3-79 子供たちも懸命に生きているようです

 獣人2人を所有者と交渉し、上手く引き取った。その足ですぐ奴隷商に連れて行き、隷属紋を俺の権利に書き換えた。


 奴隷紋というのは首の周りに、円環状に鎖の刺青が浮き上がる魔法で、この魔法で対象者を縛ることになるのだ。


 縛る程度は奴隷のランクによって変わってくる。


 終身奴隷A(刑期無期限の重犯罪者)>終身奴隷B(事実上返済不可能な額の負債・弁償・借金など)>犯罪奴隷(刑期年数)>借金奴隷(返済まで期日なし)>契約奴隷(個人によって細かく内容は変わる)


 この子たちは終身奴隷Bとして売られたのだが、本当は盗賊に攫われた子なので、売買は違法なのだ。裏取引から始まって、何箇所か奴隷商を経由し、最終的には正規ルートで高額で売りに出されたのだ。


 終身奴隷・犯罪奴隷・借金奴隷に基本人権はない……物として扱われるのが普通だ。終身奴隷は生きる権利まで購入者に委ねられる……主に重犯罪者が多いため、被害に遭った家族が買い取り、家族の手により公開処刑が行われたりもする。


 犯罪奴隷と借金奴隷は、命と寝食の最低保証はされるが、労働に対して何をさせられても文句は言えない。男の殆どは鉱山や土木作業の一番過酷で危険な場所に配属されることになる。女の場合、若くてそれなりに可愛ければ娼館が買って娼婦にされる。可愛くなければ、同じく重労働で長期の労働が待っている。

 犯罪奴隷は刑期が終えるまで、借金奴隷は職種は選べないうえで返済が終えるまでの期間強制労働する事になる。


 契約奴隷だけはハローワーク的なもので、雇用主と条件が合えば、その内容で契約して雇われるだけのようだ。




「ルル、すぐにまた潜るぞ」

「あの? どうなさるのですか?」


「俺かルルのレベルが40になるまで潜る。その間にこの子たちの戦闘教育をする」


 おっと……サリエからのコールだ。やっぱ、メールだけじゃ納得しないか。


『ん! リューク様どういう事!?』

「ダンジョンで獣人の子供を保護したのだけど、魔獣に喰われて部位欠損してしまっているんだ。今後のことを考えて、少しルルとレベル上げをやってくる」


『ん? ルル様がいるの? なら、私も今からすぐ行く!』

「ダメだ。サリエはちゃんと勉強するんだ」


『ん、私は護衛の為にいるの! すぐ行くので待ってて!』

「ダメだと言ってるだろ! サリエの成績がもう少し良ければ連れて行ってあげるけど、今の成績では俺に恥をかかせるんだよ? 耳の良いサリエは、クラスの噂ぐらい聞こえているよね? これ以上俺に恥をかかすようなら、侍女を解任して、キリクに代えるよ……サリエは結婚するまでは侍女としてではなく婚約者として振る舞えばいい」


 クラスで最初は高評価を得ていたサリエだが、日毎に常識知らずの頭の弱い馬鹿と噂されるようになった。

 最初は俺の仕組んだホームルーム前の紅茶の件や、無詠唱での高い魔法力で、流石公爵家の侍女と言われていたのだが……最初のロッテ先生の態度も不味かったよな~。


 決定的だったのが、つい先日ルルとプリシラが編入してきて、彼女たちにもタメ口に近い喋りを変えなかったことが最大の理由になっている……身体的には優秀だが、中身がダメな礼節も知らないおバカな子、と評価が下がっているのだ。


 これで中間の成績も悪かったら、何を言われるか分かったものじゃない。


『ん……一緒に行くって約束したのに……』

「約束は覚えている。試験が終わったらちゃんと連れて行ってあげるよ。でも、本当なら魔法特化の者にあげるズルいスキルをサリエにコピーしてあげたんだから、普通に勉強している農家の娘のマームより成績が悪かったら、本当に侍女を外すからね」


 【高速思考】と【並列思考】をコピーしてズルしてあげたのに、普通にズルなしで頑張ってるマームに負けたのなら、勉強を殆ど何もしなかったということになる……サリエは知能は高いのだから、やればできる筈だ。


『ん……分かった、試験日までには帰ってきてね』

「ああ、分かってる」


 通話を切って再度ダンジョンに潜る。人数分また入洞料を払わされたけどね……。

 一応今回の予定では、最大でも試験前までの4日間の予定だ。

 エリーをどうしようか迷ったが、足手纏いついでに、獣人のこの子たちと一緒に指導してやることにした。



 エリーに4日雇ってやると言ったら、とても喜んでどこかに連絡していた。おそらく4日ほどダンジョンに潜るので、帰らないことを親に知らせているのだろう。後でその辺も詳しく聞いてみることにしよう。


 1階に潜った時点で【アクアガヒール】を2人に掛けて全快させる……部位欠損は治らないけどね。


「あれ? 痛いの消えた!」

「ご主人様! ありがとうございましゅ!」


 犬ちゃんが緊張して噛んだ! そういえばまだ名前も聞いてなかったな。


「2人の名前と年齢を教えてくれるかな?」


「ワンワンです……10歳です」

「ニャンニャンです……同じく10歳です」


 顔を赤らめて答えてくれたのだが、これはイタい!


「う~ん……それは前の主人の貴族が付けた名前なのかな?」

「「そうです……」」


 何て痛い名前を付けるんだ……呼ぶ方も人前で呼ぶの恥ずかしくないのか?

 とにかくこの名前は却下だ!


「親がつけてくれた名前は何て言うんだ?」


「カリーナです。『最愛の』とか『可愛い』って意味があるそうです」

「私はルディです。『名高い狼』って意味があるって、お母さんが言ってました。お爺ちゃんが付けてくれた名前です」


「二人とも良い名前だね……カリーナとルディってこれから呼ぶね」


「「はい、ありがとうございます! 嬉しいです!」」



 地下2階に下りて少し歩いたところで、エリーのお腹が可愛くキュルル~と鳴った。そういえばもう夕食時を過ぎているな……。


「エリー、この近くで冒険者や探索者があまりこない所はあるかい?」

「うん。3階に向かうルートから少し外れたら、この時間だともう人はこないよ」


 お昼なら見習いポーターや初心者のグループが、1~3階付近をウロウロしているのだそうだ。魔獣が少ないのは、湧く都度ウロウロしている探索者たちが奪い合うように狩るからだね。



 2階のルート外の通路に入り、テーブルと椅子を出して夕飯にする。


「エエ~~!? お兄ちゃん亜空間倉庫にそんな物入れてるの? 容量が勿体ないよ~」


 そうか……エリーはポーターだから、余計に重量規制のことが気になったのだろうね。


「俺の亜空間倉庫は特別だからね。容量はあまり気にしなくて良いんだ」

「じゃあ、どうして私を雇ってくれたの? 自分で一杯持てるなら、荷物持ちは要らないでしょ?」


「ポーターの仕事がどんなのか見たかったからかな……それにポーターの仕事は荷物持ちだけじゃないでしょ? 道案内でエリーは役に立っているよ」


「ふ~~ん、そっか~じゃあ、頑張ってもっとイイところ見せなきゃね!」


「エリーは将来何になりたいんだ? ポーターやってるってことは、やっぱり探索者か冒険者か?」

「私は探索者になりたいの。本当はお店をやりたいけど、その為にはお金が一杯いるからね……娼婦だけは嫌なの」


 9歳の子供から娼婦という言葉が出るとは……確かにエリーはそれなりに可愛い子ではあるが……。


「お店がやりたいなら、探索者じゃなくて、どこかの商店にまず丁稚に行けば良いんじゃないか?」

「丁稚はダメだって皆言ってるよ。ほぼタダ働きで、朝から晩までいいように使われるだけみたい。教えてほしい商売の仕方や仕入れ先なんかは絶対教えてくれないんだって」


 確かに普通、丁稚はほぼタダ働きで、ほんの少しのお小遣い程度しかもらえない。

 でもその間に教わるのではなく、盗み覚えるのが丁稚のメリットなんだけどな……子供には分からないか。


 そういえばルルの奴、探索者ギルドに入ってからフードを被ったまま殆ど喋っていない。これから何日も一緒に行動を共にするのだからそろそろフードを外させるかな。




 テーブルに一汁三菜だして並べる。


 ・スタンプボアの黒胡椒ステーキ 

 ・ホーンラビットの唐揚げ

 ・生野菜のサラダ

 ・コーンスープ

 ・パン

 ・プリン


「「「わ~~! スゴい御馳走!」」」


 子供たち3人の歓声が上がる。


「食べながら自己紹介をしようか。俺はリューク・B・フォレスト。次はエリーの番ね」

「エリーです! ポーターをしています!」


「ルル、自己紹介もかねてフードをとって食事にしよう」

「ふふふ、そうね……」


 ルルがフードをとった瞬間、エリーが引き攣った顔をして土下座をして謝りだした?


「ルル様! ごめんなさい! ごめんなさい!」

「エリー、いけませんよ。決まりごとはちゃんと守らないと……」


「はい! もうしないので、神父様には内緒にしてください!」

「ルルどういうことだ?」


「エリーは孤児院の子なのよ……上に居たターク君もそうね。で、何を謝っているのかというと、孤児院は10歳以上じゃないとポーターの仕事は禁止しているの。10歳未満とか体もまだ未熟なのであまりにも危険ですからね。探索者ギルドも孤児院の子は10歳以上の子しか入れないように取り計らってくれてるはずなんですけど……」


「なるほど……じゃあ、エリーはギルドにもウソの報告をしているのかな?」


「はい……スラム出身ってことにしています……聖女様、嘘を吐いてごめんなさい!」

「「聖女様!?」」


 公爵家ということで緊張していた獣人娘たちは、聖女だと聞いて更に驚いている。


「まぁ、もう潜り始めたんだし、今回は良いだろう。ルディとカリーナの両親はどこかに居るのかな?」


 この2人の両親は街道を移動中に盗賊に襲われて殺されたそうだ。抵抗しなかったら殺されなかったかもしれないが、獣人族でもこの2人の種族は戦闘種族だ。両親は子供たちが奴隷にされるのを不憫に思い、最後まで激しく抵抗したためにこの子たちの目の前で弓で射殺されたのだそうだ。そして盗賊に捕まって、奴隷商に終身奴隷として高額で売られたみたいだ。


 買ったあの四男坊の貴族は、仲の良い二人を引き離すのも可哀想と無理をして二人とも買ってくれたのだとこの子たちは言っている。少しの間だけだったが、乱暴な事はされず、優しくしてくれていたそうだ。


 まぁ、ナビーが言うには、成長したら性奴隷にするつもりだったそうだしね。優しくして、手なずけるつもりだったのかもね。


『……下心はあったのですが、彼は普通に優しい少年ですよ。置き去りにしたのも、仲間を逃がすための最善手です。さっきのような事態では、真っ先に奴隷を犠牲にするのが常識なのです。ナビー的に良い気はしないですが、その為の奴隷ですしね。ポーターも同じ役割をしょってますので、エリーもその覚悟をもって仕事を請け負っているのですよ』


 人の命にランクを付けて下におく……理解はできても俺には納得はできそうにないな。


「エリーの両親は?」

「分かりません……私は2歳の時に孤児院の前に置き去りにされていたそうです。運良く年長者がその年に孤児院を卒業して出る事になっていたので、その空枠に入れてもらえたのだそうです」


「卒業といえば聞こえは良いですが、施設の年齢制限で16歳の年に問答無用で出るしかないのです。成人した働ける年齢の子を、ずっと養えるほど教会に資金の余裕はないのです」


 ルルが補足説明をしてくれたのだが、世知辛い話だ。


「それで、さっき娼婦という言葉が出てきたのか……」

「才のない女子が行き着くところがそこなのです。そこにも行けないような娘は、スラムに流れてパン一切れで体を売り、最終的には飢えて死ぬそうです。そうならないように孤児院では文字を教えたり、九九を教えたりはしているのでけどね……」


「娼婦は嫌なのです……」


 切実な一言だ……。


「ルディとカリーナは将来何かやりたいこととかある?」


「「私たちは一生を買われたので……」」

「俺はお前たちをずっと拘束するつもりはないよ。でも、今、奴隷から開放すると、幼いお前たちだけだとまた悪い奴に捕まっちゃうから、俺が保護してあげているんだ。公爵家の奴隷だと知って手出しする奴はいないからね。お前たちが農婦になりたいのならそうさせてあげるし、冒険者になりたいのなら鍛えてあげる。何か店をやりたいのならそういう知識も教えてあげるよ」


「「ほんとう? いつか解放してくれるの?」」

「うん、腕も足も尻尾も耳もすぐに治してやるからね」


 2人ともやっと笑ってくれた。


「さぁ、冷めないうちに食べよう」




 足手纏いの子を3人連れて、どこまでレベルが上げられるか分からないが、最低でも部位欠損を治せる、レベル40までは頑張りますかね。

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