3-59 結局ごり押しで婚約しました

 フィリア・ナナ・サリエの3人はこれ以上嫁を増やしたくない派。

 プリシラとルルは何とかして、側室でも妾でも良いので婚約者候補に食い込みたい派。

 ローレル家の窮地を救ってもらい、数々の雄姿を見せられ、妾でも良いので傍に置いて欲しいと願うローレル姉妹。


 それぞれの思惑が入り乱れて、ちょっとしたカオスだな……。

 だが、これほどの美少女たちに想われて、男冥利に尽きるというものだ。


「リューク様、わたくしのお相手は上位貴族なのでまだ我慢できます。ですが、妹のマシェリのお相手は商家のご年配のお方なのです。わたくしはどうしても許容できません。お妾で良いので、妹だけでもお救い下さいませんか?」

 

 自分は諦めるが、妹だけでもなんとかしてあげてほしいと、姉のチェシルが訴えてくる。


「お姉さま! ですが……そうだわ、お姉さまがリューク様のお妾さんにしてもらえれば、わたくしが、その貴族の方の処に参ります。わたくしのお相手が貴族なら商家の家格では引き下がるしかないでしょう?」


 どっちもがお互いのことを心配して身を引こうとしている。親が決めた相手に嫁ぐとか、俺的には考えられない。


「まぁ、待て。チェシルとマシェリは二人とも本当に俺に気があるの?」


 姉妹でお互いに顔を見合せておいて、見事にハモる。


「「はい。お慕いしております」」

「なら二人とも俺と結婚して欲しい。どっちかではなく両方だ。どっちも甲乙つけがたいほど魅力的だ」


「「「リューク様!」」」


 フィリアとローレル姉妹の発したものだが、同じ言葉でも意味合いが全く違う。

 ローレル姉妹の方はとても嬉しそうだ。一方、フィリアの方は怒気混じりだ。



「フィリア、サリエ、ごめん。どう考えても勿体ない。これほど良い女を、あんなデブとおっさんにみすみす譲るなんて有り得ないだろ? 妾とかじゃなく、正式に側室として迎え入れたい。今直ぐとしてではなく、婚約だけ先にして、プリシラと正式に結婚してからの話になるだろうけど、認めてほしい」


「リュークお兄様! わたくしと結婚して下さるのですね!」

「プリシラはなんか尻尾振って懐いてくる犬みたいで可愛いからな……建国云々抜きにしても、他の男に嫁がされるなら俺がって気になるくらいプリシラも魅力的なんだよね……」


「リュークお兄様、嬉しいです!」


 プリシラ、君は犬扱いでいいのか?


「フィリア……そんな怖い顔で睨まないでくれよ……折角の可愛い顔が台なしだよ」

「これはリョウマ様の影響なのですか?」


 うっ……確かにそうだけど、そうでないともいえる。


「使徒としてアリアに授かった力のおかげで今これほどモテているともいえるので、俺の影響と言えなくもない。ナナとフィリアとプリシラ以外は今の俺を好きになってくれたのだけど、それは今の力があってこそモテているのだと思う。サリエは強い俺に、ルルは勇者としての俺に、ローレル姉妹も、色々できる能力込みの俺を好きになったんだろうしね。だから、リョウマというよりは、今の色々出来る俺が凄いんだと思う」


「そうかもしれませんが……」

「フィリアは今の俺はやっぱり嫌かい?」


「嫌なら、これほどやきもき致しません!」


「そっか……ありがとう。でも、俺は誰かを選んで、選ばれなかった者が悲しい思いをするのは嫌なんだ。ラエルのように悲恋で終えるとか、あんな辛い思いはもうしたくないし、させたくもない。俺は頑張って、父様のようにみんなを幸せにしてみせる」


「ゼノ様? 確かにマリア様もセシア様もミリムさんも幸せそうですが……」

「だろ? 俺だって頑張って皆を幸せにしてみせる! フィリアにもできるだけ嫌な思いはさせないように努力する! 自分は浮気とか許せないのに……自分勝手で我儘なのは分かっているのだけど……」


「リューク様はやはりラエル様のことをまだ引き摺ってらしたのですね……だから誰も悲しませたくはないと……」


「フィリア?」


 フィリアは俯いてブツブツいいながらなにやら思案に耽っているようだ。


「兄様は、ナナが焼き餅でおかしくなりそうなのは分かってらっしゃるのですよね?」

「分かっているが、ナナはそれを我慢できないなら、候補にもなれないんだぞ?」


「うっ! 嫉妬を我慢すればお嫁さんにしてくれるのですか?」


「う~~ん、そうだね……でも少しだけ時間がほしい。今直ぐは気持ち的に無理。ナナのことは好きだが、好きの種類が今はちょっと違うからね……家族愛と恋愛は違う」


「分かりました……少しだけ我慢してみます」


 少しだけとか……チェシルたちを刺したりしないだろうな……この愚妹なんか怖い!


 フィリアは未だ眉間に皺を寄せ、辛そうに思案中だ。


「フィリア、本音を言えば俺は君さえ居ればいい……でも、そうするとサリエがウォーレル家の後継者を産むために誰かと結婚させられてしまう。俺はそれは嫌だ。他の娘たちも同じだ。俺を慕ってくれるなら、俺が幸せにしてあげたい。全員だ! 一人も悲恋で悲しい思いをさせたくない! ナナもその一人だ!」


「ん、嬉しい! 嫉妬は多少するけど、皆の為に我慢する。フィリアに優先権はあげる……」


「「私たち姉妹も、フィリアさんの前にでしゃばるようなことは致しません。どうか仲間に入れてくださいまし」」


「フィリア……もう諦めよう……兄様が言い出したらきかないの知ってるよね?」

「もう! 分かったわよ! 同じ奥方になるのに、後でギクシャクするのは嫌だもの。チェシルさんとマシェリさん……そういうことですので、末永くよろしくお願いします」


「「ありがとう、フィリアさん。こちらこそ宜しくお願いね」」


「フィリア、ありがとう。きっと皆を幸せにする」

「リューク様……もうこれ以上増やさないでくださいね! それとも言い寄ってくる娘全部嫁にするおつもりですか?」


「俺だって好みはあるから、好きって言われても、好みじゃなければ断るよ。それにこれ以上増やす気はない……でも、絶対とは言えないかも……他国がどう動くか分かんないしね……」

「ああ確かに……建国後に塩を巡って、姫を友好の証にとか言って差し出しそうな国が有りそうですよね……」


「うん、その辺は父様やゼヨ伯父様に牽制してもらうよ。好きでもない女の子と結婚なんかできないしね」





「お義父さん! チェシルとマシェリのお二人を下さい!」

「えっ~~!? 30分の話し合いの間に何があったの!?」


「まぁ、素敵! 二人共ですって! 流石だわ、やはりあなたとは器が違うわね! ありがとうリューク君、勿論OKですわ!」


「お義母様、ありがとうございます!」

「俺はまだ許可してないぞ! なに二人で勝手に話を進めているのだ!」


「とりあえず婚約だけさせていただきます。妾ではなく正式に側室として迎えますが、プリシラが成人してその後で結婚ということに成りますので、その辺は了承してください」


「まぁ、妾ではなく側室ですの! ということは……王妃様!」


 あらら……お母さん泣きだしちゃったよ。


「まだ建国の下準備も出来ていませんので、王妃とか……皆気が早いですよ?」


「でも兄様……主神で在らせる女神アリア様が後ろ盾なのですよ? 建国はもう達成したも同然ではないでしょうか?」


「何言ってるんだ。あの駄女神は全く何もしないぞ。銀竜を倒すのも、領地を整備するのも、城を建てるのも全部俺がやるんだ! アリアはせいぜい建国後に温泉だしたり、気候を操作して作物を良作にするくらいにしか役に立たないよ」


「リューク様はまたアリア様をそのように! 何があったのかは知りませんが暴言は許しませんよ」


 フィリアが怒った! ルルもめっちゃこっちを睨んでる!


「今はこっちが先だ。パイル伯爵……建国後に、この領地を賄えるだけの塩を10年契約で無償提供しましょう。輸送コストだけそっちで持ってください」


「具体的な数量はどれほど貰えるのだ?」


 大人の最低必要摂取量は1日1.5gだそうだ。年間547.5gは必要になるが、実際もっと使うだろう。


「そうですね、領民の大人1人につき年間1kgぐらいが妥当でしょう。年間配給1kg×人口ですね」


「よし! 娘二人幸せにしてやってくれ!」


 現金な人だ……奥方と違い、あまり好きに成れそうにないな。


『……マスターは分かってないですね。塩は口実というより娘を手放すきっかけですね……内心我が子が幸せに成れそうで奥方同様喜んでいるのですよ?』


『そうか……そうだな。あくまで塩は可愛い大事な娘を手放す自分の心を納得させるためのきっかけか……幸せにしてあげないとな』



 相手方には、公爵家の二男坊に見初められて、そっちから圧力がかかったと断りをすぐに入れるそうだ。


 婚約発表は建国が無事成った後ということで了承を得た。塩の件も含めてそういうのはまだ随分先の話だ。





 寮に転移魔法で戻ってきたのだが、すぐに国王がやってきた。どうやら隣の空部屋で俺たちが帰ってくるのを待ちかねていたようだ。


「プリシラ、お帰り! どうだ? 本当に目は治ったのか?」

「お父様の声、これがお父様のお顔? リューク様の方が好みですわ……」


 なるほど……我が子の目が本当に治ったのか、どうしても早く見たくて、わざわざ寮まで訪ねてきたのか。だが折角駆けつけたのに、プリシラの第一声で消沈してしまったようだ。


 なにせプリシラは嘘はつけないのだ……。


 だが、迷惑な国王様だ……王が動くと、護衛や暗部やらが沢山動く羽目になる。


 勿論この学園の長である学園長にも迷惑が及ぶ。現に、国王のゼヨ伯父様の横で恐縮して控えている。



 その学園長が驚いた顔をして話しかけてきた。

 

「リューク! その人数で転移魔法を使ったのか!? しかもこの貴族寮で!?」

「ええ、まぁ……」


 あらら、ゼヨ伯父様にも10人規模での転移が可能なのバレちゃったよ……さっさと建国してそっちに逃げないとヤバいな。


「この学生寮には、まだ魔法制御が未熟な生徒の暴発を防ぐために、魔法阻害の魔法が掛かっておるのだぞ? どうやってその中で魔法を使っておるのじゃ?」


 えっ!? そうなの? ナビー?


『……はい、ナビーがピンポイントでマスターの魔力を拝借して解除しています。王城の魔法阻害の結界と違って、それほど高度な結界魔法ではありませんので』 


「その辺はちょっと秘密です。ごめんなさい」

「使徒として色々ある訳じゃな……まぁ良かろう」




 なんか伯父様、いきなりプリシラに俺と比べられてちょっと凹んじゃってるな。


 後ろの人って確か……。目が合った瞬間その人が声を掛けてきた。


「リューク君お久しぶりね。突然こんな大人数で押しかけちゃってごめんなさい」


 やっぱそうだ……。


「ええ、本当にお久しぶりです。アーリヤお姉様」


 元第一王女殿下の従姉のアーリヤ姉さんだ。


「お父様が、リューク君なら子供が出来ない原因が分かるかもって……セシア叔母様にお子が授かったとか、ナナちゃんの足が治ったとか、プリシラの目まで見えるようになったと聞いて、迷惑なのは承知で付いてきちゃいました。プリシラ本当に見えるのね? 良かったわね」


「はい、アーリヤお姉様。お姉様綺麗……」


「リューク君お久しぶりだね。結婚式以来かな?」


 この人はアーリヤ姉さんの旦那さんだ。

 名前は……うん? 記憶にない……おーいリューク君や、全く記憶にないとは可哀想に……。確かに存在感の薄い感じの人だけど。


 どうも、この人も不妊治療を受けたいようだ。





 今日は散々働いて疲れてるけど……アーリヤお姉様には幼少の頃、城に行く度に遊んでもらったからな。

 仕方がない……もうひと頑張りするか。

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