3-81 ダンジョン内でも野営なんかしたくないです
10階の階層ボスをサクッと倒し終え、地下11階に降りる。
「ねぇ? この階段また上がったら階層ボスがまた出るの?」
「エッ? お兄ちゃん、階層ボスはダンジョンに入って各エリアにつき1回しか出ないよ?」
「でも次のパーティーが入ったら、また勝手に湧いて待機して居るんだろ?」
「うん。でも他のパーティーがボスの部屋に居たら扉は開かないから、上からきた人と、下から上がった人が同時にボスの部屋に入ることはないよ。だから、待機とかじゃなくて、中に入った時に湧くんじゃないかって言われているよ」
なるほどね。
MMOとかだと時間で何度も湧くので、階層ボスのみで経験値とボスドロップ品を狙うパーティーも結構いた……そのせいで順番待ちのトラブルも結構あったのを思い出す。
「一度降りて、また上って再度ボス部屋に入っても居ないんだね?」
「うん。目的のドロップがあって、ボスをもう1回倒したいのなら、一度ダンジョンを出て、またその階まで降りないといけないんだって。それに20階のボスは倒した後、暫くの間出ないみたいだよ」
再湧きに時間があるタイプか……10階は即時湧きのようだし、下に行くほど湧くまでの時間が長くなるのかな? ボスループで経験値稼ぎができないと分かったので、速やかに下層を目指すことにした。
11階を少し進んだあたりで、ルルが声を掛けてきた。
「リューク様、少し待ってください……」
どうしたのかなと思ったのだが、すぐに理解した。しまった……少し配慮が足りなかったな……。
ルディとカリーナが怯えているのだ……当然だ、ほんの数時間前にこの階で死に掛けたのだ。しかも生きたまま喰われるという、死に方の中でもかなりきつい部類でだ……思い出して震えているのだ。
カリーナはルルの背に顔をうずめてフルフル小刻みに震えている。
ルディも俺の後ろで、耳を寝かせ、尻尾を膨らませてまたの間に隠してガクブル状態で立っているのもきつそうだ。
「ルディおいで……」
俺はルディを抱き寄せお姫様抱っこで抱えてあげる。
ルディはすぐに俺にしがみつくように抱きついてきた。
俺たちが救出するまでの少しの時間に、余程怖い思いをしたのだろう……可哀想に。
「ご主人様……凄く良い匂いがします!」
さっきまで震えていたのに、俺の胸倉に鼻を摺り寄せるようにしてクンクン匂いを嗅ぎまくっている。さっきまでの震えが治まっている。
『……マスターの個人香が効いているようですね。ルルにも同じような効果があるみたいです』
『ルディよりカリーナの怯えがマシだったのはそのせか?』
『……そのようです。エリーも少し怯えているようですが、救出時のマスターの異常な強さを見ているので、獣娘2人より平気そうです』
ルディとカリーナはまだ本気の俺の強さを知らない……でも、終身奴隷の2人は俺に引き取られたので、どんなに怖くても付いてくるしかないのだ。
「2人とも怖がる必要はないからね。この階はルディを抱っこしたまま降りる。剣なんか使わなくても余裕だから大丈夫だよ。ルル、エリーを間に挟んで、この階はさっさと降りよう。16階まで下って、今日はそこでお泊りだ」
「はい、リューク様。エリーやルディたちに対してお優しいご配慮です」
11階はほぼ駆け足で次の階の階段まで一気に行った。12階でルディを降ろして、以降はまた俺の後ろを走らせている。ダンジョンは階を降りるごとに広さが増している……典型的なピラミッド型の特徴だね。
現在15階層だが、MAPを見ると野球場2個分の広さがありそうだ。
一応今日の目標は地下16階、次の階で本日は終了だ。ナビーのお勧めポイントまで、夜だがちょっと無理して進んだのだ。そして16階に降りて俺は驚いた……森だ……夜の森だった。
『……マスター、MAPに☆を付けましたのでそこに向かってください』
ナビーは階段を下って200mほど離れたところに印を付けた。
17階に下る階段とは逆方向で、MAP的にこの森では西の端の壁がある辺りだ。
夜の森はかなり暗いが、天井に月がなぜか出ていて、エリー以外は余裕で月明かりだけで見えている。
「お兄ちゃんたち、どうして真っ暗なのに進めているの?」
「エリーは見えてないようだね? よし目的地まで抱っこしてあげよう」
俺は【暗視】というオリジナルスキルがあるし、ルディとルルは【夜目】というのを持っている。カリーナは猫科だけあって、種族的に生まれつき【夜目】持ちだそうだ。猫って夜行性だしね。
暗闇の中でカリーナの目が怪しく2つ光っている……ちょっと怖い。
目的地に着いたのだが納得のいく良い場所だ。周りは大木で囲われ外部には見えない上に、片側は壁で魔獣も全く居ない。くるぶしぐらいの雑草は生えているが、10mほどの空間がポッカリと森の中に空いている。
『ナビー、良い場所だ。では早速試してみるかな』
「今から俺のオリジナル魔法を使うけど、驚いても大きな声は出さないようにね」
「「「はーい!」」」
「【ハウスクリエイト】召喚! ログハウス・タイプB!」
呪文なんか必要ないが、右手をかざしてそれっぽく言ってみた。詠唱と同時にサークル状の魔法陣が現れる。
魔方陣の色が赤だと召喚不可、青だと召喚可能だ。
で……何を召喚したかというと、ログハウス風の小屋だ。実際は、召喚ではなくて俺の亜空間倉庫から取り出しただけなのだが、小屋の大きさとはいえ、この大きさをポンと只出すのはマズいと思っての魔方陣での偽装なのだが……4人が呆けていた。
「リューク様……あの、これは何なのですか?」
「あれ? ルルはログハウス知らない?」
白々しくとぼけようとしたのだが、ちょっとだけルルに睨まれた。
「そんなことを聞いてるのではありません」
「これも俺のオリジナル魔法だよ。今日はこれに泊まるけど、入るためには個人認証が要るので、ちょっと血をもらうね」
玄関扉の横にあるプレートに、指先を少し切って数的ずつ血を垂らしてもらう。
ルルが即座に神聖魔法の【治癒】で子供たちを回復してあげていたので傷のことは安心だ。
設計はしたが、俺も始めて中に入るので色々見て回る。ログハウス・タイプBはタイプAよりこじんまりとしている。タイプAはフィールド用にしたため、馬車を2台納庫できる馬小屋を併設しているのでダンジョンの狭い通路には収まらない所の方が多い。
後、タイプAと違うところは、できるだけ小さくするために鍛冶場や連金工房がないのも特徴かな。いくら空間拡張できるといっても、無理をすればその分無駄なMPや素材をを使う羽目になる。ダンジョン内でも快適に過ごせる機能をギュッとまとめたのがタイプBだ。
さて、まずトイレかな……ルルとカリーナがちょっと我慢しているとナビーが知らせてくれたのだ。
「ここがトイレだけど、使い方はこうやって座ってするんだよ。そして用が終えたら、このボタンに触れると、魔力を3使って【クリーン】がトイレ内に発動する。体も服も、出したトイレ内の汚物や匂いも全部浄化されるから必ず忘れないようにこのボタンに触れて汚物を浄化してから出てね」
「リューク様! 【クリーン】が付与されているのですか!?」
「うん。MP消費は3だけだから、MP量の少ない獣人でも問題ないでしょ?」
「「はい、大丈夫です」」
「カリーナ、試しにちょっと使ってみて? 終えたら声掛けてね?」
我慢していたので、迷うことなくカリーナは了承した。
「ご主人様、終えました! これ凄いです!」
「椅子のように座ってできるので、片足でも大丈夫だったでしょ?」
「はい。しかもなんか髪や体もスッキリしています。汗なんかもなくなって、匂いも消えました」
「お兄ちゃん、私も使ってみたいです!」
「ご主人様、ルディも使ってみたいです」
エリーがカリーナのはしゃぎようで興味を持ったのか声を掛けてきて、ルディもそれに続いた。ルディは本来自分のことをルディって言ってたんだね……ここまで私って言ってたが興奮してつい地が出たのかな?
「勿論使っていいけど、先にルルが入ってみようか?」
「あぅ……リューク様、気づいていたのですね?」
「何のことだい?」
「いえ、ありがとうございます! 行ってきます」
カリーナを抱っこして外に出したら、ルルが飛び込むように入っていった。
「ルル様、我慢していたんだね……」
「エリー、そういうのは知らん顔してあげようね?」
「お兄ちゃんは優しいね」
「「ご主人様は優しいです」」
恥ずかしそうにルルは出てきたが、それ以上にトイレの機能に喜んでいた。
「このトイレはもうすぐトルネオ商会で商品化されるから、それまで秘密にしてね」
「「「はーい!」」」
このログハウスの見た目は小屋だが、中に入ると空間拡張で結構広い。2PTを想定して設計してあるので、4人部屋が四部屋ある。
寝るためだけの10畳ほどの4人部屋4部屋に、20畳ほどのリビング、魔石を利用した3口コンロがあるシステムキッチン。1PTが一緒に入れるほどのサウナ付浴場。勿論脱衣所にはマッサージ台を1つ置いてある。
「次はお風呂に行こうか。ルディとカリーナは介助が要るので俺が入れるけど、エリーはルルが入れてあげてくれるかい?」
「「「お風呂!」」」
この世界ではたとえ貴族でも早々お風呂には入れない。
ルディたちを買った貴族の少年の実家は伯爵家……だが、週に1回程度しかお風呂は入っていなかったようだ。
どちらにしろ終身奴隷の獣人2人は勿論お風呂に入ることは許されないけどね。同じ浴槽を利用できるのは侍女までで、端女や下女は残り湯を貰ってタライで清拭するのが一般的だ。
孤児院では入浴は週に一度で、後は清拭だ。実際週一でも良い方なのだ……一般家庭だと、結婚式や誕生日、何かのイベントがない限り風呂屋に行くことはない。
神殿は入浴に関しては例外で、特にルルは身を清めるという意味もあり、毎日入る義務があったので一般とは少し違うかな。『禊(みそぎ)』とかいう行為だね。
年齢的に恥ずかしがるかと思ったが、獣人2人は躊躇することなく服を脱いで早く入りたそうにしていた。
サリエより膨らんだそれは、日本だとアウトだ!
これくらいの幼女を他人の男がお風呂に入れていたら、即座におまわりさーん! と叫ばれるだろう。
「「アワアワです! うわ~気持ち良いです!」」
「前のほうは自分で洗うんだぞ。ルディの頭は俺が洗ってやるな」
「あぅ~ご主人様、気持ちイイです……」
「ルディ……いいなぁ」
「うん? なら、カリーナも洗ってあげようか?」
「はい!」
この2人は奴隷商に売られてまだ日も浅く、奴隷教育を少ししか受けていないようで、こうやって素直に甘えてくる。サリエが聞いたら、奴隷は主人と一緒に入らない! と、言いそうだ。
「お兄ちゃん! 私も一緒に入る!」
そう言ってエリーが突入してきた……この子もか……ルルが慌てて止めていたが、間に合わなかったようだ。貴族との接し方をあまり知らないようだな……俺は別に良いのだけど、周りが許さないだろう。現にルルはエリーに対してお怒りモードだ。公爵家のご子息の入浴中に入っていくとか、死刑ものだと入浴後にエリーに説教していた。
『……うふふ、本当はルルもマスターと一緒に入りたいのを我慢していたので、余計にエリーのことが腹立たしいのでしょうね』
『まぁ……流石にルルはマズいね。ルディたちに欲情はしないけど、ルルはちょっとね……』
フィリアもそうだが、聖属性や水属性の女性は立派な胸をお持ちの方が多いのだ。
ルルはフィリア同様早熟なのか、14歳の癖に歩くだけで揺れているのだ……あれを見て興奮しないとか男じゃないよね。
子供たちは入浴後のリビングで俺の特性シャンプー・コンディショナーを使って、髪がサラサラになったのに驚いていたが、バナナオレとバニラアイスを出してあげたらそのことも忘れて大喜びしていた。
ダンジョン内でも快適に過ごせるのは良いよね。
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