えないようだ。

 フィリアが言っていることは正論だし、これ以上は増やしたくないというのも理解できる。


「でもフィリア、可愛いを理由にしちゃいけないのなら、フィリアだってそうだろ? 世間では聖属性持ちは大歓迎されるけど、ルルを迎えるならフィリアは要らないって話になるよね? なんたってルルは本物の聖女様なんだしね」


「それは……はい。やはり、リューク様はわたくしのことはもう必要ないのですか?」

「何言ってるんだよ! フィリアのことは一番好きだよ。それは10歳の頃から変わらない。それと言っておくけど可哀想とかそんな下らない理由で結婚はしないよ。俺の判断基準はね、数年後にその娘が他の男の子供を抱いているのを見て、素直にお祝いが言えるかどうかが基準かな。俺の子供を産んで欲しいと思えるかも1つの基準だよね……」


「ちょっと分かり辛いのですが?」

「簡単に言えば、他の男に娶られるのが惜しい! 勿体ない! それなら俺が! と言うのが正直な気持ちかな」


「惜しいとか、勿体ないとか……それこそ物扱いじゃないですか?」

「単に俺は欲張りなんだろうね。フィリアが他の男のことを思っていると誤解しただけで発狂しそうだった。サリエも今は見た目幼いけど、絶対他の奴に渡したくない。ひたむきで、目が治って元気な笑顔のプリシラもちょっと可愛いと思えてきた。只使徒候補だってことで結婚を迫ってくるルルはちょっと複雑な気分だけど……俺を本当に想ってくれているなら様子を見たいと思えるお相手だ」


「あの、兄様? ナナのことはどうして話に触れて下さらないのですか?」

「お前はちょっと黙ってろ! 話がこじれて面倒だ!」


 また、声を殺してシクシク泣き出した……。


「まったくお前は面倒な愚妹だな……ナナもいつか必ず結婚して子供を授けてあげるよ。だが、もう少し俺に心の整理をする時間をくれないか。いくら母親が違うと言っても同じ父を持つ実の兄妹だ……まだ少し抵抗があるんだ。俺以外は死んでも嫌だというお前の気持ちは受け取っている。もう少しだけ時間が欲しい……」


「グスン……はい……ナナはいつまででもお待ちします」


「フィリアさん。英雄色を好むと言いますし、女の一人二人増えたからといって目くじらを立ててはいけません」


「ルル様は自分も婚約したいだけでしょ!」


「うっ……そうですが、そうではないのです!」

「あれ? 本心みたいですよ?」


「プリシラ殿下? どういうことです?」

「いえ、そこまでは分かりませんので、本人に聞いてみましょう? ルル様?」


「審問官の姫が居るとやりにくいですね。どのみち聖女も審問官も嘘がつけないのは一緒ですし、皆本心をこの場で全部言っちゃいましょう!」


「ちょっと待て! パイル伯爵! ローレル姉妹と婚約者たちだけで話をさせてもらいたい。食堂をお借りしても?」

「そうだな……ちょっと面白いので、見ていたい気もあるが仕方がない」


「あなた! 不謹慎です! 娘の将来のかかった大事なお話なのですよ!」

「ああ、済まない。そんなに怒るなよ……ちょっとリューク君が羨ましいというか、男の立場からすると腹立たしいというか……」


「そういえば、パイル伯爵はどうして奥方様が一人なのです?」

 

 なにやら言い淀んでいるが、夫人が先に答えてくれた。


「学生の時に主人からプロポーズを受けたのですが、お受けする際にわたくしの方から条件を1つ付けたのです。『決して浮気をしない』という条件です。私以外の妻も当然浮気とみなし禁止しましたの」


「そうでしたか、納得です。でもそれならフィリアたちの、嫁をこれ以上増やしたくないという気持ちは十分理解できますよね?」


「それは……はい……そうですね。ですが、娘には幸せになって欲しいのです……」

「まぁ、いいでしょう……」

 


 どうも伯爵は、学生自分から彼女に尻に敷かれていると思われたくなくて言い淀んだみたいだ。



 場を移してルルの話を聞くことになった。念のためにこの場に【音波遮断】を張っておく。



「英雄色を好むのお話でしたわね?」

「違います! リューク様の婚約者たちのお話です!」


「だから、そこなのです。これまでの英雄や使徒様も沢山の妻を娶られているのです。私が調べた限りでは、一番多く妻を娶ったのが、邪竜を倒した後、今は亡きカロッテリア国を建国されたギスリヤ国王です。生涯の間に妻を38人も娶ったと語られています」


「それの何がリューク様と関係があるのですか!?」


「使徒や勇者はレベルアップ毎に大幅に基本ステータスが神の恩恵によってどんどん上がっていくのです。その中には当然【魅力値】も含まれます。それだけならただモテるという話で終わるのですが、特性として美女が光に集まる蛾のようにどこからともなく湧いてくるそうです。今のこの状況が正にそうですね……」


「特性? ルル様は、今のこの状況が、勇者様や使徒様が持っている特性だというの?」

「ええ、より勇者様に発破をかけるために神が仕込んだものだと私は考えています」


「ルル? それは本当なのか? アリアがまた関与しているのか?」


「またアリア様を呼び捨てになさって、ダメですよ。アリア様が何かしたわけではなく、使徒として選ばれる方たちはそういう特性になるのではないでしょうか? 守りたい人たちが沢山できれば、必然と奮起するでしょう」



 俺の周りにやたらと綺麗どころが集まっているのには、神の思惑がありそうだ……そう考えると、なんか彼女たちの気持ちまで意図的に作られたんじゃないかと思ってしまう。


『……マスター、ルルの意見は見当違いですね。単に魅力値が高いので、出会った時点で男女共にマスターに向ける好感値が高いのです。そこに、今回のようにカッコいい所を何度も見せつければ、大抵の女子は惚れるでしょう。現にマームやマーレル姉妹もマスターのことが気になっているようですよ……』


『マジか!? あの3人も悪くはないが……恋人にしたいほどではないぞ?』


『……慕われたからといって、全てを受け入れる必要はありません。そんな事をすれば、流石にフィリアも愛想を尽かすでしょう。マームやマーレル姉妹の方から告白はする気はないので、マスターがふらっと手を出さない限りは、そういう関係には至らないでしょう。流石にこのメンツに絡むのには勇気が要りますからね』


『だよな……なんとなくそれは理解できる。フィリアとプリシラとルルが居る中に混ざって来るにはかなり勇気がいるよな……。ローレル姉妹はそこに混ざろうとしているんだ、大したもんだよね』


『……まぁ、自分たちの婚約者を見た後ですから、必死にもなるでしょうね……』

『あ~~ね。実際どうなんだ? あの肥満児と、おっさんの人物評価は?』


『……人物的には悪くはないかと思いますが、見た目も大事だと思います。いざ結婚してしまえば案外幸せなのかもしれませんが、マスターと比べたらあの姉妹が嫌がっても仕方ないかと……』 




 神が関与していないのなら、俺の意思次第なのか……フィリアの気持ちは分かったが、ちょっと自分とローレル姉妹の為に頑張ってみるかな。

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