1-29 ナナとフィリアの本心を聞きました
フィリアとナナが来てるのだが、緊張で変な汗が出てくる。
いつばれて糾弾されるかと思うと胃がきりきりしてくるのだ。
「ところでリューク様、犯人が捕まったので学園の従者は執事にされるのですよね?」
フィリアの発言でサリエの耳がピクッと反応した。
「いや、このままサリエにお願いすることにしたよ」
「ですが兄様、学園は男子寮と女子寮に分かれているため、普通は男子生徒は執事を、女子生徒は侍女を連れて行くのが通例ですよ」
「侯爵以上の貴族には従者用の小部屋が隣に付属してるし、個人用のお風呂やトイレも部屋に備え付けられているから、結構侍女を連れて行く人もいるそうだよ」
「でも男子寮の中に女子が居るのはやはりどうかと思うのです。それにサリエちゃんにとっても変な噂がたったら将来婚姻の妨げになるのではないですか?」
「ん、私なら問題ない」
「回りくどいのは嫌だからはっきり聞くね。ナナとフィリアはサリエが僕の侍女になるのは反対なのかい?」
「「はい」」
二人同時に拒絶の意志をはっきりとした。
前髪で表情はうかがえないが、萎れた耳を見る限りではサリエはとても悲しそうだ。
「何か反対する理由があるのかな?」
「兄様がいけないのです! 言っておきますが、サリエちゃんは可愛いから個人的には嫌いではないのですよ」
「そうです! リューク様がいけないのです!」
「昨日は僕の事別人扱いしてたのに、随分今日は態度が違うじゃないか?」
「正直未だに違和感はありますが、リューク様はリューク様です! 随分仲がよさそうなので、サリエちゃんに取られちゃわないように今のうちに遠ざけてしまった方がいいと二人で判断しました」
「兄様の態度でサリエちゃんへの警戒指数MAXです!」
「昨日ナナはフィリア以上に僕の事受け入れないって感じだったじゃないか」
「今でも3割ほど別人格入ってると思っていますよ?」
「はぁ? じゃあ別にサリエのこと邪険にしなくていいだろ?」
「分かっていないですね兄様は、7割は好きなのですよ? 残り3割の違和感はありますが、嫌っているわけではないのです。じゃあその3割の違和感を好きになれるかどうかでしょ?」
「わたくしは以前のリューク様のことは心底好きでした。今のリューク様は正直8割ほどです。2割の違和感は記憶が完全に戻れば治るかもしれないのでしょ? ですがもし治らなかったとしても、ナナの言うとおり好きになれるかもしれないのです。どうしてもその違和感の2割の部分を好きになれないなら、その時は婚約破棄させてもらいます。一度腹を括ればちゃんと今のリューク様と向き合えることができるようになりました」
「うーん、お前たちの言ってることは正直よく分からない」
「ナナは頼りない部分の兄様がちょっとカッコ良くなったとも思えるから全否定はしないつもりだよ。だからサリエちゃんはナナたちにはとっても脅威なの」
俺を糾弾しにきたのかとも思ったが、ターゲットはサリエのようだ。
ラエルの件を悲しんでいるのは泣き腫らした目を見れば一目瞭然なのに、サリエを排除しにくるとか、女心はさっぱり理解できない……。
俺の可愛いサリエにあんな顔させて……どっちか選べと言われたら、今の俺だとサリエを選ぶぞ。
リューク君と入れ替わった時にでも彼が土下座でも何でもしてフィリアに許してもらうといい。
「ん、私はリューク様の侍女になるの諦めた方がいいの?」
「サリエが辞退する必要ないよ。僕が必要としてるんだから他者がどう言おうが関係ない!」
「兄様、可愛い妹に向かって他者呼ばわりはあんまりです!」
「そうですよリューク様! わたくしは婚約者ですよ! 他者じゃありません!」
この二人めんどくせ~! 可愛さは最上級なだけに尚悪い。
美人耐性のない俺は彼女たちの扱いに困るのだ。
「ナナ、この際はっきりさせておこうか。僕はナナとどうこうなる気は一切ない! これは前からず~~っと言ってるよね? それとフィリア、ナナを煽るの止めてくれないかな? 君はナナと僕が本当に男女の関係になっても良いのかい?」
「……リューク様は次男です。カイン様が家督を継げば、公爵という肩書は外れてしまいます。公爵なら家督を継がせる子が要る為に妻を最低でも2、3人娶るのが普通ですが、リューク様のお嫁は1人でも良いのです。わたくしがしっかり子を産めばいいからです。ですがリューク様のそのヒーラーとしての才を考えれば間違いなく周りの圧力がかかるのは目に見えています。下手をすれば4人ほど妻を娶れとゼノ様やカイン様が圧力を掛けてくるかもしれません。只の種馬です。そこでナナと協定を結んだのです。ナナを第二夫人にするのを認める代わりに、それ以降を全面協力で阻止してくれると……悩みましたがナナなら我慢できます」
「ナナが第一夫人になりたいという想いもあるけど、フィリアにはとても敵わないの。兄様の水系回復魔法とフィリアの神聖系回復魔法が合わさった子が授かったらと思うだけで期待感は計り知れないからね。父様も今のフィリア以外、正妻は考えられないでしょう。それほどフィリアは頑張って聖女と言われるような努力をしたのよ。だからと言って兄様のことは諦めきれないから、フィリアに縋って第二夫人でもいいから私を側においてと請うたのよ。正直ラエルの気持ちも今なら凄く分かるわ。どうしても諦めきれないという強い想いは私も一緒なんだもの」
「半年ほど前、父様がわたくしに第二王子の妃になる気はあるかと聞いてきたことがあるのですが、よくよく聞けば、国王様自ら内密に打診してきたようなのです」
「フィリアのお父さんに国王自ら?」
「その話はナナも初耳だけど、フィリアどういうこと?」
国王が子爵家に直接打診するようなことではない。
家臣が一言伝えれば済むような話なのだ、娘を献上しろと。
「う~ん、誰にも言うなって言われていましたけど、しょうがないですわね。殿下がわたくしに少し気があるようなので打診してみてくれって国王様がこっそり父様に言ってきたようなの。勿論ゼノ様のような何が何でもと言うような圧を掛けてきたわけじゃないようで、父様はわたくしに結論を委ねてくれたから、丁重にお断りしたわ。殿下はこのような話がこっそり行われたことすら知らないし、国王陛下もわたくしたちの関係は十分承知しているそうで、強引に奪ったら弟のゼノに何されるかわからんから聞くだけ聞いてくれと言ってきただけのようでした」
「え~と、フィリア? その話が兄様の話に何の関係があるの?」
「リューク様に余計な心配かけたくなかったからこのことは黙ってましたけど……公爵家だからと言って、私を確実に手元におけると安心しきってほしくないということです。王家が本気で動いたら、子爵のわたくしの家じゃ従うしかないのですよ」
俺の質問に対しての答えが何やら迷走中だ。この二人は俺をどうしたいのだろうか?
「僕の質問に対しての答えは、フィリアはナナが僕と男女関係になるのは容認するってこと? そしてナナは、僕と男女の関係になって第二夫人になりたいという考えでいいんだね?」
「「はい!」」
また二人同時にはっきり言いきりやがった!
俺もごまかさずに答えるしかないよな。
俺の気持ちは抜きにして、リューク君の記憶からの気持ちで二人には答えよう。
「フィリアのことは何度も言うけど大好きだ。16歳になったら正式に婚約を申し込むつもりでいる。学園卒業と同時に結婚するつもりだよ。もし王家からそういう話がきて、フィリアと引き離されるようなことがあるなら、僕はこの国を捨ててフィリアを連れてどこかの国に亡命するよ。お互いにヒーラーだからどこに行ってもお金に困る心配はないからね。そのくらい好きだと思っている」
「嬉しいですわ! はい! どこにでも着いてまいります♡」
「そしてナナ、ごめん。お前と男女の仲になる気は一切ないよ。妹として愛してはいるけど、子作りをしようとは思えないんだ。それからサリエのことは可愛くてしょうがないとは思ってるが、女性としては見ていない。見た目はまだおこちゃまだからね」
「ん、ある意味凄くショック! 私はこれでももうすぐ16歳!」
「ナナはこんなに兄様のことを好きなのに! どうしてですか!」
「そのことなんですけどね。以前のリューク様なら本当にナナのことを全く異性として見ていなかったのですけど、昨日のリューク様の反応がどうしても気になったのです。ナナのおっぱいを見てドキドキしていましたよね?」
「えっ! そうなの? フィリアから見てそう見えたの? 今までそんな素振りを見せたことなかったのに?」
「ナナはひょっとしたら他人なのかと疑っていたので、恥ずかしがってリューク様から視線を逸らしていたので気づかなかったのです。リューク様は顔を少し赤らめ、目が泳いでいました。間違いなくナナのおっぱいでドキドキしていました」
俺のことを疑って見てた分、余計にバレていたみたいだな。恐ろしい子。
「それってやっぱり記憶の障害とかいうやつのせいなのかな?」
「多分そうじゃないかな? わたくしには詳しいことは分からないよ。でもナナにとってはある意味チャンスなんじゃないかな? 記憶が戻ったら第二夫人になれる可能性が以前の状態になっちゃうよ。以前のリューク様に戻ったとしてナナに第二夫人の可能性ある?」
「ないかもしれない……兄様の愛は感じられたけど。異性に向けるような目は一度も感じたことないの。一緒にお風呂に入ってもらって、どんなにアピールしてもサラッと笑ってはぐらかされるの」
「多分今のリューク様がサリエちゃんに向けている感情はそのようなものなのかもしれないですね。あまりサリエちゃんを邪険にしなくても良いのかもしれません。警戒し過ぎたのかもしれないですね。余談ですが以前に矢が頭に刺さって診療所にきた人を治療したことがあるの。普通なら頭に矢が刺されば死んじゃうのだけど、その方は運よく助かり、怪我自体はわたくしの魔法で完治しました。けど、記憶が一部失われたようなの。わたくしにはその辺は分からなかったのだけど、家族が言うには別人のように優しくなったって言ってたわ。お酒も飲まなくなって、暴力的なことも一切しなくなったって……」
「では、兄様も頭を打って性格が変わったのかもしれないのですね?」
「ええ。そういう可能性も有るというお話ですわ」
「二人の気持ちは分かったけど、サリエは侍女として学園に来てもらうからね。フィリアが4年間頑張って努力したように、サリエは8年間も頑張って、侍女の座をやっと手に入れたんだ。お前たちの身勝手な感情のせいで8年間の努力を無駄にさせたくない。サリエの能力が足らなくて文句を言うのならともかく、恋のライバルになりそうだからダメとか、サリエに対してあまりにも失礼だ。そんな理由流石の僕も認めないからね。それにまだ僕を最初に狙った暗殺犯は捕らえられてないんだ」
「え!? そうなのですか? まだ命に危険があるのですか?」
「ラエルの話では、前金プラス成功報酬ということらしいから、父様の言い分ではお金を払う大元の雇い主が居なくなったのだから、再度の襲撃はないだろうと考えているみたいだけど、絶対ないとも言い切れない。暗殺者の中には暗殺失敗という汚点が付かないように、お金抜きでも一度受けた依頼は完遂するまでしつこく狙ってくる輩も稀にいるって話だからね。サリエは絶対必要なんだ」
「それならそうと早く言ってくださいまし。無理にサリエちゃんを引き離そうなどとしなかったですし、このような話も致しませんでした。おかげで今後サリエちゃんと気まずいではないですか」
「お前たちに変な心配をかけたくなかったし、サリエに嫉妬心を抱くとも思ってなかったんだ」
「はぁ~、サリエちゃん。今更厚かましいお願いだけど、リューク様のこと、死なせないように守ってあげてね。もうあんな悲しい思いだけはしたくないの」
「ん、任された。頑張る」
「サリエちゃん、ナナからもお願いするね。もう兄様は安全なのかと思っていたのに……兄様、もう死なないでね」
「ナナ、一度帰ってもう一度話し合いましょう。わたくしはどうこう言っても安泰のようですけど、ナナにとっては今が唯一のチャンスのような気もします」
「うん、ナナもそんな気がしてきた。はぁ~私って妹以上にはどう頑張っても見られてなかったんだね……今しかないのかな~。もう、フィリアしか頼れないからお願いね! ナナを裏切って見捨てないでね?」
「もう、ナナらしくない……なに、弱気になっているのですか」
「お前たち、堂々と僕の前でなに不穏な話をしてるんだよ。それから、後で父様から話がいくと思うけど、学園に明日の午前中に転移魔法を使って行くことになると思うので身支度だけはしておいてね」
「その話は一応もう聞いています。荷物は先に送っていますので、身一つだけです。転移魔法なら尚更持ち物は極力減らさないといけませんからね」
「旅立つ気構えと、暫く王都だから親しい人にお別れをしておくといいよ」
二人は帰ろうと部屋を出ようとしていたが、フィリアが最後に振り返ってこう言った。
「リューク様、ギュッてしてくださいまし」
俺は以前リューク君がしていたように優しくフィリアを抱きしめた。
ナナも車椅子から立ち上がって、俺にしがみついてきた。
「ふぅ~、やはりナナのチャンスは今だけですわね……」
「そうみたいだね……複雑な気分だけど」
「なんだよ二人とも!」
「兄様お顔が真っ赤です」
「ナナにもドキドキしてるのがまる分かりです」
「お前たちが可愛すぎるからだろ!」
一緒に居られるのは明日一日だろうが、邪険にされることがなくなったので気分は少し晴れた。
現在午後3:15分。ギルドに行ってお金を受け取り、ジュエルの犯罪履歴を消しとくかなと今後の予定を思案するのだった。
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