3-80 フルーツダンジョンといわれているのに、まだ一切出ていません

 獣人の子がいるので夕食は肉メインにしてみたのだが、思惑通り凄く喜んでくれた。少し多いかなと思っていたのだが、口の周りを舌なめずりしているほどだ。


「美味しかったか?」

「「「はい! 今まで食べた中で一番のごちそうです!」」」


「あの、リューク様? 時間停止機能の亜空間倉庫は便利なものですね……お肉もアツアツのままだし、しかも凄く美味しかったです。どなたが料理なされたのですか? パエルさんたちです?」


「さっきのは俺が作って、保存しているヤツだよ」

「リューク様は、料理も宮廷料理人並みに美味しくできるのですか……流石です」


 何が流石なのかあまり聞きたくない……ルルの目がまたキラキラしている。 なんでもかんでも、勇者にこじつけないでほしい。


「今、お前たちが、器をペロペロしているデザートなんだが……」

「「「これ美味しいです!」」」


 子供たちだけじゃなく、ルルまで凄い食いつきようだな……。


「7月に王都のメイン通りの端で、このプリンを含んだデザート専門店を開くんだよ。さっきも聞いたけど、カリーナとルディは将来何になりたい? 特になりたいモノがないのなら、そのデザート店で売り子をやるか、うちのお屋敷で簡単なメイド見習いをするかしてもらうことになるけど、何か将来の希望はある?」


 俺の質問に、カリーナが真っ先に返答してきた。


「私はどちらかというと戦闘種族なので、メイドさんには向かないかもしれません」


 10歳にしてはしっかりした子だな……。


「冒険者とか探索者になりたいのか?」


「う~ん、そういう訳でもないです……でも強くは成りたいです」

「私も強くなりたいのです! 人を守る仕事がしたいです」


 ルディは人を守りたいのか……護衛職かな?


『……2人とも盗賊に襲われての身の上です。強さを求める根源には、その事件がきっかけになっています』

『そういうの聞くと、泣けてくるな……』


「じゃあ、俺が強くしてあげるので、デザート店で護衛と売り子を両方兼ねた護衛メイドにならないか? そこの従業員はエルフとハーフエルフの親子と、カリーナとそっくりなので多分黒豹族の娘と、犬族の娘の4人で始める予定なんだ。エルフと獣人だけの店なのでお前たちでも気兼ねしなくて良いだろう」


「「亜人だけのお店なの?」」

「家族の為に娼婦として働いていた者だけど、皆優しい娘だから可愛がってくれると思うよ」


「「「娼婦……」」」


 後で分かって変な反感を買うより、先に言って子供たちに判断を委ねさせようと、事前に元娼婦ということは教えておく。


「お兄ちゃん、あ! リューク様、そのお店は人間の子供は働くのダメですか?」


 なんか慌てて言い直したぞ……。


「エリー、別にお兄ちゃんでいいぞ」

「リューク様、そこはちゃんと躾けてくださいませんとダメです。孤児院の子は口の聞き方も知らない……と陰で言われてしまいます」


 貴族相手の口の聞き方も躾のうちか……下手をすればジュエルたちの家族のように、因縁を付けられて殺されることもあるのだから、配慮するべきことのようだ。


 でも俺はこういうのはお約束的な設定が好きなんだよな……幼女に『お兄ちゃん』『ごしゅじんさま』はお決まりだろ。それに、獣娘たちの語尾には『ニャン』と『ワン』を付けさせて喋らせたいぐらいだニャン。


 あれ? ……そう考えたら、ワンワンとニャンニャンという名前が凄く良い響きに思えてきた。イタイタ設定だが、異世界ぽくて良くないか? でも2人とも凄く嫌そうな顔をしていたから、その呼び方はやっぱダメか……。


「ルルの言う通り躾は大事だけど、お兄ちゃんと呼ばれるのは新鮮でなんだかちょっと嬉しく感じていたんだ……妹のナナは何故か『あにさま』って呼ぶし……だからエリー、俺のことは、この探索中はお兄ちゃんと呼んでくれるかな?」


 エリーは良いの? と俺ではなくルルに確認を取っていた。


「リューク様がそう呼ばれるのをお望みなら、今回は良しとしましょう……」


「はい、じゃあ、お兄ちゃんと呼びますね」

「ああ、そうしてね。それとさっきのエリーの質問だけど、やる気があるのなら人族の子供でも問題ないよ。でもその店の店長は俺ではなくハーフエルフのお姉さんだ。雇うのはその娘だから、最終的にその娘の確認がいる。雇うに当たって、最低限お金の計算ができないと話にならないので九九が必要になるけど、エリーは九九はできる?」


「はい、九九は全部覚えています。文字もまだ書くのは完璧ではないですが、読むだけなら大体分かります」

「ほう、それは偉いね」


「孤児院では、将来の為に5、6歳辺りから文字の学習を始めますからね」

「ルルも教えているの?」


「いえ、私にそのような時間はないですね。道徳的なことは常日頃より教えるようにはしていますけどね」


 そういうことは建国後の俺の課題でもあるな……俺は義務教育を導入するつもりだが、今は良いか。それより、エリーを雇うなら従業員として大事なことをまず教える必要がある。


「エリー、もし雇うとしたら、エリーは間違いを正さないといけない。さっきの丁稚の話なんだけど、丁稚をエリーはダメと思っているようだが、本当は丁稚のその期間に仕事を教わるのではなく、自分で盗まないといけないんだよ」


「盗む?」


「うん。丁稚というのはね、賃金は安いけど店に住み込みで働くので、衣食住は保障されている。最初はどの店も雑用から始めるんだけど、3カ月も見ればその子にやる気が有るか無いか分かる。やる気がない子を店側も雇いたくはないから、その時点で普通はそういう子は追い出す。見込みがありそうな子は少しずつできそうな仕事を段階を踏んでやらせていくんだよ。1年も居れば店主が何をやってるかぐらい、ちゃんと見て聞いていれば分かる筈だよ」


「教わるのではなく、見聞きして店の仕事を盗むのですか?」

「うん。1、2ヵ月ほど居ただけで、丁稚には何も教えてくれないとか言ってる奴はそもそもダメなんだよ。教わる側の態度も大事なんだぞ。トルネオ商会に下級貴族の三男以下の人が丁稚としてくることがあるけど、その人たちはそういうことも最初から知っているので、貴族なのに自分から仕事をさせてくださいといって、きつい仕事も積極的にやってどんどん責任のある仕事を任されるようになる。そのうち仕入れやその日の閉めの勘定計算も任され、最終的に独立して自分の店を持つまでに成れるんだ。エリーの言ったような、教わる謙虚さがない人間を誰も雇いたくはないだろ?」


「はい……そうですね。お兄ちゃんの言う通りです! 教わる姿勢も大事なんだね……」


「まぁ、仕事の話はここを出てからゆっくりしよう。今回の目的はとりあえず俺かルルの種族レベル40だ。それで部位欠損の治療ができるようになるので、2人の欠損した部位を治してあげるからね。でものんびりやっていたら4日の間の期日に間に合わないので、これ以降は俺が先頭に立って狩ることにするね。皆は俺に遅れないように頑張ってついてきてね」


 当初の予定ではレベル50を目指したいところだったが、思ったよりダンジョン内では経験値が入らない。色々部位欠損してしまってるこの子たちの為に、なんとか試験までにレベル40になって治癒してあげたい。


「お兄ちゃん? 後をついていきながら、ドロップ品を私が拾えばいいの?」

「いや、その回収も俺がやるので、エリーはただ遅れないようについてきてくれればいいよ。ルルは足がなくなってしまっているカリーナをおんぶしてあげてくれるかな? ステータス的に子供一人ぐらい問題ないでしょ?」


「ええ、大丈夫です」


 ルルの筋力値なら、小さな少女1人おんぶしても余裕でついてこれるだろう。どちらかというと、問題は片腕のないルディと体力的に不安なエリーの方だな。


「お兄ちゃんについていくだけ? それだけで良いの?」

「うん。でもついてくるのも簡単じゃないよ……ついてこられる程度に抑えてあげるけど、頑張って走るんだよ。ルディは片腕がなくなっているので、重心がずれてしまってバランス感覚が今朝までと違うから転倒に気を付けるようにね」


 走る? と疑問形だったが……すぐに理解したようだ。



 地下2階のルート外から、より経験値の得られる階下を目指して進み始める。

 地下3階までは単体でしか魔獣は出ないので、MAPを見ながら最短コースで階下に繋がっている階段目指して走っている。敵が1体ずつなので、二刀ではなく太刀一本で切り捨てていく……ドロップ品は【自動収得】で回収する。地下10階まで降りてきたが、息を切らせてエリーはついてきた。 


「エリー、頑張ったね。ボス戦前に小休憩をしようか」

「ゼェ、ゼェ……はい……お兄ちゃん……凄すぎです……ドロップ回収とかどうなってるの?」


 息も絶え絶えながら、ポーターとして凄く気になったのか、聞いてきた。


「【自動収得】という俺のオリジナル魔法だよ。勝手にドロップ品は回収できるんだ」

「でも……2人が襲われていた時は、私に回収させたよね?」


 中々鋭い質問がきたぞ……頭の良い子は嫌いじゃない。


「このオリジナルの凄さは、さっき見たから理解できるだろ? あの時は知り合ったばかりのエリーに見せるべきじゃないと判断したんだよ」


「今は良いの?」

「エリーはルルの知り合いだし、悠長にやってたら期日内に帰れないからね。でも、このことは人に言っちゃダメだよ? 好意でエリーもパーティに入れてあげているんだから、秘密は守ってね?」


 普通ポーターはパーティーに入れないことが多い。人数割りで経験値が減っちゃうからね。ルディとカリーナはあの貴族に戦闘をさせるために買われたので、レイドパーティとして加えてもらって探索にきていたみたいだ。


 ルディがレベル15、カリーナがレベル14と、10歳にしてはレベルは高い。

 今日1日で3レベルずつ上げてもらったそうだ……大事にはされていたようだ。


 でも部位欠損が治っても返すのはダメだとナビーにダメだしされる……返したら、成長したらエッチなことをされるから、優しく良い奴でもナビー的にあいつは嫌らしい。

 じゃあ見た目10歳のサリエをキープしている俺はどうなんだって思ったが、今の見た目のサリエに欲情していないし、実年齢が16歳の成人女性だから良いのだそうだ……ナビーの基準がよく分からない。この子たちが成長したときに手を出したらめっちゃ嫌われるかもしれない。



 汗だくのエリーとルディに【クリーン】と【エアコン】魔法を掛けてあげ、火照った体の熱を下げてあげる。


「うわ~! 涼しい! お兄ちゃんありがとう!」

「ご主人様! ありがとうです!」


 なんかまたルルからキラキラした視線を注がれている気配がする……。


「ルディ、大丈夫そう?」

「はい……片腕がなくなったので、なんかバランスが変ですが、尻尾である程度調整できています」


「もう少しの間だけ我慢するんだぞ」

「はい。御主人様ありがとうございます」



 さて、10階ごとに階層ボスが出る……10階の階層ボスはオークの上位種だ。2階級上の上位種までしか出ないようなので、それほど危険はない。



 ちなみにオークの階級はこんな感じだ。

 オーク→オークソルジャー→オークナイト→オークジェネラル→オークキングの順番でより上位に位置する。間にオークプリーストとかオークアーチャー、オーククイーンなんかも入るが、このフロアででるボスはナイトまでということだ。


 今回ナイトが出現し、本日2回目のボス戦もサクッと終えた。



 でもな~、フルーツダンジョン?

 10階までの間、一切フルーツなんかドロップしてないのですが?

 ナイトとのボス戦のドロップ品は、魔石と10kgのお肉でした……上位種のお肉は美味しいから良いけどね。

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