1-28 首謀者はラエルの従者という事になりました
ラエルとの決闘から現在3時間が経っている。
間で昼食を摂ったが、ラエルの今後が気になって食欲はあまりなかった。
アリア様……ただ異世界ライフを楽しみたかっただけなのに、死闘までさせられるとは思っていなかったですよ。ちょっと酷くないですか?
『……マスターの行動の結果なので、女神様に文句言うのはどうかと……』
『まぁそうなのだろうけど。殺し合いは流石にね……文句の一つも言いたくなるよ』
本館に行き、父様と叔父様、ガイアス隊長にサリエと俺で事の詳細を説明する。
女神様からの情報として、10歳のあの社交デビューの挨拶時にラエルがフィリアに一目惚れしたことも叔父様に教えてあげ、その時からず~と悩み苦しんでいたことも伝えた。そこにカスタルが近づき甘い甘言でラエルを唆したのだ。
「フィリア以外ならどうにかなったものを……」
これはゼノ父様の意見だ。自分がかつて公爵家の威光でフィアンセのいるアリア母様を奪っているのだから、実際可能なのだろう。
【無詠唱】のことや、急に強くなっていることを色々聞いてきたが、女神様との約束で言えないとまたごまかした。
「また女神様か……どんなスキルなのかは?」
「はい、内緒です」
「むぅ~、隠し事は気に入らんが、女神様の意向なら強く言えん。それにしても随分サリエが懐いているようだな……あの人見知りの激しい子とは思えないほどだ」
「父様には感謝しています。とても良い侍女です」
「そうか、じゃあこのまま学園もサリエのままで良いのか? 事件が解決したのだ、執事の方に変更しても良いのだぞ? 成績自体は彼の方が数段上だしな」
父様はバカだ……サリエから物凄い殺気が父様に放たれた。
「待てサリエ! そんな今にも殺してやるみたいな殺気を放つな! 凄い殺気だな……」
「父様、暗殺者の方はまだ捕らわれていないのです。万が一もありますし、サリエは戦闘以外でも優秀です。言葉遣い以外では文句はないので、このままサリエを侍女として連れて行こうと思います」
「ふむ、分かった」
「学園なのですが、僕が【テレポ】を習得しているので一度俺だけ王都に【テレポ】で連れて行ってもらえないですか? そうすれば後は僕が全員学園に送ることができます」
女神様のスキルの恩恵で【テレポ】を獲得したとごまかして、パーティーでの転移も可能だと要約して伝えた。
明日は事後処理でごたつくみたいだが、検証も兼ねて明後日の午前中に俺を王都に一度転移させてくれることになった。大人数でのテレポ移動が可能なら、皆、入学式に間に合うからね。
事件が解決したので本館の自分の部屋に戻れと言われたが、今晩は一人になりたいと西館に泊まる許可をもらった。だって西館だとサリエと二人で居られるからね。
父様と叔父様がラエルの処遇について話し合った結果だが、ラエルは可哀想だが決闘の末死んだものとされ、人知れない地で幽閉されることになるそうだ。カスタルだが、1時間もしないうちに全て自白したようだ。
汚い話だが、カスタルが主犯としてこの件の責任を全て負うことになっている。公爵家の不始末をもみ消したことになるが、多少の噂は流れてしまうだろう。
俺は現在父様から解放され、西館の自室でサリエと二人でテーブルに向かい合ってお茶を飲んでいる。
「ん、リューク様大丈夫?」
「正直参っている……」
「ん、リューク様が勝ったのだから、もう忘れよう」
「そうだね……」
『……マスター、面倒な人たちが来ました』
『面倒な人?』
『……フィリアとナナです。ゼノがついうっかり決闘の事を教えたようで、犯人が従弟のラエルと知ったナナが詳しい事情説明を求めて訪問してきたようです』
『確かにそれは面倒だな……』
彼女たちは俺が中身が別人だと疑っているのだ……あまり今は会いたくない。
「リューク様こんにちは。ゼノ様に決闘をしたと聞いたものですから、心配になっていても立ってもいられなくなってきちゃいました。見たところ怪我がなくて安心しました」
「また心配かけちゃったね……ごめんね」
「いえ、こちらこそ急に訪問してごめんなさい」
「兄様、怪我がなくて何よりでした。それとどうしても聞いておきたいことがあります」
「ああ、いいよ。ラエルのことでしょ?」
事情をある程度知っているフィリアには口止めしていたからね……。
「はい。兄様、どうしてラエルが兄様を暗殺しようとしたのでしょう?」
今、父様たちは事後処理でバタバタしている。周りにいる騎士たちには事の真相は詳しく知らせていない。どうしてラエルと死闘になったのか知りたくて直接聞きにきたのだろう。ナナはついさっきまで暗殺者を差し向けたのがラエルということすら知らされていなかったのだ。
それと父様はフィリアに決闘の理由を言うのを躊躇したようだ……当事者だからね。
「ラエルはフィリアに横恋慕したみたいなんだ。それで僕を事故として暗殺して、後釜に自分が婚約者として名乗り出るつもりだったみたい。公爵家からの婚姻の申し出を子爵家のフィリアの家格では断ること自体不敬と見られるからね」
「フィリアに気があるのは知っていましたが……まさかこんなことをするとは……ラエルのことはとてもショックです。ですが、兄様を殺そうとしたことは許せそうにありません!」
目に涙をためてナナが言ってくる。兄ラブなナナからすればそうだろうね。
「今後ラエルは決闘で死亡扱いになる。だから多分もう二度と会えない。どこか遠い違う土地で監視の下ひっそり余生を送ることになっている。二人もそのつもりでいてね……公爵家のスキャンダルだから、王家にも迷惑が掛かるので口外無用だよ」
「「分かりました……」」
彼女たちもリューク君と一緒にラエルとよく遊んだのだ、悲しくないはずがない。
でもラエルはもう死んだことになったのだ……これ以上話すことはない。
「兄様、先ほど実家に寄ってセシア母様に会ってきました。別人のように顔色も良く驚きました。ナナの足の事を知っていたので動かして見せたら、凄く喜んでくれましたよ」
「そうか、それは良かった。さっき父様に子供を作って良いか聞かれたよ」
「兄様は何て答えたのですか?」
「勿論良いよって言ったよ」
「そうですか。セシア母様も子供ができたら嬉しいでしょうね」
「そうだね。ナナのような可愛い妹がもう一人ほしいな」
「う~~~ん、兄様の妹はナナ一人だけでいいです! ナナは弟がほしいです!」
「子供で思い出しましたけど、わたくし10歳の子供の頃にゼノ様に酷いことを言われましたのよ」
「父様はフィリアに何て言ったの?」
「『可愛いだけで取り柄のないお前に才あるリュークは勿体ない』って言われましたの……だから私は神殿に通って聖魔法を頑張ったのです」
「父様、フィリアにそんな酷い事言ったの?」
「うふふ、酷いでしょう? 今ではお互いにその時の事を笑って話せますけどね」
フィリアとナナは俺を気遣って、世間話で気を紛らわせようとしてくれているようだ。
自分たちもラエルのことは辛いだろうに……有難い気遣いだった。
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